絶望の果てに
あれから、随分長い時間が経った気がする。結局俺はあの現実を受けとめきれずに半ば引き籠もりと化していた。今まではあまり興味を持っていなかったアニメやドラマ、ゲー厶の世界に没頭していった。
「この間録画しておいたアニメでも見るか」
テレビを付ける。すると画面にとあるニュース番組が映し出された。
「いや〜最近は職に就きたくても就けない人が結構いるんですねえ〜」
どうやら最近の若者に関してのニュースのようだ。
「そうなんです!そうして就職に失敗してそのままニートや引き篭もりになる例も多いそうですよ。」
「はあ〜、そうなんですか。どうしてそこで諦めてしまうんですかね。努力すればきっと上手く事を運べるでしょうに。」
俺はそこでテレビを消した。
「好き勝手いいやがって.....!」
努力したって結局最後は運なのだ。幸運の女神が少しも振り返ってくれない人の気持ちをこの人たちは考えたこともないのだろう。
「もう...疲れたよ...」
多分、ここで俺の中の何かが完全に壊れたのだろう。俺は無意識に”形ある現実”を手に、家から飛び出した。
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気がつくと、俺は近くのマンションの屋上に立っていた。17階建てマンションの屋上だ。家からここまでどうやってやってきたのかはもう覚えていない。
「高いな...」
素直に俺は怖いと思った。まだそう感じるぐらいの感情はあるようだ。
「でも、この世界に生き続けていたって楽しいことなんて何もない...っ!」
決意が変わらないうちに早く飛び降りてしまおう。そう思って手すりから身を乗り出す。その最中、俺の口は俺の意思とは関係なく動いていた。
「どうして...どうして、こんな人生になったんだ....っ!」
気がつけば俺の目からは涙が溢れていた。
「何故、何故俺はこんなにも不幸な目に遭わなければいけないんだ!俺以外のクラスメイトは全員大学に行くことができた!俺だって精一杯努力をしたじゃないか!なのにどうして俺だけこんな不幸に遭わなくちゃいけないんだよ!」
俺は握りしめていた”形ある現実”を見下ろす。しかし、そこにはただ【不合格】の文字が冷酷に佇んでいるのみであった。俺の慟哭を聞いているものなど、誰一人としていなかった。
「ハハッ...最後まで酷い人生だったなこりゃ」
もう、いいだろう。早く死んでしまおう。俺は自分を繋ぎ止めていた手すりから手を離し、体重を前に傾けた。俺の体は重力に従い、そのまま地面へと向かって加速していく。
(ああ、どうか、次の人生は幸福に満ち溢れていますように。)
俺はそう祈りながら人生最後の数秒間を過ごした。