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story;1.5 千恋 和沙の記憶

 

 私の名前は千恋 和沙。

 お手伝いのばあやの提案で書いていた日記を久しぶりに読んでいる。

 あの頃の私は、まだ一歳だが言葉もしっかり喋れれば小学3年生くらいの漢字ならわかる。

 だから私のことをみんなが天才という。

 正直私のどこが天才なのかはわからない。

 私はある日、窓の外の道で私と同じくらいの子が親に手を引かれてどこかに向かうのが見えた。


「ねえ、いるんでしょ?」

「はい、お嬢様」


 私が声をかけるとどこからともなく黒服が現れた。

 お父さんが私の警護につけたとかいう男だ。


「彼らは、どこに行くの?」

「彼ら?・・・ああ、おそらく近くにある公園かと」

「公園?・・・なにそれ?」

「広い空き地に国が遊具を設置した、子供たちの遊び場のことでございます。そこで新たに友人を作ったり、その景色を絵にするもの等多くがおります」

「へえ・・・そんなところに行くのにあんな楽しそうなのね」


 私は親とともに歩く彼らが少しうらやましかった両親ともに働いており、あまり家にいない。私は寂しかった。黒服は私から声を掛けないとしゃべらないし、必要最低限しかしゃべらない。

 ばあやは優しいが、年が離れているし雇い主の娘というのがあるせいかどこか消極的だ。

 ある時、今まで別々に公園に向かっていた子供たちが私の屋敷の前で待ち合わせをして一緒に公園に向かう姿を見た。

 私はその時、黒服の言ったことをお思い出した。


『友人を作ったり』


 私も公園に行けば友人ができるのだろうか?

 あんな風に無邪気に私に笑いかけ、私を笑わせてくれる友人に出会えるのだろうか?

