同行
『子供…?』
何度目かの肉を焼いて食べていると、人間の少女が現れてそう呟いた。
仕切りに獲物とワタシを見比べて、何か言いたそうにしている。
ちなみに今は鎧を着ていない。疲れたのもあるが、火を扱う時に暑いからだ。
一見したらただの金髪美少女だろう。
獲物には明らかにこの場で捌いたと思われる跡がある。
焼いたとは言え、その場で捌いた肉を貪り食う美少女。口には食べてるうちに血のついた跡もある。なかなか猟奇的な光景だ。
「あら…あなたどうしたの。血だらけじゃないの」
ワタシではない。現れた少女の方だ。
もしかして馬車で連れられてきた中にこんな子がいたのかしら。あんまり覚えてないのよさ。
身体には返り血がべっとりついていて、若干黒くなってきているのがわかる。
「え、これ血なの?!」
少女は今気付いたと言わんばかりに驚いた。変な子。
少し警戒しながら、口元を拭って、少女の元に寄る。
この光景を見てるのに怖がるわけでもなく、ぼんやりしてるように見える。どこか壊れてる子供なのかしらね。
「ふーん…怪我はしてないようね。こっち来て座ったら?」
少女は大人しく近くの岩に腰掛けると同時にお腹を鳴らした。
「お腹が空いてるの?」
暫く躊躇っていたが、少女はコクンと頷いた。
「じゃあ、ちょっと待ってるのよさ」
少しため息を吐いて、肉をさらに追加で焼いて、少女に渡す。
「ほら、食べなさいな」
「ありがとう」
少女は丁寧に礼を言うと、ゆっくり肉に齧り付いた。
口に入れた瞬間の表情は微妙だったが、よほどお腹が空いていたのか、水がないので食べにくそうにはしつつも、そのままガツガツと追加で渡した分の肉も食べてしまった。
「本当にありがとう。早々に餓死せずに済んだわ」
食べ終わって人心地ついたのか、少女は少し砕けた口調でそう言ってきた。
「食べるついでだし、多少はいいだわさ。それで、あなたはこんなとこで何してるの?」
食べながらなるべくサラッと聞いてみる。
「わからないの。ねぇ、ここどこなのか教えてくれない?」
肉にかぶりつきながら、半眼になりつつ少女を眺める。
まあでも、嘘をついてる感じじゃないんだよねぇ。
「正直ワタシにもわからないさね」
そう答えると、彼女はあからさまにガックリと肩を落とした。
それからしばらく話をしたが、どうやら少女は記憶喪失?混濁?のような状態になっているらしい。
らしい、というのは本人もよくわかってないからだ。
こちらの事情も説明した。
攫われてきた話をしたら心底驚いていた。まあ逃げ出すのは簡単だったんだけど。
獲物を倒したエピソードは割愛した。
こんな美少女が殴り倒したなんて言っても信じないだろうし、たまたま魔物同士で戦ってたのを見つけて、負けた方の肉を食べてたことにした。
さて、この後はどうしようかね。
この子放置してくのは簡単なんだけど、なんだろうこの子、幸薄そうと言うか、ほっとけない感じがあるのは…
「水探しながら、人里探そうと思ってるんだけど、アナタもついてくる?」
気がつくと口からそう出ていた。
少女はびっくりしながらも、
「お願い、同行させて」
と即答した。
「あなたの自分の名前は覚えてる?ワタシはアリサ」
「私の名前は…玲子」
レーコね。
少し変わった名前だけど名前だけは覚えていたようでなにより。