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story;2

 



 ―3年後―



「・・・さて、そろそろあの時期(・・・・)か」


 あの悲しい出来事が近づいていることに不安でたまらなかった。

 それは母の体調が少し体調を崩すことが多くなってきたこと、そして、俺の誕生日に伝えられた『弟が生まれる』ことだった。


 ・・・俺は迷っていることがある。


 実は、母は弟を産むと同時に死んでしまう。

 このころ、お父さんの仕事が忙しくなり、へとへとに帰ってくるのだ。

 お母さんは父さんに対する愛は冷めておらず初々しいところさえもある。

 恥ずかしがりながらキスをしたり、誕生日にホテル最上階の高級レストランでデートして朝帰ってくる(その時僕はカズサちゃんの家にいる)。

 母さんは前職の友人や後輩、学友から相談やメールを律義に全部返したり、父さんのために整体や料理の研究、など忙しくしている。

 正直、頑張り屋のだががんばりすぎなのだ。そのためかなり衰弱した状態で主産に臨むことになってしまう。

 最近、母さんの整体の勉強している横で一緒に学び、全然入らない力で母さんのマッサージなどをしているもののあまり改善の余地は見えない。

 このままではまずいと感じた僕は思い切って父さんに相談してみた。


「父さん、・・・ちょっといい?」

「うん?廉次、どうかしたのか?」


 父さんは不思議そうな顔をしながらも、しゃがんで俺の目線に合わせて聞いてくる。


「うーん、お母さんなんか疲れている感じする」

「・・・そうか?」


 父さんはそういってリビングで嬉しそうに料理をする母さんを見る。

 あー、今日は父さんのために勉強した新作料理を出す日だった。

 俺はそんなことを考えながら、こっそりとお父さんに耳打ちする。


「今日、お母さん新作の料理作ったんだよ。だからたぶん。でも・・・」

「心配なんだな。・・・うん。わかった。お母さんと今夜話してみるよ。何心配するな。実はな、お母さん俺と付き合っていたころに一度倒れたことがあるんだ。過労って言って疲れすぎるとおこる病気…みたいなものだ。多分それだろうな、廉次の言ってるのは」


 父さんはそういって、俺の頭をなでるとリビングで母さんの新作料理に驚き、感想を言い始めた。

 その姿に僕は前世のある記憶がよみがえる。

 出産後に亡くなった母の手を握り、なんども「気づけなくてすまない、俺はどうして、またあの時と・・・」と謝り続ける父の姿。


 その日以来、父は仕事を減らし極力俺と道也のそばにいるようになった。


 仕事でも人事異動させてもらった(させられた?)らしい。

 それでもなれない家事に育児を一生懸命頑張り疲れているであろう体に鞭を打ち、仕事に朝早くから言っていた。それに後で聞いた話なのだが会社での風あたりも強かったらしい。

 父は俺が成人になる前に死んでしまった。

 今からなら、その過去を正せるのではないか?

 鈍いが自分の目の前で苦しんでいる人のためならどこまでも進み、膨大な知識と直感と推測で解決策を模索するその姿はこの俺の前世の記憶によく残っている。

 食事が終わった後、僕は珍しくお父さんと一緒にふろに入った。


「廉次・・・お前の言うことは多分正しい。ゆり・・・母さんはかなり疲れをため込んでるみたいだ。最近何かあった?」


 父さんの目が変わった。

 ギャルゲーの主人公みたいに目元が隠れるくらい長い前髪から除く鋭い眼光の奥にはいったい何が映っているのだろうか?

