未来の女子高生を無理矢理タイムスリップさせてしまったらしい
おばあちゃんの家には、タイムマシンがある。
ずっと昔、おばあちゃんからそう教えられた。ほのかちゃんとおばあちゃん、ふたりだけのひみつだよ。おばあちゃんはまるで少女のように笑った。
そのおばあちゃんが亡くなった。
思い出の家をゆっくりと見てまわる。ひとつの和室に足を踏み入れた時、あの言葉が鮮明な色を伴って蘇ってきた。
私の視線が、五段の古い桐箪笥に吸い寄せられる。
おばあちゃんの家には、タイムマシンがあるのよ。それはね、大きな桐の箪笥、その下から二段目。私を今ではないいつかへ運んでちょうだい、そう願いながらゆっくりと抽出を開けるの。
私は箪笥の前に座り、下から二段目の引き手に手をかける。
ずっと夢だと思っていた。タイムマシンなんてあるわけがない。
あるわけが、ない。
(私を、今ではないいつかへ、運んで)
私は固く目を閉じて、ゆっくりと引き手を引いた。白檀の香りが漂ってくる。
怖々目を開けると、抽出の中に、きっちり畳まれた衣類がお行儀良く並んでいた。
(……なんだ)
やっぱり夢だったんだ。
その時、私の左腕を何かが掴んだ。
手だ。いつの間にか、衣類の隙間からほっそりとした白い腕が生えている。
引きずり込まれる……!
そう思った私は、反射的にその腕を右手で掴んで引き剥がすと、裂帛の気合いを込めて引っ張った。
「どぅおりゃあああああ!」
畑で大きな芋を引き抜いたような感触。勢いに任せて、引き抜いたものを床に放り投げた。「ぎゃ」という短い悲鳴。
よく見ると、それは自分と同じ年頃の女の子で、制服らしきものを着ている。彼女が甲高い声で叫んだ。
「ちょっとあんた何なの!? いきなり引っ張り込むとか乱暴すぎない!?」
「……このままだと女子高生の私が遠い未来か過去へ飛ばされて、現代に帰るために奮闘する、どこかで聞いたような展開になりそうだったから……」
「そういうこと言わない!!! というか私も女子高生だし、今まさに知らないところへ引っ張り込まれたんですけど!?」
そう叫ぶと、彼女は思い出したように箪笥に駆け寄った。それが何の変哲もない箪笥に戻ってしまっていることを知った彼女の絶望は想像に難くない。
私、これからどうすればいいのかな、おばあちゃん。
「それ、どちらかというと私の台詞じゃない!?」
そう叫んだ彼女が数百年後の未来から来たと私が知るのは、数分後のことである。
……私、これからどうすればいいのかな、おばあちゃん。