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KING  作者: 香澄 るか
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5人のKING

篠塚(しのづか) (なぎ)

 主人公。明るさと前向きな姿勢が取り柄


赤城(あかぎ) (しゅう)

 【赤羽アカバネ】のリーダー。


木村(きむら) (すず) 

 【紫音シオン】のリーダー。


兵藤(ひょうどう) (たいが)

 【白爪ハク】のリーダー。


一ノ(いちのせ) 百合(ゆり)

 【黒花クロバナ】のリーダー。


瀧澤(たきざわ) (しずか)

 【青牙セイガ】のリーダー。


樋村(ひむら) (あおい)

 王林のことを知る青年


佐伯(さえき) ナツ

 Fクラスのリーダー。青牙の静とは従兄弟。



1話 5人のKING


 篠塚凪現在17歳。


 性格は、基本前向き。そして元気。


 そんな彼女が転校した先には、学校を束ねる5人の王様が存在した。


『お前は選ぶ必要がある。この5つの、何処に所属するのか―さあ、決めろ』


 楽しいスクールライフを描いていたはずが、待ち受けるのはスクールウォ―ズ!?

 今日から、ヒーロー兼ヒロインの、長い戦いが始まります!!


『アタシが・・この学校とあんたらを変えてやる!!』



・・・・



「凪~もう直ぐ着くからね」


 運転しながら母が言う声に、助手席の窓から外の景色を眺めていた凪は、振り返って笑顔を見せた。


「うん!楽しみ!」


 慣れ親しんだ学校や仲のいい友達と離れることはやっぱり寂しかったが、何事も前向きにとらえる凪は、初めての転校を楽しみにしていたのだ。この時までは・・


 一気に状況が変わったのは、転校先「王林高校」に着いた時だった。


「初めまして篠塚さん。私は本校の校長、萩尾です。隣が、教頭の伊藤で、その隣に居るのが、君のクラスF組の担任、鬼頭です」


「よろしくお願いします!」


 校長室に招かれた凪は、校長と教頭、そして鬼頭に挨拶した。


 三人は凪の溌剌とした様子をみてにこやかに笑った。


「いや~篠塚さんは元気がいい。君みたいな生徒は大歓迎です。是非これからうちを盛り上げていってほしい」


「そうですね」


「本当に」


「元気だけが取り柄で!」


 少し照れるが、凪は素直に嬉しいと思った。しかし、


「篠塚さん、君には教室へ行く前に、幾つか本校のことで知っておいてもらわないといけないことを今から話します。どうか、しっかり聞いて下さい」


 今の今まで和やかな雰囲気だったのだが、萩尾がそう告げた直後、三人の表情は厳しいものに変わった。


「…何でしょうか?」


「この学校において絶対的な、5人の「王」の存在と、あなたの、これからやるべきことについてです」


「おう?おうって・・王様の王?それにあたしのやることって‥?」


「‥王は王様、即ちKINGのこと。王林には、5名の「KING」と称される生徒たちが居て、彼らはそれぞれ自分のチームを率いています。君がやるべきことというのは、5つのどれかに所属するか、通称BLACKと呼ばれている、これから席を置くクラスであるF組に残留するか、いずれかを、出来れば早急に選択することです」


「は‥っ、はぁ!?」


 思わず大きな声を上げてたちあがった凪は、至極真面目な顔しておかしなことを言う大人達をみつめた。


 KINGって何‥?チームって‥意味解らない。


 混乱する凪に、鬼頭が声を掛けた。


「驚くのはムリもない。けどな、冗談ではなく、本当のことだ」


「KINGっていうのは‥いわゆる生徒会みたいなものですか?」


「生徒会…どうかな。5人とも会長で、会長しか居ない生徒会というのは…」


 どうにか理解をしようと自分なりに解釈してみるが、校長らの悩ましい顔付を前にし、無駄に終わった。


「…っ、もういいです!例えませんから!どうせ考えても解らないし!‥でも、それが本当なら、どうしてそんな状況を先生たちは容認しているんですか?それに‥、今からあたしが行くF組も…何だかよく分からないし。どうして、F組だけが独立しているの?」


