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28:最後の漫才


 宣伝のおかげもあってか、百人くらいの観客である卒業生がA組に集まった。

 入れなかった人々は廊下側の窓から無理やり体を乗り出してまで二人を見ている。

 俺は二人の目の前、ハナケンの隣にあぐらをかいて、二人の登場を待った。

 ついに二人がネタ合わせをし黒板の前に登場すると、自然と拍手が起きた。


「じゃあ……今までで一番面白いネタしまぁす!」


 高橋が意気揚々と言った。それを聞いて小さな笑いが起こる。


「ちょっ、高橋! 何でハードル上げたん!?」


 坂木がお返しに、間髪入れずに軽く突っこんだ。


「いや、せっかくだから渾身のネタを披露しようと思って……まぁ任せろって」


 坂木はやれやれといった様子。


「頼むよ? もう」

「そんなこんなで始まった漫才なんですけれども……」

「えっ、もうこれ始まってんの?」


 とか言いつつも、きっとこれもあの二人が入念に準備した導入なのだろう。裏を考えるだけでもニヤニヤしてしまう。


「当たり前じゃん。てかさ、俺達今日で卒業するわけですが、何か『これは鮮明に覚えてる』って思い出、ある?」

「……やっぱり、修学旅行かな」


「例えば?」


「じゃあ……やっぱあれかな。夜の秘密会議かな」


「ほうほう。あの好きな人とかの話で盛り上がるやつね。みなさんも多分やったんじゃあないかなぁと思うんですけれどもね。修学旅行の裏のメインイベントでございましてですね、色々と恋の話だとかを暴露していく会議です。ボクも実はそれに参加していまして。すっかり暴露しちゃいました。ねぇ。えっ、気になりますか。まぁそいつは秘密という事で」


「なんだぁ、秘密かいなぁ」


「えぇ。で、その時に一緒にいたあちらの神崎君なんですけども、なんと、会議中にいきなり勢いよく布団に潜り込んで、何だかよく分からないですけどモゾモゾと動いてですね。……何してたんでしょうねぇ」


 いきなりみんなの視線が注がれる。あのときは確か、梓とメールをしていて……まさか、勘違いしてるのか? 何考えてるんだ全く。


「ぉ、おい! 俺は別にやましい事なんか、してないぞ!」


 思わず叫んでしまった。ハメられたとも知らずに。


「おや? 別に疚しいだなんて誰も言ってないですけどねぇ。まさか神崎君……」


「ぇ、ぁ、いやっ、その……」


 教室中に笑いが起きた。内輪ネタ、しかも俺を使って笑いを取るなんて……後で覚えてろよ。


 あの時の俺は、確かに梓とメールをしていただけだ。

 梓、勘違いなんかしてないだろうなぁ。最悪の事態を想像して、恐る恐る梓の方を見る。

 すると、梓もこっちを見ていたようで、パッと目が合った。

 その目は、確かに疑いの目であった。

 やっちまったと思いうつむくと、周りからピンクの声援が飛んだ。

 恥ずかしい。実に恥ずかしい。なんだか体が変に熱くなったような気がした。


「で、そっからどうなったん?」


 坂木の一言でまた教室中が二人の方に集中した。


「まぁまぁ、そいつは置いといて。てか、なんかボクもね、恋がしたくなってしまいました。ね。坂木君、相手役、頼める? 俺告白の練習したいんよ。お願いしても良い?」


「えっ? まぁいいけど……」


 お得意のミニコントが始まった。


「ねぇねぇ、坂木君、ちょっといいかな」

「ん、どしたん?」

「私、実は……坂木君のことが、ずっと好きだったんです。付き合って下さい」


 高橋が何かを渡すジェスチャーをする。


「え、何? これ」

「ダイエットDVD」

「よし、明日から早速ダイエット頑張るぞ! ……って、失礼やな! もっといいものプレゼントせんと」


「これだめ? じゃあ……私、坂木君のことが、ずっと好きだったんです。付き合って下さい」

「え、何? これ」

「父の形見の腕時計。けっこう高いらしいわよ」

「おぉ! これはなかなか高級感漂ってて……って、もらいづらいわ! いいものだけれども! もっとこう……もらいやすい感じで」


「もらいやすい感じで。分かった。……私、坂木君のことが、ずっと好きだったんです。付き合って下さい」

「え、何? これ」

「シャー芯」

「良かったぁ。シャー芯無くて困ってたんだよねぇ……って、それはないでしょっ! 消耗品! まぁ確かにもらいやすいけれども。もう卒業するからいらんし!」

「じゃあ……シャーペン本体にする?」

「いやもっといらんわ!


「そんな事言うならそっちが告ってきてや」

「しゃあないなぁ。……高橋君のことがずっと好きでした。付き合ってください」

「え、何? これ」

「トイレのすっぽん」

「いや汚いなぁもう。ちゃんとプレゼントらしいものにしてくれる?」


「しゃあないなぁ。……高橋君のことがずっと好きでした。付き合ってください」

「え、何? これ」

「ぬいぐるみ。俺の髪の毛で作ったんやけど……」

「いや怖い怖い! そして重い!」

「思いが詰まってますから……」

「いや誰がうまいこと言えゆうたんや。もっとちゃんとなんかちょうどいいやつで!」


「しゃあないなぁ。……高橋君のことがずっと好きでした。付き合ってください」

「え、何? これ」

「卒業証書、授与」

「いや今日だから許されるけども、それは告白のプレゼントとしてはあかんやろ!」

「じゃあ紅白まんじゅうで」

「それもどうしたら良いか反応に困るやつ!」


「じゃあ何がええの?」

「いや元々タイプじゃないから何もらっても変わらんで」


「プレゼント関係ないんかい! もうええわ。……どうも、ありがとうございましたぁ」


 教室中が拍手で包まれて、文化祭の再来のようだった。その輪の中心にいる高橋と坂木の二人は、顔を赤らめながら携帯のカメラの、その騒々しいシャッター音の嵐に応じていた。


 しかしそれも束の間、ビシッと決まっている担任の先生が現れた。


「はい、そこまで。みんなぞれぞれのクラスに戻って。おい、お前らも席片付けてちゃんと席に着け。他のクラスのお前らは早く自分のクラスに戻りなさい。さぁ早く」


 ざわつく教室内。せっかく卒業生一同みんなでワイワイ楽しくやっていたのに、こういうときに限って先生がタイミング悪く入ってくる。たしかにいつもの休み時間もそんな感じだったが、今やらなくても。


 3年生の階が一気に卒業式モードに切り替わった。


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