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異世界転移名探偵 ~快刀乱麻に事件を解決~  作者: 春華
ウィンク屋敷殺人事件
7/13

異世界・オン・ステージ

幸い、誰にも見つからずに2階のご主人の部屋にたどり着くことが出来た。

やれやれ、階段からわりと距離があるなぁ。

屋敷の主人はトイレに行くのが大変だっただろう。


私は扉の前の床に膝を付く。

…メイドくんの証言通り、おかしな所はない。

掃除が行き届いているのだろう。ゴミ1つ落ちていないな。


…扉を開けて、ご主人の部屋に入る。

明るいうちに部屋の中に入ったのは初めてだ。

昨日とは違って、部屋の中は汗が流れるほど暑くはなかった。

…それ以外に、部屋の中に違いはない。

部屋は荒らされた様子もなければ、血溜まりも血渋きもない。


ここで『水属性の魔法』とやらを放っていたはずだが、床のカーペットには濡れていた痕跡は全く残ってない。

気絶する直前、跡形もなく消えたように見えたが、見間違いではなかったようだ。

やれやれ、魔法とやらは超技術だな…


ご主人の死体を観察する。

服装は乱れていない。やはり抵抗する間もなく殺されてしまったのだろう。

そして、背中の傷以外に目立った傷はない。やはりこの傷が致命傷だろう。

…確かに傷のまわりの服が、水が乾いたような跡で依れているな。

そして、鋭い槍のような物が突き刺さったような傷痕… やはりナイフが凶器ではないようだ。


ふむ… 私の推理は間違っていない。

あとは、残りの10%…

…やはり、痕跡は見当たらないな。


さて、これでメイドくんの証言の確認も取れた。

推理は完成したと言えるだろう。


…廊下からバタバタと足音が聞こえてくる。

ずいぶんと早いご到着だ。


「見つけました!」

「この殺人犯め!」


扉が勢いよく開けられ、執事服の老人と、コック帽を被った初老の男が部屋に飛び込んできた。

どちらも見覚えのある顔だ。メイドくんの話から推測するに、ブライトさんとサウスくんだろう。

…私は、腰のホルスターに手を伸ばす。

最後の最後まで、銃を使うのは待つべきだが…


「逃げようったってそうはさせねぇぞ!『アクア・イル…」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


メイドくんが私とコックくんの前に割り込んでくれた。

…危なかった。銃を使っていたら、ただでさえ低い私の心証が更に下がっていただろう。


「サンディさん!何故、犯罪者を…」

「ち、違うんです!彼の話を聞いてください!」


メイドくんの必死の説得で、執事さんとコックくんは戦闘態勢を解いた。

おお… メイドくん、ファインプレーだぞ。


「何があったんですの?」

「………」

「さ、サンディ?どうしたんだよ?」

「…で?俺は誰を連行すりゃいいっすか?」


騒ぎに駆けつけた他の人物も部屋の中にゾロゾロと入ってくる。

あの真っ赤な髪の娘がお姉さん。その後ろに隠れているのが妹さんかな?

で、犬耳の男の子が召使いくんで…

…鎧を着ている男は誰だろう?警備兵か、門番かどっちかだろうか。


とにかく役者は揃った。

…あとは、推理を披露するだけだ。


「皆様、お集まりいただきありがとうございます」


まずは探偵のテンプレート通りのセリフ、ここは外せない。

…何人かの眉がつり上がった気もするが、あまり気にしない。


「皆様にお集まりいただいた理由は1つ。真犯人の正体を暴くためでこざいます」


…探偵には、警察のような権力はない。

元々、私がいた国では『名探偵』という肩書きがあったが、ここにはその肩書きもない。よって、知名度による権力もない…

権力とはすなわち、説得力だ。これがあるかないかで、大きく印象は変わる。


「…あなたが真犯人ではなくって?」

「それを判断するのは私の推理を聞いてからでも遅くないかと…」


では、今の私にどうやって説得力を出させるか?

…それは、観客を引き込める演出だ!

どれほど観客を引き込めるかで、説得力に違いが出る。

今のようアウェイな状況においては尚更だ。


「さて皆様、ご主人がお亡くなりになったのは何故でしょうか?」

「決まってるだろ!お前がサタンさんを殺したから…!」

「いえいえ、そういうことではありません。…何がご主人の致命傷になったか、ということです」


いきり立ったコックくんを言葉で抑え、私はご主人の死体に近づいた。

警戒しているのか、鎧くんも私と一緒に死体へと近づく。


「おそらく、背中の傷が致命傷だということには違いありません。しかし、明らかにナイフ以外の凶器によってできた傷なのです」

「…ちょいと失礼っす」


鎧くんが死体を覗きこむ。

…確認を終えた鎧くんは、私を見て頷いた。


「…確かにこりゃナイフで刺された傷じゃねぇっすな」

「そう!つまり、凶器はナイフではなかったのです!」


皆の顔が驚きで染まる…

…いや、1人だけ顔色を変えてない人物がいた。

お姉さんが、私に向かって指を突きつける!


「…だったら、何だと言いますの?結局お父様を殺せたのは、部屋にいた貴方だけですわ!」


その指摘は半分当たっていて、半分間違っている。

私以外でも犯行が可能だった人物が4人いる。


「いえ、そうとは限りません。執事さん、コックくん、召使いくん、メイドくんは死亡推定時刻の間にアリバイない時間帯があります。誰でも部屋に入ることが出来ました」

「わ、私もですかぁ!?」


メイドくんが心外だと言うようにぷりぷり怒っている。

…私も君が犯人だとは思っていないが、推理には順序があるのだ。

アリバイのない君を外すことは出来ない。


「…だったら、あなたは誰が殺したと思っているんですの?」

お姉さんが怪訝そうに質問してくる。

周りの観客も皆、不思議そうな顔をしていた。

…いいぞ、少しずつ観客を引き込めることが出来てきた。


「ご主人の遺体には抵抗の跡はありません。つまり、不意討ちで殺害されたと考えられます」

「お父様が犯人に気づかなかったか、背中を預けられる人物が犯人か、のどちらかということですの?」


お姉さんの言うとおり、そのどちらかだろう。

では、どちらの推理が正しいのか?


「服に崩れた様子はないので、別の場所から運ばれた可能性は少ない。部屋の中が殺害現場でしょう。…つまり、ご主人は誰かを部屋の中に招き入れたことになる」

「…お父様が犯人に気づかなかった訳ではなさそうね」


つまり、犯人は背中を預けられる人物… この屋敷の住人の誰か、だということになる。

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