ユマ
もうすぐ16となる。 年齢で明確な定めがある訳ではない。慣習として、その年で村を旅立つものが多い、という点においてユマはそれを踏襲するつもりでいた。
別にいかなくてもいいんだけどね。
「よっ,ユマちゃん。おはよう!今日も早いねえ」
ご近所さんに声をかけられる。
おはようございます、と返事を返しながら、先ほど森のなかで見た光景を話そうとする。
「あの…」
『おーい,メシまだかー?』
「うっさいわね!いま準備するから茶碗ぐらい並べときな!このやくたたず!」
『お,おぅ。。』
家の中から聞こえてきた声に大声で怒鳴り返したおばさんはそのまま,ドカドカと家の中に入っていってしまった。
標高の高い山と海に挟まれたこのトランという村は,厳しい気候で人口は少ないながらもその土地柄、山の幸・海の幸に恵まれ,宿泊地としてそこそこ有名である。
王都から北方にだいぶ離れた辺境の地であり,冒険者がくることは少ないが,訪れたことのあるものには概ね好評で,中には食事があまりに美味しいことに感動し、旅する事を辞め、そのまま住み着いてしまった者もいるという。
もっとも,本格的に冬になると雪にまみれて移動そのものが困難になるため,その不便な生活に慣れることができなかったものは元の土地に帰っていく。
ユマはそんな村の中で育った見習い僧侶である。
村内にちゃんとした教会はなく、村にある宿屋の一つが小さな小屋を教会代わりに提供している。
ちなみにその宿屋も僧侶が兼業している。というか宿屋が僧侶も兼業している,といった方が正しいのであろう。そして、その宿屋(兼僧侶)は彼女の師匠でもある。
その師匠は、一度引退した身。実際は修行というより、学業以外では教会の雑用をこなしながら見守られて生活してきた、というのが実態である。
ユマはお師匠さまのところに急いでいた。
先程森の中で見た光景を話すためだ。