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運命  作者: 尚文産商堂
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第2話 俺と彼女

俺と彼女が付き合い始めたことは、すぐに全校中に知れ渡った。

いったい、どうすればこれほどまでに早くうわさが広がるのだろうか…

夏場の味噌汁も足が速いというが、それといい勝負じゃないだろうか。

そんなことよりも、俺は相変わらず小説同好会にいる。

もちろん、彼女も一緒だ。


「ねえ、ちょっと来てくれる?」

名前を呼ばなくても、ほとんど彼女が呼ぶのは一人だけだった。

同好会メンバー全員がそのことを知っているから、俺が気づかなかったらこっそりと教えてくれる。

「なんだ?」

俺は、すぐ横にいるやつから言われて、彼女のところへ歩いていった。

「これどう思う?少し挿絵を入れてみたんだけど…」

それは、告白された日に、彼女が作っていた作品のだった。

一面白い雪で覆われているゲレンデを見回す主人公。

これからスキーという状況だから、一式を身にまとい、左手に二本のストックを持っていた。

左手を目の上に持っていて、全体を眺めているような光景だ。

…なんだか、俺に似ているような気がするのは、気のせいだろう。

「いいんじゃないか」

俺はそう彼女に答えた。

「そっかー。じゃあ、保存ね」

彼女はそういって、マウスを操作して画像を保存した。

それから、俺のほうを見ながら言った。

「ねえ、これから何か予定ってある?」

「今日は何も無い日だけど、どうした」

俺には、この同好会以外の放課後の予定は、家に帰ることだけだった。

毎日そうなんだが、とりあえず、彼女にはそう答えた。

「じゃあ、まだ行った事がないお店があるんだけど、ちょっと寄っていかない?」

すでに、彼女は周りの目など気にしている様子は無い。

俺は、放課後デートの約束だと思って答える。

「行くか」

俺は肯定の意味ではっきり言った。

腕時計を見ると、4時15分。

まだ、日は暮れていない。

「ただし、日が暮れるまでには帰れるようにしたいな」

この前、彼女と俺が帰ったとき、ちょうど告白された日なんだが、そのときにかなり門限を過ぎて帰ったから、二人ともこっぴどく怒られた。

ただ、好きな人が出来たと言うと、親はおとなしくなった。

彼女のほうは、多少驚かれたらしい。

娘に、恋人との一人や二人、出来ても不思議じゃないとおも…いや、恋人は一人で十分だ。

とにかく、俺達はそのまま同好会の部屋を出た。


靴箱がある玄関部分は、少し肌寒かった。

すでに5月に入ろうとしているが、まだ寒い日が続く。

しかし、彼女と一緒にいると、いつまでも温かくいられるような…

そんな感じだ。


バス停まで、俺達はずっと一緒に歩いた。

どうでもいいことを話している。

バス停についても、乗り込んだ後でも、そのくだらない話はずっと続く。

まるで、話を止めたらこの世界ごと彼女が消えてしまいそうだったから。

バスはゆっくりと高校の近くから離れて、すぐにその店に一番近いところにつく。

時計を見ると、4時30分を回ったところ。

もうそろそろ辺りは暗くなってくる。

急がないといけないな…


彼女はバスから降りるとすぐにその店へ行った。

注文して、普通のデートのようにしていると、すぐに時間は経つ。

時計を見ると、5時前になっていた。

「やっば。もうこんな時間だ」

俺は立ち上がった。

周りは、薄暗くなり、ほのかな街灯の光がこちらに差し込んでいた。

しかし、彼女は立ち上がらなかった。

それどころか、俺にいった。

「私の家、この近くなんだ」

「え?」

彼女は、手に持っていたソフトクリームのコーンを口に中に放り込んで、飲み込んでから立ち上がった。

「今日ね、両親いないんだ」

「で?」

俺はすぐ横で歩いている彼女に聞いた。

「…家に来てもらえないかなーって」

俺は返答に窮した。

そのまま、彼女は続ける。

「お母さんは、町内会の旅行で1泊してくるし、お父さんは出張で1泊。で、私と妹だけじゃ、何かと心配だから…」

俺のほうに、意味ありげな視線を飛ばしてくる。

俺はため息をついて、携帯で家に連絡を取った。

「はい、もしもし」

「あ、母さん?俺なんだけど」

「あら、どうしたの?」

母さんに事情を説明すると、笑って答えた。

「いいわよ、でも、明日は大丈夫なの?」

「部活だったら大丈夫。それに、明日は土曜日だから、授業もないし」

そういって、俺は電話を切った。

「大丈夫だと」

「よかったー」

安堵した表情を浮かべる。

「じゃあ、急いで家に帰らないとね」

彼女は俺の手を握り、少し早足で彼女の家に向かった。

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