~事件発生からの流れ:メイドの証言~
え、えっと…このお屋敷は貴族サタン・ウィンク様のお屋敷です。
じ、事件があった時にお屋敷の中にいたのは7人でした。
ご主人様のサタン様。
サタン様の2人の娘、姉のマデュラ様、妹のウェンディー様。
執事のブライトさんに、コックのサウスさん、召し使いのチュウくんに…
あ、あとは私… メイドのサンディです。
そ、外に門番が2人いましたが… 誰もお屋敷の中には入ってこなかったそうです。
ご、ご主人様の遺体を見つけたのは、21時をちょっと過ぎてからです。
時計が21時の鐘を鳴らした瞬間、ドスン!と2階から音がして…
わ、私は一緒にいたブライトさんとサウスさんと2階に向かいました。
2階のお部屋で音の原因を探しましたが、おかしな所は見つかりませんでした。
最後にご主人様の部屋に向かって…
そこにはご主人様の死体と、ランマさまが…
ら、ランマさんを捕まえた後、お屋敷の中はパニックになりました。
ブライトさんの提案で、朝になってから外にいた門番の1人が警備兵を呼びにいって、私達は一応、お屋敷の中で待機することにしました…
「…ら、ランマさんはどこからお屋敷に侵入したんですか?」
「それは私にもわからない」
「………」
私を見るメイドくんの目が鋭くなった気もするが、それはともかく。
…門番が2人いるにも関わらず、屋敷のあの部屋に運びこまれる私の姿は目撃されなかった。
一体、誰がどのように、何の為に運んだのだ…?
私に恨みを持つ真犯人が、私を犯人に仕立てあげるため?
いや、それならわざわざ外国に運びこむ必要などない。
それに、私を起こさないように外国に運ぶ方法、屋敷の門番に気づかれないように部屋に運ぶ方法、そのどちらも物理的に難しいだろう。
説明がつかない、不可思議な現象だ…
そして、ドスンという大きな音は、ひょっとして私がベットの上に落ちた音か?
あの時は夢だと思ったが、どうやら現実だったようだ。
しかし、どうやってベットの上に落ちたというのだ!?
寝ている間にワープ能力にでも目覚めたのだろうか?
…知恵熱が出そうだ。
ともかく、今回の殺人事件と、私があの部屋の中にいた理由は、無関係だと考えるべきか。
私があの部屋にいた理由は置いておいて、事件のことを考えよう。
メイドくんの話から推測するに、私は21時ちょうどに目を覚ましたようだ。
つまり、死亡推定時刻は21時から数時間前まで、ということになる。
「そういえば、ご主人の奥様はいないのかい?」
「は、はい… 5年間に病気でお亡くなりに…」
「…失礼。不躾な質問だったね」
つまり、娘さんは早くに両親を失ったわけか。
…哀れな話だ。
「…貴族にしては使用人が少ないね」
「そ、その… 奥様が亡くなった後、ご主人様は大分落ち込まれたようで… 仕事に熱が入らなくなったようです。そのせいで、大分地位を落とされたとか…」
「ずいぶん伝聞的な言い方だが…?」
「わ、私は3年間に雇われた身で、噂話でしか事情は知らないので…」
なるほど… いわゆる没落貴族、という奴だな。
使用人が4人しかいないのはそういう理由か。
「私を捕まえた男がコックくんかな?」
「は、はい」
む?そういえば…
私を捕縛したあの水の縄は何だったのだろう?
「ところで、あの不可思議な術は…?」
「ああ… め、珍しいですよね。この辺りでは数少ない水属性の魔法が使えるらしいですよ」
ま、魔法…?
…ハハッ、どうやら私はとんでもない所に来てしまったようだ。
「…一応聞いておきたいのだが、他に魔法が使える人はいるかな?」
「ま、マンデラ様が火属性の魔法を、ウェンディー様が風属性の魔法を使えます。わ、私もちょっとだけ土属性の魔法を…」
「も、もういいよ…」
…まったく、いつからこの世界には魔法なんてものが使えるようになったんだ?
新聞もたまには読まないと…
「ら、ランマさん?」
「…すまない、少し考えごとを」
今は世界情勢よりも、自分の身のことを考えなければ。
多分、この国では魔法と見間違えるほどの技術が発展しているのだろう。
「ええと… 事件があってから、誰か外に出たかね?」
「い、いえ、門番が1人残っているので外には出れません。警備兵が来るまで誰も外に出れないと思います」
「ふむ… ご主人の部屋には誰でも入れたのかな?」
「か、鍵がかかっていなければ入れたと思います。いつも、ご主人様は寝る時まで鍵をかけませんでした」
つまり、屋敷の中にいた者にしか犯行は不可能だった訳か。
…ふーむ。容疑者は6人か。
とりあえず聞けることはここまでだろう。
…推理のための情報をメイドくんに集めてきて貰おう。
「メイドくん、皆のアリバイを集めてきてくれたまえ」
「あ、ありばい…?」
「事件の時に各々が何をしていたか、という情報だ。その時にしていた行動を証明してくれる人がいるか、というのも聞いてくれ」
あとは… ご主人が殺される前に何をしていたかも気になるな。
「ご主人を最後に見た時の情報もほしい。頼んだぞ」
「わ、わかりました!」
メイドくんは駆け足で部屋から出ていった…
…さて、こうなると私には出来ることはない。
私がここに飛ばされた理由を考えるのもいいが… 経験上、推理の途中で他の考え事をするのはよくない。
頭を休めるため、少し眠るとしよう…