 凪が半分睨む形で三人に説明を求めると、また代表して鬼頭が口を開いた。


「王と、チームが出来たことにはちゃんと理由がある。だが、この学校の生徒でその理由を知る者はごく僅かで、それを知ったお前が下手に外に漏らせば、この学校の…王たちの均衡を崩しかねない。…だから、悪いが、今は何も聞かず俺達の言うことに従ってほしい。…頼む」


 まだ会って間もないとはいえ、教師たちに頭を下げてまで言われてしまったら、凪もそれ以上のことは言えなかった。


「…分りました。仕方ないですね。でも、F組のことはちゃんと教えて下さい」



「ああ。―F組の「F」は自由を表す単語『Freedom』の頭文字から取っている。F組は、縛られず自由で居たいという生徒達の為の居場所として作られた。だから、チームとは別に、特別に存在している」


「ふーん‥成程。でも、そんなクラスが存在するのなら、チーム編成したところで、どう考えてもF組が人気なんじゃないです?誰も、好んで誰かの下に居たくないだろうし」


 もちろん、それは凪自身の気持ちとも言えたが、凪の予想に反して鬼頭の表情が驚愕の現実を語っていた。


「いや‥現在F組に所属しているのはたった5名。グループを決めるまでの間、誰もが一度はF組に所属するが、やはりどれかのグループに入ることを決め、遅くても1ヶ月以内には出て行く」


「そんな‥っ。何で‥?体育祭行事のグループじゃあるまいし‥。あたしだったら‥」


 そう言いかけた時だった。


 突然、校長室の戸を軽くノックする音が届いた。


 三人と、凪の視線が一斉に扉へ向けられる。


「誰かな?」


 校長が訊ねると、扉の向こう側の人物が声を発した。


「Fの佐伯です」


 落ち着きのある声が耳を通る。


「ああ、佐伯か。‥校長、俺が転校生の付き添いとして呼びました」


「そうでしたか。ではあと一つだけ話して、終わりにしましょうか」


「はい」


 そんなやり取りがあった後、校長と鬼頭は凪を振り向いた。


「最後の話はKINGたちの名前とチームの呼称です。この学校に居る以上知らないままでは大変危険ですからね。…まず、5つのチームの名は『赤羽』『紫音』『白爪』『黒花』『青牙』。順に、赤羽の王が赤城鷲。紫音の王が木村鈴。白爪の王が兵藤虎。黒花の王が一ノ瀨百合。青牙の王が瀧澤静です。―念の為名を書き記したものを渡しますから、出来るだけ早急に、必ず覚えて下さい」


