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運命  作者: 尚文産商堂
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第7話 父さん

病室の中での2度目の夜が来た。

俺の心の中では、姉が記憶喪失になったという事実を受け止めることができるようになっていた。

病室の中で起きている時、彼女に何を話しかけてもほとんど反応を示さなくなっていた。

俺が君の彼氏だといっても、妹から言われるまでは本気で信じてくれなかったこともあり、本当に記憶喪失になっているんだという実感が、心の中でとぐろを巻きながら大きくなってきていた。

この日の12時から1人1時間ぐらいかけて、警察の人が調書を取りに来た。

看護師1人と誰が呼んだかわからない弁護士1人と警官2人だけが病室に入り、最初に姉が聞かれた。

妹と俺はそれぞれ別の空き部屋へ連れて行かれ、どこから来たのかわからない弁護士1人と警官2人とともに色々と聞かれた。

だが、それも終わると再び姉の病室へと戻った。


「ねぇ」

ベッドで天井を見ながら、姉が俺に聞いてきた。

妹は1階にあるの自販機に、ジュースを買いに行っていた。

「どうした」

「あなたが、私の彼氏っていうのは本当なの?」

「本当だよ」

「…何だか実感がわかなくて…」

「んなことはないさ、誰しも結ばれる相手はいるもんだ。君の場合は、偶然俺だった。それだけだ」

その時、妹がドアを開けて入ってきたから、話はそこで終わった。


「そういえば、一番最後の記憶ってどんなのだ」

「えっと…」

妹が買ってきてくれたリンゴジュースを飲みながら俺が聞いてみた。

「この病室よりももっと白い部屋で、いろいろな機械が壁面を覆っていたの。私はその部屋の中央に置かれている椅子に縛り付けられていて、何かしらの実験と称した行為を繰り返し行われていた…」

ゆっくりとだが確実にそのことを思い出していると、生気が失われているのがわかった。

「分かった、それ以上は思いだす必要はない。悪かった」

俺がそういうと、姉は一筋の涙を流していたのがはっきりと見えた。

そのことには一切触れずに、非常に繊細なガラス製品のような彼女を抱きしめた。


入院してから1週間の間に、彼女には必要だと思うことをすべて教えておいた。

部活のこと、高校のこと、家のことも。

それからようやく退院許可が出たが、1週間に1度は必ず検査を行いに来るようにと言われた。

ほとんど生返事で答えると、父さんが用意してくれた車に乗り込んで、1週間ぶりの我が家へ向かった。


ついてからは退院祝いと称しての酒宴が繰り広げられ、気づくと居間のソファーのうつ伏せになってぶっ倒れていた。

「っつー……」

二日酔いのような感覚が、頭をガンガンたたいてくる。

周りは姉と妹しかいない。

両親はすでに仕事へ向かったようだ。

「なんつー…」

次の言葉が出てくる前に、インターホンの甲高い音が響いてくる。

「あって…」

足がうまいこと動かないし、インターホンの音が頭の中で繰り返し反射している。

「はい、どちらさまでしょうか」

「どうも、お久しぶりです」

その声は聞き間違いようがなかった。

「おまえは…」

二日酔いの症状もどこかへ吹っ飛んでいき、俺はあわててインターホンを受話器に戻した。

それから姉と妹を起こしに行こうとしたときには、すでに彼は家の中にいた。

服装が『刑事コロンボ』にそっくりだった。

「どうして…」

「ああ、君が先輩の息子か。会うのはかなり久しぶりだね」

「お父さん、どうしてここまで来るの?」

いつの間にか、姉が起きていた。

「13人の能力者、"エルハード文書"に書かれていた新世界創造の物語の序章になるうちの2人もが研究所にはいた。しかし、二人とも逃げだし、再びわが手に入れなければならない……」

一歩彼が足を踏み出した時、俺は動いた。

彼と姉たちの間に立ち、彼が動いたらすぐに電気玉を打てるように右手にため続ける。

それを見ると、彼は右眉をピクリと動かした。

「そうか、君も能力者として開花したのか…」

「何のことかわからんが、彼女たちを連れていくのは俺が許さん」

「…5つの要素に陰と陽。中央に位置する人類の始祖。君は雷の要素を持っているということは……」

「グダグダ言ってるんだったら、さっさと帰ってもらえないか」

俺はさらに電気を強くため始める。

「……いや、今日は帰ることはできないんだ。残念ながら」

彼はそういうと、何も動かずに俺を数メートル吹き飛ばした。

カーテンにうまく助けられ、窓を割ることはなかったが、それでも全身がうずくように痛い。

電気玉はいつの間にか彼が操っているようだった。

「君を殺すわけにはいかない。一人でもかけたら、さらに数百年待たなければならないからな」

足のほうからしびれがゆっくりと全身へ廻りだす。

「しばらく動かないでいただきたい。まあ、動くことはできないんだろうけども」

そして、彼が彼女の所へ向かう時、両親が帰ってきた。

正確には、そこに現れたというべきだろう。

「…先輩、間に合ったんですか」

「ああ、何かしらの異変を妻が感じてな。二人して戻ってきたら、息子が電気でしびれていたというところさ。なにをしたんだ?」

「何も、今のところは」

父さんはため息のような感じの息を深く長く吐いてから、彼のほうへ再び向き直った。

「それで、エルハード文書については、どれだけ知ってる?」

「ほとんど何もというしかありません。研究陣からあなたがいなくなって、遅々として進んでいないのですから」

「人類は一人の神から生まれ、13人の神の子孫に引き継がれ、169人の悪魔と戦い、2197人の仲間とともに新しい世界の礎になるっていう内容だったか」

「さすが、よく覚えていますね」

俺はどうにか声を絞り出して聞いた。

「父さん、こいつと知り合いなのか?」

「ああ、高校の後輩で、俺が大卒で就職した最初のところ、エルハード研究所の研究員だよ」

「今は、あなたの後を継いで、主任に就任しました」

「そうか。そんなことはどうでもいい。エルハード文書の通りだとすると、もうそろそろ13人目も見つかるころだったな」

「ええ、これで12人。残り1人はどこにいるのでしょうか…」

そう言って、彼らは話している内容が意味がわからない俺たちの顔をゆっくりと眺めていった。

「とりあえず、研究所へ戻っていただけませんか。そろそろ時間がきます」

「今年だったか」

「あなたの予測通りでしたら」

「ちょっちょちょ、何の話をしてるんだよ」

姉と妹のほうへ壁伝いに近づきながらも、なおも聞いてみた。

「あなた方を研究所へ連れていく必要がありそうです。高校のほうへは、国から公休届が提出されるでしょう」

そういうと、部屋の様相が一瞬で様変わりした。

船酔いをしたかのように、具に槍と空間がゆがむのを感じると、真っ白い部屋へと移っていた。

「機械がない…」

「ええ、あなたたちがここから脱出してから、人体実験はしておりません。それよりも先輩、行きましょうか」

「妻を連れていってもかまわないだろ。ここの元研究員だからな」

「一向に大丈夫です」

そんな事を話している間に、一つしかない扉から両親とともに出ていき、外からカギが閉められたのがわかった。

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