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KING  作者: 香澄 るか
2/3

ついに対面

2話 



 凪は目の前の光景に目を疑った。



「ちょ‥ナツ、何これ?」


 先ず、F組に着いたはいいが、入り口に視界を遮る黒いカーテンが垂れかかっている時点で不安が過った。


 恐る恐るカーテンを潜りぬけると、壁や床、黒板に天井、いたるところに奇抜な色使いで落書きが施されていて、物もそこらかしこにぶちまけられ、机の上にはお菓子や飲み物が置かれているというよりは、散乱している状態だった。


「あれ?・・俺は確か、転校生が来るから歓迎の準備をしておいてって言って出た筈なんだけどな」


「いや、そんなの良いから!ってか‥そう言ってこの有様?!Freedomって、そういうこと‥っ?!」


「いや~、あはは‥」


 ナツが明後日の方向を見ながら張り付いた笑みを浮かべると、二人に気が付いた人物が声を発した。


「あれ~?なっちゃん!いつの間に!」


「奏、コレは一体どういうことかな?下手したら前よりも酷い状況になっている気がするんだけど」


 ナツがそう返した相手は、細身で強めの天然パーマに視界を遮られ、顔が鼻から下のパーツしか認識できない少女。


 少女はナツの言葉で教室を見回してから、まったく悪びれる様子無くへらりと笑った。



「え~、おかしいな~!奏的には、パーティーっぽくしたつもりだったんだけど~!」


「そうなの‥?強いて言えば、強盗でも入ったのかと思ったよ」


「ウソ‥っ?!」


 真っ青になった(と思う)少女を、怒りを超越した表情でナツが見つめている。凪には信じられない光景だったが、もしかしたら彼にとっては慣れていることなのかもしれない。


 そこへ、新たな人物が現れた。


 シュッとしていて、額を見せた黒髪の短髪にクールな目元が際立つ、端正な顔をした大人っぽい少年だ。


「だから言っただろう。こいつに頼んだってろくなことにならない」


「湊‥、そこをフォローするのがお前じゃない?それに、仕方ないでしょう。このメンバーで協力的なのは奏くらいだし」


「悪かったな、非協力的で。俺は、こういうのがどうも苦手なんだよ」


 そうぶっきらぼうに言いながら、少年は散乱したゴミを片付け始める。


 それを見たナツが、同じくゴミ袋を手にして少年へ再び声を掛けた。


「湊、俺も一緒に片付けるよ。でも、その前に‥、転校生連れて来たから紹介してもいいかな?」


「…あ、隣に居るのがそうだったのかよ」


 顔を上げた湊が手を止め、凪に視線を移した。


「初めまして、今日からF組の篠塚凪です。凪って呼んで。よろしく」



「…どうも。俺は、湊。それと、この不思議生物は双子の妹、奏」


「は~い!妹の美少女戦士・奏ちゃんです!よろしく~!いぇ~い!あはは!」


「ふ、双子?!」


 平然と言い放った湊たちを、思わず凪は穴が開く程見比べた。


「誰もが一度は衝撃を受ける事実だね」


 隣でナツが懐かしいこの光景と、悠長に笑っている。


 確かに、よく良く観察すれば、二人の骨格は双子と言うだけあって似ているかもしれない。じゃあ、モサっとおい茂った天パに隠れた目元は、まさかのあれだったりするのか?と、凪は、文句の付けどころがない湊の端正な顔を凝視した。


