第8話 13番目の能力者
研究室といわれても、本当に何もない真っ白い部屋に閉じ込められていた。
俺と彼女達は、その中で壁に寄りかかりながらずっと両親が帰ってくるのを待っていた。
いろいろと暇にあかせて話していると、誰かのおなかが鳴る音がした。
「アハハ……」
空笑いをしているのは、姉のほうだった。
「そういえば、昨日から何も食べてないな」
俺が思い出しながら言うと、二人を交互に見た。
「この部屋の中にはなにもなさそうだし、かといって外に出ることもできない。電気系統だからショートすればいいのかもしれないけど、たぶん、そのことも考えてるだろうね」
扉のほうを見ながら、物は試しといった感じで電気玉をぶつける。
案の定、一切効果を及ばさずに吸収されていった。
「やっぱり」
扉から外に出られないことは、すでに確認していた。
だからこそ、ここでずっと時間を潰していることしかできなかった。
「そういえば、エルハード文書って何なんだろうな」
「さあ、私たちはなにも知らないの。わかってるのは、13人の能力者がこの世界にはいて、その人たちが揃えば、この世界が別の世界へ変化することができる最低条件がそろうということだけ」
「正確には、同時代にいる13人の能力者。それもエルハード文書に記載されている内容の」
いつの間に来ていたのかわからないが、彼女たちの父親が来ていた。
「エルハード文書は、約150年前に発見された秘密文書だ。はじめは贋作と思われたが、発見から70年後、自分の父親がこの時代の最初の能力者として、エルハード文書に記載されていた通りの能力を披露した。それが、"瞬間移動"」
言葉が不自然にブチっと切れると同時に、俺の後ろから声の続きが聞こえてきた。
「前に君に話したね、"5つの要素に陰と陽。中央に位置する人類の始祖"。これは、エルハード文書の最初に出てくるもので、能力者の素質を表わしている。5つのそれぞれに陰と陽があり10人、中央の人で11人、中央の人にも陰と陽があると考えると合計13人になる」
「5つの要素?」
「雷、水、空気、土、火。それぞれの陰陽と命そのものをいれると13人がそろう。残っているのは命の大元一人だけだ」
「陰と陽の差は?」
姉がきく。
「陰は女性、陽は男性。陰と陽で男女っていうことさ。ただそう解釈すると問題なのは、命の大元たる存在は男でも女でもないということになってしまう」
「……それって、一つしかなくない?」
妹がつぶやいた。
「どこだ」
父親は、妹に迫る。
俺がその間に入り、連れて行こうとするのを防ぐ。
「命の母たる存在で、私たちを育み、慈しみ、時には怒ってくれた存在…地球そのものよ」
「13人目の能力者は、地球だというのか?」
「そう。そうなると解釈に無理なく入るんじゃない?」
「そうだが……」
父親はそう言ってしばらく歩いていた。
何かブツブツ言っているが、何を言っているのか分からない。
「作戦第2段階へ入るのが妥当だろう。そうだ、つぎはエルハード文書第2章だ」
そういうと、俺の腕を引っ張り、扉をくぐった。
「ついてきてくれ!」
無理やりながら、俺たちは空腹のままながらも、どうにか部屋を出ることができた。