story;5
「ここが日本最大のホテル『皇国ホテル』か・・・」
皇国ホテル前の信号で止まり俺は窓から外見る。
歴史と落ち着いた高級感を醸し出す日本ならではホテル。
そのロビーには大量のカメラマンや報道陣がおり、ちょうど一台のリムジンがロビー前に乗り付け降りてきたのは、世界的モデルのロゼ・ヴァイオレットとその娘のアリシア・ヴァイオレットとかつて武王と恐れられた元総合格闘10年連続優勝の記録を持つロゼの旦那であるニコルフ・ヴァイオレットだった。
ロゼとアリシアの二人とも赤を基調としたドレスにサングラス、ニコルフはスーツを着ており、その姿はモデルとボディガードのようにも見える。
「どうしたの、廉次?・・・あら、ロゼじゃない。アキラさん、ニコルフさんもいますよ」
「なに?・・・ほんとうだ、久しぶりに見たが相も変わらないな」
二人はどうやら知り合いのようで俺が窓から見ているの気づき見つけたようだ。
「・・・」
―――ピリッ
父さんはニコルフに向けて少しだけ眉をひそめると少し空気がひりついた気がした。
その瞬間、ニコルフは勢いよくこちらを向く。
ニコルフは周囲を見渡した後、こちらをじっと見た。
―――ピリッ
再び空気がひりつくのを感じた。
「っ・・・アキラさん?相殺ですか?」
「!?・・・すみません」
相殺・・・それは殺気を互いにぶつけ合う、一部の戦闘狂が好む挨拶方法。
前世の俺にはできたが今はできない。
それに、父さんとニコルフさんの挨拶はかなり洗練されており、対象以外に影響が出ないように注意されていた。
しかし、それに母さんが気付いたのは意外だった。
「アキラ様、車を動かします」
「ああ、すまない。ありがとう」
舟知はさんは気を利かせてそろそろ車を出すことを父さんに告げると車を走らせる。
「・・・ああ、久しぶりにご友人に会えてうれしいですか?」
「すまない、少しはしゃぎすぎたようだ」
「いえ、いいのですよ。アキラ様の技量の一端をご確認出来て私もうれしく思います」
※※※
「お母さんの言うとおり、パシャパシャうるさいしまぶしかった」
「ごめんなさい。でもこれからおいしい料理が食べれるから」
「ハンバーグあるかな?」
「あるわよ?とってもおいしいのが出るらしいわ」
「やった!アリシア楽しみ!」
―――ウィン
「あら、ニコロフ。さっきはどうしたの?急に振り返ったりして」
「いや、相殺をされたのでね」
「!?・・・殺し屋?」
「いや、知り合いだ。俺とお前のな」
「私の?あなたの格闘技仲間かしら?」
「もう一つだけ、大ヒントをやろう。そいつは日本人だ」
「え?相殺をニコロフにする日本人の知り合い・・・。え、まさか・・・」
「そのまさかさ。彼女も来てるようだぞ?」
「うそ・・・。あー、油断したわ。それなら、本気出したのにな」
「それも十分にあっていると思うけど?」
「ありがとう、ニコロフけいきづけにエスコートして?」
「はは、わかったよ。さて、行きましょうかレディ?」
ニコロフは片足を膝につけ、ロゼの差し出した手を優しく握り手の甲に優しく口づけをした。
「アリシアも『えすこーと』して」
「フフ、アリシアも旦那さんを見つけてやってもらいなさい」
「ぶー」
ほほを膨らませる可愛い妖精に二人は笑みを浮かべる。
「今日は楽しい、パーティーになりそうだ」
※※※
皇国ホテルの駐車場で降りた3人は一回の客室で着替えを澄ませ、エレベーターで最上階の30階に向かうためエレベーターを待つ。
「あれ・・・レンジ君?」
「?・・・かずさ!?」
後ろから声を掛けられ、振り返るとそこにはきれいにおめかしをした千恋 和沙とその両親いた。
「あら、ほんと。レンジ君じゃない。ゆりさんも、こんばんは」
カズサのお母さん、ひまわりさんはかなり天然で、ゆるふあ的な雰囲気をまとっている。
「本当だ。覚えてるかね?和沙の父の一茶おじさんだ。一度だけだが、覚えてないだろうか?」
「覚えてますよ、一茶さん。皆さんも今日はパーティーに?」
「ええ、そうです。『みなさんも』ということは、レンジ君たちも?」
一茶おじは懐から一通の招待状を取り出す。
「はい、私たちもいただきましたので」
一茶おじの言葉に返答したのは父さんだった。
同じく懐から招待状を取り出し見せる。
「なるほど、一緒ですね。失礼あなたはレンジ君のお父様かな?」
「はい、藤堂アキラといいます。いつもレンジがお世話になっているようで、すみません」
「いいのですよ。私たちとしても和沙がレンジ君と出会ってからよく笑うようになってうれしい。私たちこそなにかお礼をしたいくらいですよ」
「いえ、私たちとしてもレンジにこんなかわいい友達ができてうれしいですよ」
父さんは一茶おじにそう言って笑いかけるとカズサと同じ高さに腰を落とす。
「和沙ちゃん」
「レンジ君パパなんだよね?
「そうだよ。和沙ちゃんは・・・こいつといて楽しい?」
そういって父さんは俺の肩をたたく。
「うん!一緒に遊んでいると心がぽわぽわって暖かくなっているの!」
「それは・・・よかったね。これからもレンジをよろしくね」
「うん!」
「この年で女をもう落としてる?・・・やばくないか?こいつ俺と同じ体質受け継いだんじゃ(ボソッ)」
カズサに俺のことをお願いした父さんは立ち上がると何やら考えこむように手を口元に充てた。
「父さん?」
「うん?あ、いや、大丈夫だ。ちょっと気になることができただけだ。また今度調べるよ」
「そうなの?…ならいいけど」
するとちょうどエレベーターが到着し、エレベーターガールに招待状を見せる。
「それでは、最上階へとご案内いたします」