「何?」


「いや‥」


 現時点では何とも言えないが、それなら、奏が「美少女戦士」と言うのも間違いではない…はず。


 それでも、目が合った奏の見た目からは=にならないので、ベールを脱ぐかもしれないその時までは、一旦この件は忘れよう。凪はそう思うことにした。


「湊、他のみんなは?」


「さっきまでは居たと思うけど、知らねえ」


「…逃げられたか」


 ナツの項垂れる様子に、F組もなかなか個性豊かな面々が揃っていることを悟った。


 本当に、自分の学校生活は大丈夫なのだろうか?凪は、案じずにはいられなかった。




「―あ、ナツ君だ」


 声に足を止めて振り向けば、そこには青牙の王・瀧澤静の姿があった。


「ごきげんよう王様。今日もいい天気ですね」


 にこりと笑って挨拶すると、彼にも笑みが浮かぶ。


「嫌だな。ナツ君にそんな風に呼ばれるの」


「事実だから仕方ないでしょ。てゆうか、俺とまともに話すのはアンタだけですよ」


「だって、従兄弟だし話すでしょ。それに、立場とか別に関係ないよ」


「本当、静は面白いよ。‥で、呼び止めて、聞きたいことは転校生のこと?」


 ナツの質問に、静は笑顔を絶やさないまま首を横へ振る。


「たまたまナツ君が見えたから声を掛けただけだよ」


「ふーん?…用が無いなら、俺急いでいるから行くよ」


「珍しい。どうかしたの?」


 彼の不思議そうな顔を前に、ナツはクスッと笑う。


「今からうちのクラス、大掃除が始まるんだよ。新しく来た転校生が主導してさ。こんなこと今まで無かったし新鮮だよ。今度の子はなかなか面白いと思う」


「へえ‥そう。それは、会えるのがすごく楽しみだな」


 静の去っていく後ろ姿を目で追いながら、ナツは口元の笑を深めた。


「―本当、面白いよね」




・・・・




『え、王様に会うの?』


 ノンストップで掃除をして部屋が片付いたタイミングで、凪はナツからこの後の予定についての話を聞かされた。


『うん、昼休みに。王様5人と凪と、俺だけで』


『え、それって、会って何するの?』


 不思議に思って訊ねると、ナツが笑顔で言った。


『今回で言うと、転校生の凪の為に設けられた会だから、先ずはお互いに自己紹介をして、凪に今後どのチームに入るのかを選んでもらう為に、王様自ら簡単にチーム紹介をする。あとは学校のルールみたいなものを説明するくらいじゃないかな』


『成程・・』


『大丈夫。長い時間はきっとかからないよ。あの5人が同じ空間に一時間も居られた試しがないから』


『え‥っ?そんな、仲が悪いわけ?』


『まぁ、個々で見ればそんなこともないけど、全員集まっちゃうと‥ちょっとね。そうだ、優しさでアドバイスするとね、赤羽の赤城鷲と白爪の兵藤虎にはくれぐれも気を付けて』


『え?何で?』


『…まあ、見てりゃ解るよ』


 ナツは凪の問いに対して、それだけ言った。


 見ていればって、一体どういうこと‥?


 解からなければ気を付けようがないのではと、内心そう考える凪だったが、時間を待たずして、その答えはやってきた。


ナツに連れられ、皇帝会が開かれる会議室へ足を踏み入れると、まず目に飛び込んで来たのが、部屋の最奥の壁にかかった絵画。雄大な大地を背に、剣と弓を構えた屈強な男たちが対峙し、今にも争いが始まりそうな描写が描かれている。


部屋の壁は白が基調となっていて、カーテンは光に当ると輝きを放つ淡いゴールドだ。風に揺れるとまるで王旗が掲げられているかのような圧倒感。そしてなにより、部屋の中央には大きな円卓が鎮座し、卓を囲うように椅子が6つ並ぶ。恐らく手前の席は自分のものだろうが、他5つの席は既に埋まっていた。


「おい、新参者のくせに、KINGを待たせるとはいい度胸だな」


「兵藤、女の子は遅れてくるものだよ。そうだよね、一ノ瀨さん?」


「そうね、瀧澤。女の子は、準備に時間がかかるものよ。そんなことすら、モテない男は解らないのかしら。嘆かわしい」


「雑談はいいから、早く始めない?耳障りでしょうがない」


「これほどまでに退屈なことはねえな」



 十人十色という言葉があるけれど、対峙したKINGは皆タイプがバラバラで、特色豊かな個性を放っていた。


しかし、何故彼らが生徒たちから「王」と呼ばれているのか、それが妙に納得できてしまいそうな程、5人から齎される空間の雰囲気には、さながら首脳会談が始まるかのような、そんな迫力と荘厳さが感じられた。


雰囲気に少し緊張しながらも、凪はそこに呑みこまれないよう、今までと変わらず笑顔で5人の前に立ち挨拶をした。

 

「待たせしてごめんなさい。初めまして、篠塚凪です」


 その様子を5人が、それぞれに黙って見つめている。


 そこで、凪の一歩後ろに控えるナツが口を開いた。


「F組の佐伯ナツ、篠塚凪の補佐役として同席をします」


 ナツ曰く、F組からも一人付くのは、この場の空気に呑まれず正しい選択をするための精神的サポートや、公平な立場で、括、会議が円滑に進むよう、王と生徒の仲立ちを担う為らしい。