 私にわずかにともった淡い期待。

 私は翌日、黒服の目を盗み外に出た。

 私は最近お母さんの影響で演劇の練習をしている。

 近いうちにオーディションというのを受ける予定だ。

 その練習のために一人にしてほしいといったのだ。

 私は隠し持っていた靴を履いて部屋の窓から外に出る。


 台本は一応持っていく。

 なぜかはわからないけど、持って行ったほうがいいと私の心にささやきがったからだ。

 私は公園につくと私と同じかそれ以上の年齢の子たちが楽しそうに遊んでいた。

 けれど・・・私は声の掛け方がわからなかった。

 黒服やばあやになら簡単に声がかけられるのに。

 私は目の前の光景がとても美しく、そしてその光景に私がなじめる気がしなかった。


 けど、私もこの景色の一部になりたかった。


 次のオーディションの内容が幼稚園で友達と遊ぶ子供だからだ。

 一緒に入れなくてもいい。ただ、同じ空気を感じてれば。

 私はそう思いながら公園から少し外れた木陰で団本の練習を始めた。

 彼らを見て、彼らの楽しそうな表情をトレースする。

 しかし、納得するような演技はできなかった。

 何かが…違う。私が困り果てていると、近くの木が揺れた。


「声がすると思ったら、なにしてんだ?おまえ」


 そこには私より2つか3つほど年上と思われる子供がいた。

 その後ろから2人ほどさらに男の子が現れる。

 彼らは私が台本のセリフ練習をしていたのを聞きつけ、やってきたようだ。

 彼らは私にいろいろ質問するが、恥ずかしさと緊張が相まって何となく彼らの要求を否定した。

 すると、彼らは逆上して台本を私から奪い取り、私が取り返そうとするとほかの人に渡して取れないようにしてくる。


 男の子のことが少し苦手になり始めたその時、「・・・おい」と言う一人の少年が現れた。

 その一言に込められた殺気に迫力はすさまじく、足がすくんでしまうほどだった。

 気づけば彼は私の前に移動しており、台本を取り返してくれていた

 彼はその後、最初の怖い男の子立ちを追い返し、私が泣き止むまで私の頭をなでてくれた。

 泣き止むころ、私は泣き疲れていた。

 疲れて眠いけど、もう少し彼とお話していたい。

 そんな私の気持ちを汲み取ったのか、彼は私を送っていくと言い出した。

 家まで彼とお話ができて、一緒におうちで遊べる。

 私はそんな風に考えていた。


 しかし、その願いは半分しかかなわなかった。


 彼は、私の家の門を超えることはなかった。

 私は珍しく駄々をこねた。

 子どものように涙を流し、理不尽に一緒にいたいと願った。

 気づけば私と彼の間に門ができ、彼に手が届かなくなってしまう。

 もう、二度と彼と会うことはできないと絶望に涙が出そうになった。

 私はばあやに門を開けるように願う。

 まだ名前も知らない彼が手の届かないところにいってしまう前に。


「俺の名前は藤堂 廉次。レンジでいいよ」


 私の叫びを聞いて彼は自分の名前を教えてくれる。

 レンジでいいよというのは愛称で呼んでほしいということだろうか?

 愛称は仲がいいことの証明。


「ッ!・・・私は千恋 和沙。カズサって呼んで!」


 私をカズサと呼び捨てにしてくれるのはお父様とお母様だけ。

 だから、私はその特別をあなたに…あなただけに許します。


「わかった。次会ったときはそう呼ぶ」

「!」


 私は、その言葉が途方もなくうれしかった。


『次会ったとき』


 彼は約束してくれたのだ。

 次も、私と会てくれることを。

 これが友達。・・・これが、約束。

 私は明日またあの場所で会うことを約束した。


 翌日、私は起きて気づいたのだ。

 今日のいつ、あの木の下で会うことを決め忘れたことに。

 私は、昨日紡いだ彼と私をつなぐ、とても細くて脆い糸を手放したくはなかった。

 私は朝食を食べ終えると、すぐに公園に向かった。

 いつもの冷静な私ならばこんな時間に来るはずもないことはすぐにわかっただろう。

 だが、この時のわたしはそんなことを考えている余裕すらなかった。

 公園につくとまだほかの子供もおらず、とても静かな雰囲気だった。

 昨日と雰囲気が全然違う公園。

 私はすこし心細くなり、昨日彼と待ち合わせをした木にたどり着く。

 その気に下にはそこに座れというかのように一筋の光がさしていた。

 彼女はそこに座って約束の彼を待つ。

 そこに座っていると、ぽかぽか暖かくなってきた私はそのまま眠ってしまった。

 昨日、あまり眠れなかったのだ。

 仕方ないと言えるだろう。

 気づいて起きれば隣に彼、レンジがいた。

 私は思わず抱き着いてしまった。

 レンジは約束を守ってくれたのだ。

 とてもうれしかった。


 私はそのあと何度か彼と遊んだと、お父様とお母様がレンジ君と会ってみたいというのでおうちに呼んで遊んだ。

 その時、レンジ君は意地悪だった。

 お父様、お母様にレンジ君を紹介した後、レンジ君にお父様とお母さまを紹介すると、「カズサちゃんのそんなうれしそうな笑顔は初めて見ました。よっぽど、父さんとお母さんが一緒でうれしいだね。いつも二人といろいろしたいという話聞いてるから、大好きなのは知っていたけど・・・よかったね」

 私は、部屋にあった鏡を見る。そこには満面の笑みを浮かべている私が映っていた。

 わたしは慌てて取り繕ったが、あとでお父様にありがとうと言われ頭をなでられた。

 お父様がこうして頭をなでてくれたのは初めてだったけど、なんだかとっても嬉しかった。

 レンジ君が二人に何か話していたのは気になったけど、それを聞いてもはぐらかされてしまったので深くは聞かなかった。


 だって、お母様が「いい女は男の子の秘密に自分でたどり着くものよ」というから。


 それから私は毎日レンジ君に会うたび、彼を観察するようになった。

 彼の変化をわかってあげられるように。

 少し時がたって、私とレンジ君は同じ公立の幼稚園に通うことになった。

 お父様とお母様は私を私立の保育園に入れたかったみたいだけど、レンジ君と違うところと聞いて私は珍しくわがままを言った。

 すると、二人はわかっていたのかあっさりと承諾してくれた。

 そういうと思っていたらしい。

 私は恥ずかしくなって顔を画すると、二人に笑われた。

 最近よく見るようになったお父様とお母さまの笑顔。

 これもレンジ君のおかげなのかな?










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