神の選択とダリアス
「なかなかに酷いものだな」
神は世界を見下ろしながら呟く。見ているものは自ら命を絶とうとしている少年の姿だ。
「16年間一度も幸せを感じたことがない、か」
神はひと目見ただけその少年が抱えている絶望の大きさを知った。
「長期に渡る不幸の連続、大学入試の失敗、そこに思春期特有の精神状況の不安定さが合わさればこうなるのも必至といったところか...」
冷静に分析していく。神は長い時の中で感情というものを失っている。したがって、そこには同情の気持ちはかけらも存在していなかった。存在しているのは、世界をより豊かにするという使命と、それを達成するための損得計算のみである。
「幸福を忘れて久しい者に幸福を与えれえば、水を得た魚のように様々なことに全力で取り組むのは自明の理であるな」
神は早速別世界へ転生させる為の手続きを始めた。
「名前は...田端玲央、現在はすべての事への意欲を失っているが元は努力家、問題は幸福が訪れないというその運命のみ...」
そこで神は、その少年の新しい”入れ物”となる人物の幸運に関する情報を普通よりも良いものへと書き換えた。ついでに努力が他の人よりも報われるようにもしておく。
「転生先は...騎士の家の一人息子...っと、この位でよいだろう。では早速...転生!」
こうして田端玲央は別世界で新しい人生をもう一度始める......はずだった。
ただ一つ、神の予想をも上回るある力が働いたために彼は正常に転生することができなかったのである。その力とは、彼の異常なまでに強い不幸の運命の影響力であった。
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そして話は別の世界へと移る。
ここは、とある世界のとある国。人々が王国を築き、周辺諸国と争っていた時代。
「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おめでとう!立派な男の子の赤ちゃんだよ!」
一仕事終えたというような顔をしている産婆から赤子を受け取る母親の姿。そしてその赤子を穏やかな瞳で見つめる父親の姿がそこにはあった。
「お前の名前はダリアスだ!元気に育ってくれよ!」
「ダリアス、ちゃんといい子に育ててあげるからね?」
ここから、将来世界を大きく動かすことになるであろう男、ダリアスの物語が始まるのであった。