「分かりました。許可します。篠塚さんはどうぞ着席して下さい」


 代表してナツに応じたのは、凪の席から見て左隣に座る、スタイルの良い黒髪ロングの美少女。


 着席し、ふとナツを振り返れば、自分は立っているからいいと言われた。


 居直って前を見れば、美少女と目が合い微笑まれた。


「篠塚凪さん、はじめまして。私は、黒花の一ノ瀬百合よ。ウチは、女子7:男子2の割合で女子生徒が圧倒的に多いのが特徴なの。だからきっと気負わず、楽しく過ごせると思うわ。何処を選ぶかは自由だけれど、どうぞよろしく」



「よ、よろしくお願いします」


女子に圧倒されたのは初めての経験だった。それほど百合は、凪が今まで出会った誰よりも綺麗だった。それに加え、話し方や動作、全てに品があり、大人びている。もし、白金の豪邸でピアノを弾いているようなお嬢様だと訊かされても驚かないだろう。


次に口を開いたのは、百合の隣の席に座る、女子も羨むサラッとした藍色髪の少年。


「一ノ瀨さんの次、俺でいいかな?初めまして、青牙の瀧澤静だよ。ウチもどちらかと言えば女の子が多いかな。俺、女の子はみんな大好きだから、篠塚さんならいつでも大歓迎。楽しみに待っているね」


 静は、率直な意見としては「完璧」だった。藍色のサラ髪はもちろん、効果音がしそうな眩しい笑顔。何より、爽やか選手権なるものが在ればナツに負けず劣らずの爽やかさだ。これには、凪も不覚にもドキリとしてしまいそうな程だった。こんな王様が居たら、そりゃ女子は喜んで付いてくだろう。


 そんなことを考察しながらついまじまじと見ていたからか、視線を感じた方を見ると、凪の席の右隣に座る、白金の髪をした少年に鋭く睨まれていた。


 もしかして、一人だけを見過ぎていたせいで気を悪くしたのかと考えた矢先、彼が声を荒げた。


「白爪の兵藤虎だ!!ウチに女は要らねえから、行きたきゃどこにでも勝手に行け!!!」


「ちょっと、兵藤‥!!」


 百合が慌てて諌めるも、虎は椅子に片膝と肘を付きながら、用は済んだとでもいうように、顔を完全に背けてしまった。


 白金で、まるで獅子の鬣の様な煌めく髪を風に靡かせる様は、オーラというのか、雄々しさを纏っている。白爪は、硬派・男気のようなものを掲げているように感じるし、そこにカリスマ性を感じて入りたがる男子は多いのかもしれない。でも、先ほどからの態度がどうも暴君の匂いがするので、凪は虎のことを好きにはなれないと思った。


「―ねえ、これ以上話すことがないのなら、俺が話していい?早いとこ済ませたいんだけど」


 突然発せられた静かながら通る声にハッとすると、奥側の、虎の隣の席に座る人物が待ちくたびれた顔でこちらを見ていた。


「あ‥っ、ごめんなさい。お願いします‥!」


「…ボクは、紫音の木村鈴。別にウチに来るのはいいけど、煩くしないでよね」


 鈴がそう言った直後、彼の傍に控えていた長身の氷室と名乗る少年が、「鈴は人よりも聴力が長けているから、賑やかなのが苦手でね」と付け加えるのを聞き納得した。


「わかりました。‥紫音に入ることになった際は、十分に気を付けますね」


 凪が微笑みかけると、一瞬、鈴は虚を突かれたような顔をしたが、よろしくとだけ言って口を閉じた。


 紫がかった黒髪に、華奢な体と小顔で猫目という中学生にも見える幼さから、最初は彼が王とは信じ難かったが、透き通るような白い肌がどこか儚さを感じさせ、黙っていると美少女にも見間違えそうな、中性的で不思議な魅力がある。その為、凪は鈴のことを護ってあげたくなるような少年だと思った。きっと、紫音のメンバーもそういう魅力に惹きつけられているのかもしれない。



 そうして、最後に一人残ったのは、凪の正面、奥の壁を背にした席で、頬杖をつく人物。


赤みがかった茶髪にブラウンの瞳。上体しか見えていないが、スラッとして背は高そうで、パーツ一つ一つがハッキリした端正な顔立ちをしている。青牙の静とは異なる、女子を惹きつけるタイプだ。しかし、凪が残念だと思ったのは、静のように笑顔が無く、謎めいた近寄り難いオーラを放っているところだ。