 僕は、おおよそ知りうる限りの情報を父さんに教えた。


「・・・そう、か」


 そういうと父さんは深呼吸をし、目をつむる。

 そのまま2秒ほどが経ち、俺が声を掛けようとする。

 その瞬間、父さんの目がゆっくり開いた。


「廉次・・・これから母さんと3人でゲームをしたいんだけど。付き合ってくれるか?」

「え?・・・いいけど」


 俺がそういうと父さんはありがとうと言ってそのまま風呂から出て行った。

 父さんは何か、心に決めたようだった。

 その夜、父さんはどこかに電話して俺と母さんと父さんの3人でゲームをした。

 父さんの要望で自分の体を使うゲームをした。

 俺は父さんと母さんが代わる代わる相手をしてくるので若さゆえの俊敏性と体力で何とか食いついていたがさすが三才。9時半には疲れて睡魔に勝てなく、気絶するように眠ってしまった。




 翌朝、俺はトイレ行きたさに目覚める。

 俺はいつの間にか自分の部屋の布団に寝かされており、父さんか母さん居運ばれたことはすぐにわかった。

 眠たい目をこすりながらリビングに出ると、料理をしている父さんが目に入った。


「・・・え?あれ?母さんは?」

「昨日は俺と深夜遅くまで運動していたからね、まだ寝てるよ。今日はぐっすり寝かせてあげな」

「うん、わかった。・・・おしっこ・・・」

「ああ、ごめんな。ほら行ってこい」

「もれる・・・」

「え!?ま、まて。れ、廉次~~~~~!」


 父さんは俺を抱えてトイレに入り、何とか事なきを得た俺はそのままオヤジのいるリビングのソファでもう一度寝るのだった。




 ※※※




「廉次・・・教えてくれてありがとう。しかし・・・マタニティブルーか」


 廉次の父、アキラは廉次の頭をなでながら昨日の夜を思い出す。

 廉次の母、ゆりは廉次がつかれて眠ると廉次を布団に運び、部屋を出てきたアキラに問いかけた。


「アキラさん、お疲れなのにすみません」

「・・・ゆり。楽しかったかい?」

「え?」

「廉次と…僕と。遊んでいて楽しかったかい?」


 アキラの質問の意図をとらえきれないゆりは戸惑いながらもうなずいた。


「ゆり」


 自分の最愛の人から名前を呼ばれて顔を上げると、アキラとの距離はゼロになっていた。


「・・・?・・・っ!?」


 最初は訳も分からなかったゆりもすぐに今自分が何をされているか理解する。

 百合は離れようと身を引くがアキラはそれを予知していたかのように、右手をゆりのあごに添え、捉えて離さない。

 数十秒の大人のキス。

 ゆりにはアキラの意図がわからなかったが、とても幸せだった。

 最近感じていた謎の疲れが少しなくなったような気もした。


「あっ・・・」


 唐突に終わった、幸せな時間。

 ゆりは、名残惜しそな声を出しながらもいつもの控えめな性格のせいで言葉にできない。

 その瞬間、アキラは「相変わらずだね、ゆり」と言ってもう一度ゆりの口をふさいだ。

 少し長い髪の間から見える彼の眼は獲物を捕らえ、これから食らうワイルドな狼の瞳をしていた。

 その目はかつて、最初に惚れたあの少年の時と変わらず、惚れ直してしまう。

 それに幸せな感情が絡み合い、ゆりは腰が抜けてしまう。


「おっと・・・ごめんよ、ゆり」


 そういって、アキラはゆりをお姫様抱っこする。


「今日は君といろいろお話がしたいから、寝かせないよ」

「あし、たは・・・れ、んじが遊ぶ約、束を友達と・・・」

「うん。しってる。大丈夫、明日は有給取ったから廉次の面倒は僕が見るよ」


 ろれつの回らないゆりを抱えてアキラは夫婦の寝室に入っていくのだった。


 そして朝になり、隣で気持ちよさそうに眠るゆりの頭をなでると布団から出て朝食の準備をする。

 それから、廉次が起きてきてトイレに行ったと思ったらまた寝てしまった。

 心地よさそうに眠る廉次を見ながら、アキラは思う。


「母さんたちにたよるしかない。か・・・」


 現在、ゆり、アキラの両方とも親との連絡は一切取っていない。

 二人は駆け落ちに近い形で結婚したからだ。

 しかし、今回のゆりを見ていてアキラは自分の事情よりも廉次やゆり。それにお腹のことも考えると、頼るべきと判断する。

 アキラは、受話器を取り数年ぶりに電話をかける。


「もしもし・・・母さん?元気にしてる?」


 これが、廉次にとって新たな出会いになるとは今寝ている廉次に知る由もなかった



 


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