「暫くは佐伯を傍に付かせるが、いつ出くわしても大丈夫なようにしておけ」


「…分りました」


 何でこんなことを教師たちが普通に話しているのかも謎で仕方がないまま、取り敢えず凪は、頭の中で今聞いたばかりの五人の名を復唱する。


 その間にも鬼頭が先ほど話していたF組の生徒を中へ招く。


 鬼頭曰く、彼は、F組のクラス委員長的な人物だという。


「どうも。F組の佐伯ナツです」


「初めまして、あたしは篠塚凪。よろしく佐伯くん」


「ナツでいいよ。俺も、凪って呼んでもいい?」


 キャラメルを連想させるような色の頭をした、爽やかなナツはそう言った。


「もちろん!あたし、前の学校では苗字で呼ばれたことないんだよね」


「なら良かった。よろしく凪」


 彼の優しい笑顔に、さっきまでのモヤモヤが晴れていく気がする。


 ナツは、とても気持ちの良い少年だと思った。


「じゃあ、先生もう教室へ連れて行っても大丈夫ですか?」


「おう。頼んだ」


「はい。失礼しました」


 凪は、一礼してから出る彼に続き、校長室を後にした。


「…ふぅ」


「はは。大変だよね」


 廊下を歩く途中、さっきまでの話を思い返し無意識に吐いたため息に、ナツは語らずとも色々察したような顔で笑った。


「こんなはずじゃ…KINGやらチームやらって、とんでもない所へ来ちゃったかも…。ナツはそう思わない?」


「否定はしない。けど、これはこれで意外と面白いよ」


「面白い‥?何処が?」


 つい険しい顔付きで聞いてしまうと、ナツは苦笑を浮かべながら考える様に上を見上げて言った。


「そうだねえ~…感じ方は人それぞれだけど、他の学校には無い王という存在が居ることがまず新鮮で特別でしょう。後は、ウチのクラスに関して言えば、他みたく争いとは無縁な生活を送れるから気楽なところ。それと、客観的に見る方が色々な事に気付けるからさ、このポジション(F)が、実はどこよりも優位ってことくらいかな?」


 最後にそう言って透き通る様に笑うナツに、凪は何だか悪寒を感じた。


 爽やかな顔して…実は、腹黒!?


・・・・



 同じ頃、王林のある一室では早速、五人のKINGと呼ばれる者達が顔を揃えていた。


「何で呼ばれたかは全員分かっているわよね?」


 切り出したのは、黒花の王・一ノ瀨百合。


 背中まである長い黒髪を窓の外から吹く風に靡かせながら、凛とした佇まいで、ホワイトボードをコンコンと片手で叩いてみせる。


 それにいち早く反応したのは、藍色の髪を首元まで伸ばし、爽やかな笑みを浮かべる青牙の王・瀧澤静。


「転校生、篠塚凪って女の子について話すためでしょ?」


「正解。まあ、聞かなくても私たちがわざわざ顔を合わせる理由なんて、それくらいしか無かったわね」


「当たり前だろう、じゃねえと来るかよ!つーかよ、何でお前が勝手に仕切ってんだよ?気に入らねえ!!」


そう声を荒げたのは、白金の髪に鋭い眼つきの白爪の王・兵藤虎。怒気を全身に纏いながら百合を睨み付ける。


「ちょっと、唾散るから喚かないでくんない?その低音・・ていうか、雑音も耳障りだし」


 百合VS虎となりかかった一歩手前で、別の不快そうな声が発せられた。声の主は、紫がかった短い黒髪に、小柄で中性的な顔立ちをした、一見少女にも見える少年。紫音の王・木村鈴だ。



「あ?お前‥俺に向かって今、何て言いやがった?チビのくせにあんまり頭に乗るなよ?」


 虎の鋭い目が百合から鈴へ向く。しかし、またも別の声の介入により、ゴングは鳴らされなかった。虎を切れ長の目で見据えていたのは、この時初めて声を発した男、赤羽の王・赤城鷲。