「赤羽の赤城鷲だ」


「あ、どうも‥」 


見た目通りではあるが、余りにも最短のやり取りだったため、せめてもと凪が〝よろしく″と言おうとした時、突然思わぬ言葉が放たれた。


「―おい、『裏切り者』ですってちゃんと付け足せよ」


「裏切り者‥?」


 何のことだかわからないが、声の主である白爪の虎が不適な笑みを浮かべているのが気になった。


 それに、彼の言葉の直後、部屋の空気が張り詰めたように感じる。その証拠に、さっきは虎を諌めていた百合も、眉を顰めて何も言わず黙っている。


 仕方が無いので後ろのナツに目配せをするが、黙って首を小さく横に振られただけ。


 つまりこれは、下手に口にしてはいけないNGワードだったということだ。


 凪は再び居直り、赤城を盗み見る。言い返すこともなく黙り込み、その表情からは今何を考えているのかは読み取ることが出来ない。


静まり返ってしまった空間で、クツクツと、兵藤虎の嘲笑だけが嫌に耳につく。


 居心地が悪くて堪らなかった。


「―ちょっと、何なのあんた?」


「あ?」


 ピタリと動きを止めた虎がこちらを不思議そうに見返す。


「あ?じゃないわよ。何があるのか知らないけど、感じ悪いのよ!」


「何だと‥?」


 口元から笑みが消え、完全に不機嫌になった虎がこちらを鋭く睨み付けてくるが、ここまできたら退かなかった。



「男の癖に、こんな公の場でたった1人を貶めるようなことを言って愉しいわけ?さっき、少しでもあんたに王の資質のようなものを感じたあたしが馬鹿だったわ。女は要らない?冗談じゃない。あんたみたいな男のチームに誰が入るか!!王ならね、もっとみんなが誇りに思えるような、模範になるような、そんな立派な姿を見せなさいよ!!ここは、そうあるべき、神聖な場所じゃないの?!」



一気にまくし立てたために肩で息をする凪。


 今他の4人はどんな顔しているかわからないが、虎が憤った表情で拳を震わせているのだけは見てとれた。


「…女、言わせておけばペラペラと…っ!!」


 虎がつかみかかってこようとした時だった。


「―うちのクラスの人間に、ましてや女相手に手を挙げようってなら、流石に、黙って見ているわけにはいかないな」


背後で動く気配がしたと思ったら、キャラメル色の頭がいつの間にか目の前に見えていた。


「佐伯…っ」


 虎が、寸でのところで動きを封じたナツを悔しそうに睨み付ける。




「ナツ‥!」


「…勘弁してよ。俺、忠告したよね?」


 驚く凪に、ナツは苦微笑を浮かべながら言った。


「ごめん‥」


「ま、もうこうなった以上しょうがないけどね」


 謝る凪に今度はそう言うなり、虎を抑える腕に力を込め、ナツは虎を見据えた。


「俺はあんた達のことに興味は全くないけど、今のあんたを見たら、あの人は何て言うだろうね」


「あの人だと…?」


「【百獣の王】って言ったら一発で解るでしょ」


「「「「な‥っ?!」」」」


「何で…お前があいつのことを知って‥っ」


 ナツの言葉に、虎だけではなく、明らかに全員が動揺していた。


 百獣の王‥?ライオン?何の話し‥?


 凪には、虎が口にした『裏切り者』と同じく意味が解らない言葉だったが、彼らと深い関わりがある事なのは間違いなかった。


「クソ‥っ!!」


 動揺して一気に戦意喪失した虎は、波が引くように大人しくなった。


 それを見て、ナツは虎から手を離し、凪に向き直る。


「今日はもう閉会だと思うし、教室に戻ろうか」


「え‥っ?」


「良いですよね?」


 混乱する凪を他所に、ナツは百合たちを振り返り確認をとる。


「あ‥っ、ええ‥」


「ね?行こう、凪」


「う、うん‥あ、ちょっとだけ待って」


 促されるまま歩き出すも、出入り口の前で凪は立ち止まり、後ろを振り返った。


「…あの、あたしもつい勢いあまって騒がしくして、大事な会議を壊してしまって、本当にすみませんでした‥!!」


 そっぽを向く虎以外の面々に頭を下げると、彼らは驚いていたが気まずいのだろうか、言葉を発することはなかったので、そのままナツと共に部屋をあとにした。


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