犯人糾弾!
「こ、氷…!」
「氷が凶器だと考えれば、部屋に血飛沫が飛んでいない理由もわかります。氷が栓になって血を抑えていたからです」
凶器が引き抜かれたのにも関わらず、血痕がなかった理由。
その本当の理由は、凶器が引き抜かれていなかったからだ。
「時間が経ち、氷が融けて血が流れ始めましたが、血溜まりになるほど流れなかった… これが答えでしょう」
さらに、昨日のご主人の部屋はかなり熱気がこもっていた。1時間もあれば凶器は完全に融けきっただろう。
「…さて!ここまで来れば推理は簡単です。犯人は『人を殺せるほど大きい、鋭く尖った氷』を準備できる人物です」
この暖かい季節に、そんな凶器を作れたのはどこか?
「この屋敷でそんな物を作れるのは… 食材を保管している調理室くらいではないでしょうか? 」
「…そうですね、そこ以外に氷を管理している場所はありません」
執事さんの助言もあり、氷の凶器が作られたのが調理室だと断定される。
それにより、容疑者を絞りこめる。
「8時までに調理室に入った人物は2人、執事さんと召使いくんです」
「そのどっちかが犯人…?」
だが、この2人に犯行は不可能だ。
「まず、執事さんは容疑者から外れます」
「何故ですの?」
「単純な話… 氷の凶器は融けるからです。調理室から出した氷の凶器を18時から20時まで持っておくのは不可能でしょう」
「な、なるほど…」
更に言えば、私は執事さんが嘘をついているとは思えない。
何故なら、執事さんが召使いくんに水のことを命令したからだ。
もし、命令しなければ20時に召使いくんがご主人と話すことはなく、死亡推定時刻は18時から21時まで伸びていた。
執事さんが犯人ならわざわざそんなことをする必要がない。
この2つの理由により、執事さんは容疑から外れるだろう。
「そして召使いくんにも犯行は難しいでしょう」
「…それは、何故かしら?」
「召使いくんがコップを返しに行った時の証言です」
「また水なのね…」
そう、お姉さんの言う通り、この事件の鍵はまさに『水』なのだ。
「コックくんが20時直後に調理室にいなかったことを知っている。つまり、犯行があった20時直後にご主人の部屋で犯行を行うのは不可能なのです」
召使いくん以外、コックくんが20時直後にいなかったことを知っていた人物は存在しない。
誰かから聞き出すことも不可能だったはずだ。
「20時にチュウが本当は水を届けていて、その時にお父様を殺した可能性はありませんの?」
「召使いくんが嘘をついている可能性は低いです」
理由は召使いくんの証言の中にある。
「20時にご主人を殺したことを誤魔化そうと思ったら『部屋に入ってご主人と顔を合わせた』と嘘をつくでしょう」
だが、実際に召使いくんが語った証言は違う。
「召使いくんは『ご主人様と会話をしたが、顔は合わせなかった』と証言しています。嘘をついているにしては中途半端です」
「なるほどね…」
…実は、召使いくんには犯行が不可能な理由はもう2つある。
1つはこの後に話す、氷の凶器を使うにあたって、発生する問題のこと。
…もう1つの理由は、最後の切り札だ。まだ話すことは出来ない。
「じゃ、じゃあ誰がご主人様を! 」
「…答えは、1人でしょう?」
…そもそもの話。
調理室には門番くんがいたはずだ。
門番であるコックくんの目を盗んで凶器となる氷を作り、持っていくのは難しいだろう。
…ある人物を除いて。
「氷の凶器を持ち出せた唯一の人間…」
私は、その人物に指を突きつけた!
「そう、君が真犯人だろう… コックくん?」