第9話 エルハード文書
研究所のどこまで行っても真っ白な廊下を歩きながら、彼は俺たちにエルハード文書について話してくれた。
「エルハード文書自体は残っていないんだ。どこに行ったかもわかっていない。今手元にあるのは、その写本だ。その写本に書かれているのは第1章から第13章まであり、後半の第7章からは歴史書となっていて、エルハード文書が書かれた土地であるエルハンドラ大帝国の歴史が刻まれている。その栄華衰退は、これまであった数々の帝国といわれる国々とかぶるものがある…」
ボタンと階数表示以外白くなっているエレベーターに乗り込むと、彼は続ける。
「歴史はさらなる未来まで続いているんだが、その中で第12章にエルハンドラ帝国が滅んでから現れる使徒について書かれているんだ。それが今まで言い続けてきた能力者という存在になる。エルハンドラ帝国がどこにあったのか、どこに消えたのかはその写本を基にして推定されているが、そうなると、いわゆるアトランティス大陸の場所になってしまうんだ。つまりは太平洋のど真ん中」
地下5階へ連れて行かれた。
「エルハード文書の前半部分は、科学技術の発展やそれに伴う戦争に関しての考察、エルハンドラ帝国についての論文や、この文書をまとめた人であるカライル・エルハード公爵についての話とかが載ってる。今の技術では不可能なことを、彼らはやすやすと成し遂げていたらしい」
"地下5階です"
電子音がエレベーターの中に響くと同時に、俺の両親や見知らぬ人が集まっていた。
「第2段階に入ろう」
「13人目が見つかったのか!」
「ああ、地球そのものだろうという新しい仮説が出てきた。人類の母たる存在、時には厳しく叱責し、時には優しく抱擁してくれる。さらに、男とか女という区別もない」
「なるほど、惑星自体が能力を持っているということか」
「ああ、妹が見つけなければ、見落とすところだった」
「…第2段階へ移るか」
「それがいいだろうな」
二人の父親は、そういい合って壁にあった黒色の電話からどこかへ電話をかけようとした。
「ああ、"ホーム"か?今から第2段階へ移りたいんだが、準備は…できてるか。分かった。じゃあこれから進む」
受話器を置いて、さらに二人で話し続ける。
「では、下へ行こうか」
「ああ」
「下ってどこよ」
姉が聞く。
「下といえば下だよ。この建物は"宙の穴"と呼ばれているところにある」
「それって何?」
彼女らの父親が俺たちに説明をして行く。
「エルハード文書曰く、"天、地をつなぐ糸在り。その糸、地と天に近き宙の穴にあり"。宙の穴についてはそのあとにいろいろ書かれているんだけど、割愛させてもらうよ。さて、その宙の穴は、ある種のエネルギー異常地帯だと思われた。それも、神聖なる土地で古代から人々の信仰を集めた土地でなければならない」
「それが、ここだったっていうこと?」
「あの建物は、その神聖な土地の近くに建てられてるんだ。地下にはその場所に続くための通路が掘られてる。これからその地下道を通ることになる」
そういうと、壁の一部分を強く押した。
すると、すぐ右隣りがゴトゴト言いながら壁が上に開いた。
「さあ、入ろうか」
彼がそう言って、真っ先に入った。
彼女たちの父親が通路に入ると同時に、周りの扉が一斉に閉まり、ここから出ることができなくなった。
「行くしかないのか…」
俺はどうしようもなくなった運命を恨みながらも、通路へ足を踏み入れた。