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運命  作者: 尚文産商堂
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第4話 睡眠中→登校中

夜も更けてきて、俺は寝ることにした。

その前に、時計を確認しておく。

「今…ああ、もうこんな時間なのか…」

12時を半周ほど過ぎたところで、針は止まっていた。

時計から顔を離し、横を見てみると姉は机に突っ伏して寝ていた。

「やれやれ…」

俺は、宿題を一気に終わらせ、それからの間、ずっとノートに小説を書いていた。

軽く伸びをすると、立ち上がり姉の体の上に毛布をかぶせた。

「風邪ひくぞ…」

耳元でささやくと、姉は体を震わせてむにゃむにゃ言った。

何を言っているかは聞きとれない。

あっさりと無視することに決める。

そのまま、身支度を整えてから布団にもぐる。

電気はつけっぱなしにしておく。姉が起きた時の為だ。

「おやすみ」

頭から布団をひっかぶって寝た。


それからしばらくして、ふと眼を覚ますと、机で人影がゆらゆらしている。

姉が起きたらしい。

「起きたか」

ごく小さな声で呟くと、半身を起してその人影に向かっていった。

「そんなところで寝てると風邪ひくぞ。ほら、こっちこいよ」

俺は頭がふらふらしているような状態の姉を引っ張った。

「あ、ちょっと待って…」

「どうした」

「トイレ行ってくる」

姉が布団に入ろうとした時、そう言って部屋の外に出て行った。

入れ違いになるように、妹が入ってくる。

声が高いので、暗闇でも声さえ聞こえれば違いがわかる。

「ちょっと、入ってもいい?」

「ああ、どうぞ」

妹が、ドアの隙間から顔を部屋に入れていた。

「ありがとうございます」

それだけ言うと、枕を抱えて入ってきた。

「あの、一緒に寝てもらってもかまいませんか」

俺は一瞬何を言っているかわからなかった。

「え…」

「一緒に寝てもらっても、大丈夫ですか?」

妹は、俺に再び言った。

一回目でもはっきりとは聞こえていたが、どういうことか分からなかったのだ。

「大丈夫だけど…」

俺がそういうと、安心したような顔をして入ってきた。

「よかった」

わずかに耳に聞こえる程度の声で呟いた。

ボフンと布団が敷いてあるベッドに腰掛けると、枕を俺と姉の真ん中に置いた。

その直後に、トイレから帰ってきた姉が俺たちを見た。

「なんだ、また来てたのね」

拍子抜けするほどまでにあっさりと、布団の中に潜り込んでくる二人。

俺は一番壁側に寄せられて、なんとなく肩身が狭い思いをしている。

「そういや、なんでこっちで寝ることにしたんだ」

妹に聞いてみる。

「んー…ここ最近何かと物騒だからね。一人で寝てて、何かあったら大変だからね」

そう言って、ゆっくりと布団の中に潜り込んでくる。

だが、それ以上の話は出てこなかった。

みんなゆっくりと夢の世界へと旅立っていったからだ。


「う〜ん…」

誰かにものすごくゆっくりと首を絞められるという悪夢から目が覚めた俺は、すぐ横の人たちを見てみた。

妹はすでに布団の中に姿がなく、姉が俺の首のところに腕を伸ばしていた。

「これが悪夢の原因か…」

納得してから腕をどけ、ベッドから降りた。

降りた直後に、服の裾を誰かに引っ張られるような感覚があり、すぐ下を見た。

「もう少し、一緒に寝てようよ」

しっかりと見開かれた二つの眼が、俺をじっと見ていた。

俺は時計を確認した。7時15分だ。

ここから学校までは、多く見積もっても40分。

始業のチャイムが鳴るのは8時半だから、7時50分までに出れば、十分余裕を持って学校に着くことができる。

そう思って、再びベッドの端に腰を下ろした。

「そういえば…」

ふとした疑問を、姉に聞いた。

「いつも妹が朝や夕御飯の準備をするのか」

「そうよ。私、こう見ても朝には弱いの」

自慢げに話している姉に、俺は何も言えなかった。


それから5分ほど、とりとめのない話をしたとき、妹がドアをたたいた。

「ご飯できたから、二人とも下に降りてきて」

「わかったー」

姉は気のない返事をして、俺のすぐ横に座った。

「じゃ、行こうか」

そう言って、俺たちは下に降りた。


それから、バタバタと動いた。

ご飯を食べ終わると40分になっていて、それから着替え、準備を整えて、彼女の家を出た。


バス停で待っている時、姉に聞いてみた。

「なあ、妹はどこの高校に通ってるんだ」

姉は、ちょっと答えずらそうに言った。

周りに人がいないことを確認してから、ぼそぼそと言った。

「実は、学校に通ってないの」

「え?」

それから、ゆっくりと言い始める。

「妹は、先天性[生まれつき]の病気を持っていて、たくさんの薬を飲んでるの。小学校から、一切通ってないけど、ネットから取った知識は、大検を一発で突破できるほどらしいわ。本人が言ってる話だから、よく知らないけどね」

「えっと…」

「あ、病名とかは忘れちゃった。時々ね、とてもつらそうな時があってね、そんなときはいつもそばにいてあげるようにしてるんだけど…」

「そっか…」

俺は、どう声をかけてやれば分からなかった。

昨日の夜、理由をつけて俺たちの部屋へ来たのも、それが理由の一つに挙げられるのだろう。

あんなに小さな体で、病気を闘っているのだ。

「実は、妹ほどではないけど、私もその病気にかかってるの」

「な…」

突然俺に話し始めた。

「遺伝子性のものらしくて、私もその因子を持ってるとか言ってたわ。でも、私のは妹ほど強くは発現しなかった。ただそれだけのことよ。だから私は薬を飲まなくても済んだ…」

一面の青空を見上げながら、姉はおれに話した。

何を考えているのか、よくわからない。

だが、俺も一緒に空を見上げた。


そんな、幸せな日々だった。

こんなにもはかない世界で、こんな幸せな日々を送れた瞬間があったことを、俺はどこかにいるだろう神様に感謝したい。

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