「ったく、うるせぇ。次から次へと喚き散らしやがって。ちょっとは大人しくしてられねぇのか」


「赤城…、お前だけにはとやかく口挟まれたくねえんだよ。胸糞悪いその面今ここで潰してやろうか!!」


 鷲の存在を目に止めた瞬間、虎の中で、先ほどまでと比べ物にならないほど怒りの炎が強く燃え始めた。


 しかし、それを知ってか知らずか、鷲は鼻で笑い一蹴する。


「お前が俺を?ハッ・・笑わせる」


「‥てめえはやっぱり今、ぶっ殺す!!!」


 虎を焚き付けるには十分すぎた。


 パイプ椅子が乱暴に蹴り飛ばされる音が響き渡り、素早く飛び掛かった虎が鷲の胸倉に手を掛けかけたその時だった。


「―いい加減にしねえか、テメエら」


 落ち着いているのに、重く、圧を感じる声が制止を告げた。


「「氷室…っ」」


 二人の間に入り両者の動きを止めたのは、長身でガタイのいい大人びた雰囲気の一人の少年。彼を前に、虎と鷲は一度互いを見た後、同時に一歩退いた。


それにより、さっきまで殺気だっていた空間が嘘のように、部屋には落ち着きが戻った。


「遊、ありがとう」


彼にお礼を言ったのは鈴だった。


その声を聴き、少年は二人から遠ざかり鈴の元へ向かう。


 一見凸凹な二人だが、氷室が鈴の横へ立つ光景に誰も異を唱えることはない。


そう彼氷室遊は、紫音の一員で、紫音の王・鈴の右腕なのだ。


「氷室、私としても助かったわ。ありがとう。本当にねえ‥あんた達一度でもまともに話し合いというものができないの?少しでもじっとしていられないわけ?」


「「‥…」」


 虎と鷲は百合の言葉に対し、憮然とした態度で席に着き直すだけだった。


 それを見た彼女はやれやれと額に手を当て溜息をつくも、側にあった時計を確認すると気持ちを切り替えた。


「時間が無いから無理矢理転校生の話に戻すわよ‥!!良い?篠塚凪さんは基本ルール通り、F組からスタートすることになるわ。でも、今回は‥もしかしたら、0パターンが起きえるかもしれない。情報によれば、現時点、何処にも所属する気は無いようなことを言っているそうよ」


 百合の話に、4人の反応は様々だった。


「そうなったら残念だな~」


「俺は別にどうでもいい。これ以上音が増えたら耳が腐りそうだし」


「「‥……(興味なし)」」


分かっていることだけに百合が彼らの反応を見て何かを感じることは無かったが、その後は迷いなく虎を見た。


「いい?私達は普段通り、無理強いはしない。あくまでも、彼女の結論を待つこと。勧誘なら公に、平等に権利を設けた場で行うこと!抜け駆けは厳禁だからね、分った?」


「は?てめえ、なんでオレのこと見て言ってやがる!!」


「うるさい。あと‥赤城。あんたも勝手な真似は止めてよ?…あの日みたいな」


 百合が虎を無視してそんな言葉を鷲に投げかけると、その瞬間室内は静まり返った。


暫くして、虎が何かを言いたげに音を立てて机を拳で叩きつけるも、百合はその先を決して言わさなかった。


「もう!あんたたちの所為で予定よりも長居しちゃったわ。通りで息がしづらいと思ったのよ。そういうことで―解散!!」


 百合はそれだけ言い残すと、誰よりも一番先にコツコツと靴音を響かせながら退室した。


 次に他三名を一瞥だけして欠伸をしながら居なくなったのは、静。


 それに続いて鷲が退室しようとするが、止めるのはやはりこの男だった。


「おい、ちょっと待て」


「何だよ?」


 煩わしそうに振り向いた鷲の瞳には、見事な白金が映し出される。


虎は剣呑な目で鷲を見据えると、今度は静かに、だけれど怒りを確かに滲ませる低い声で告げた。


「オレは…絶対にお前を許さねえからな『裏切り者』」


 その言葉に反応したのは、当人ではなく以外にも彼らの背後に居た鈴だった。そんな鈴を、氷室が静かに見守る。


静寂が流れても、その後鷲が何か発することは無かった。


 それに苛立った様子で、虎は舌打ちを残しそのまま早足に出て行った。


 いつの間にか鷲と鈴、そして氷室だけになった部屋で声を発したのは意外にも鈴だった。


「…さっきはどうも」


「あ?」


 何のことかわからない鷲が不思議そうに見返すも、鈴は席から立ちあがり出入り口へ向かって歩いていく。


「…庇って貰わなくても、兵藤くらいどうにかできるから。それに、あろうことかボクを『チビ』呼ばわりしやがった‥っ。絶対に後悔させてやるんだ!…だから、もう余計な手出しは必要ないよ」


 最後それだけ告げると、鈴はそのまま鷲を一度も見ることなく、氷室を引き連れ部屋を出て行った。


 残った鷲は、誰も居なくなった静かな室内で暫く、何かに想い耽る様子で立ち尽くす。


「―アオイ…」


 ポツリと零れた小さな声は、誰にも拾われること無く、静けさに吸い込まれるように溶けていった。




 

赤城 鷲、木村 鈴、兵藤 虎、一ノ瀨百合、瀧澤 静



 彼らは王林高校のKINGと呼ばれる生徒達だった。


 しかし、勇ましく頂点に君臨しているかに見える5人も、一人一人が大切な人を想い、傷や深い何かを抱えて生きていた。



 果たして、凪は彼らの心の内を知り、暗闇から解き放つことが出来るのか―・・






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