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3:梓の過去



 梓と一緒に公園の巨大岩に腰掛けながらなんとなく眺めていた空は、やがて藤色が橙色を侵食していって徐々に暗くなっていく。上着の前側をしっかりと締めていないと冷たい風が身体の内側まで迫ってきてしまいそうなほど寒い。俺は梓と目線で合図し、公園を後にすることにした。まだまだ前夜プチパーティまで時間に余裕はあるが、ゆっくり歩けば二時間はかかる学校まで二人で歩くことになった。


 夕飯時の街は灯篭流しのようにポツポツと家の明かりが点在している。遠くの方の踏切のカンカンという音もかすかに聞こえるほど静けさに包まれている。梓は携帯電話で誰かに両手でメールか何かを打ちながらも、しっかりと前に進んでいる。ちょっと覗き込んでみたい気もするが、それはやめておいた。


 普段は自転車で風を感じながら登校するので、歩いていくのは新鮮だった。自転車を押しながら、反対側にいる梓を気にしてチラ見しつつ、たまに会話も織り交ぜながら学校に向かっていく。いつもバス通学の梓にとっても、こうして歩いていくのは新鮮なんじゃないかな。二人分のカバンを自転車のかごに乗せて、ゆっくりと進んでいく。


「あ、そうだ。彼氏さんとは上手くやってんの? 確か、もうすぐ二年だろ?」


 本当にただ思いついただけの話題だった。幼なじみのくせに最近の梓に関する情報は特に持っていない。お互いがお互いを気にするようになってからは、他の友達以上にプライベートなことを話さなくなっていた。

 梓は下を向いていて、なんとなくだが答えに値するような答えを探っているように見えた。


「ああ、あれね。あ……えぇと、て、てかさぁ……ぅ……ぁあのですねぇ……もうまさるとは結構前に別れたんだ。言ってなかったっけ? だったら……ごめんね?」


 梓は恥ずかしそうに目線を微妙に逸らせつつそう答えた。正直、意外だ。幼なじみだからこそ言えるが、梓は女子としてそんなに悪くないと思う。小さい頃は男勝りだったけど、だんだん女性らしくなってきているし、性格も、ギャーギャー喚くタイプではない。だから、梓の方に問題があるとは到底思えない。


 大を直接見たことは無いが、二人で写っている写真がクラスの中で出回ったことがあり、一応容姿は知っているつもりだ。いかにも白馬に乗った王子様みたいな、綺麗な顔だったのを思い出す。軟弱で温室育ちだという事を、実は梓の友達から聞いた事もある。二人はお似合いのカップルだとばかり思っていたし、実際そうだったに違いない。なのに別れてしまったなんて、何があったのだろう。


「え、なんで? ホンマに? なんでなんで?」


 本当に単純な好奇心から聞いてみた。別に何の悪気もなかったが、すぐになんとなく聞いてはいけないような気がしてきた。こういうプライベートなことは女性には聞かないほうが良いよな、さっきのは失敗だったよな、と何度も頭の中で反省する。嫌われなけばいいけどなと思うが、梓はなんでもなかったようで、本当だよ、とその経緯を教えてくれた。


「実はね、高一の時に知り合って、高二の春に告白されるまで、全然そんな感じの感情は無かったんだ。本当だよ? それは付き合ってからも変わらなかった。でも、あたしって、昔から断れない性格でしょ? だから、大の積極さって言うか、しつこさに負けちゃってねぇ」


「ほうほう」


 確かにさっき俺が一緒に行こうと誘ったときも断ってこなかったし、梓からすれば断るっていうことが少し苦手なことなのかもしれない。梓は唇の端を噛むようにして、更に続けた。


「好きでもない人と付き合うのはその人にとってもあたしにとっても良くないとは思ったんだけど、やっぱり長い間一緒にいると気付かれるのね」


「気付かれるって? 何を?」


「先月くらいからかな? やけに大が優しいと言うか、よく気遣うようになってきて。なんで? って聞いたら、あたしの気持ち見透かされちゃっててさぁ」


「本当は好きじゃないんじゃないの? とかそういう感じで聞かれたから、全部言っちゃったってわけか」


 梓のため息が白く空気に溶け込んでいく。明日から3月なのに、まだまだ春は来ないみたいで。


「うん、そんな感じかな。そのあとはメール送っても無視されてさ。いわゆる自然消滅ってやつなのかな?」


「それって自然消滅じゃなくて、梓ちゃんがフったことになるんじゃないの?」


「あっ……そっか。それもそうだね」


 梓はかすかに微笑んで見せたが、あきらかに無理した表情だった。梓は昔から優しくて、人を傷つけるのが一番嫌いだった。なのに、好きでは無かったけど一応付き合ってた元彼氏を傷付けてしまった。それがなんだか喉につっかえて取れないのだろう。今まで人と付き合った事のない俺には分かりにくい苦しみだが、なんとなく気持ちが分かるような気がした。

 

 でもなんとなくそんなプライベートなことを直接聞いたのは本当に久々だったので、なんだか嬉しくもあった。もしかしたら俺が梓のためになれるかもしれない、そう思うと、なんだかますますこの二人をどうにかしてお互いスッキリさせてあげたいなと思うようになってきた。


 急につむじ風がびゅぅっと吹いて、街路樹の下に溜まっていた赤や茶色、それに銀杏の若い緑の葉を巻きながら飛ばしていった。夜間飛行をする飛行機の赤や緑のピコピコしたライトの横には、もうすでに星が薄く輝いていた。


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