婚約破棄?私、他の方と婚約しておりますけれど?
暇つぶしに書いていたもので、今更感ありますが載せてみました。宜しくお願いします。
誤字報告・感想ありがとうございます。
春の訪れを祝う、この国最初の王宮舞踏会。寒い冬から解放された各々の衣装は、春にピッタリな色鮮やかさである。
煌々と光る舞踏会場の灯りが夜のスーチア王国を照らす。
貴族たちは既に揃っている。
後は、王族の入場を待つばかり。
ある者は自分の野心を隠しながらにこやかに、またある者は今年の夜会こそお相手を見つけようと目をギラギラさせ、またある者は夜会自体をつまらなそうに眺める。
かく言う私も、久しぶりにこの地に足を踏み入れ、どちらかといえば周りの様子を楽しみながら眺めている。
「リルーリア様?」
壁の花になりながら、会場を眺めていれば、見知った声に名を呼ばれた。
振り返ればそこにはブロンドの美しい髪をなびかせながら、こちらへ歩いてくるレディがいた。
「あら、マリアーナ様ではございませんか。ご無沙汰しておりますわ」
マリアーナ・ブリルロイズ。
ブリルロイズ公爵家の御息女であり、私リルーリアの学友というやつだ。
その節は大変お世話になった。
「お元気でいらっしゃって?」
「ええ、マリアーナ様のおかげをもちまして、何とかここまでやってこられましたわ。本当に感謝しております」
もう何度感謝しても足りないくらい、マリアーナ様には助けられた。マリアーナ様がいなければきっとこの国は崩壊していたに違いない。
「それは安心致しました。リルーリア様は我が国にとってとても大切なお方ですもの」
「まぁ、それを言うのでしたらマリアーナ様もですわ」
淑女の手本とも言える微笑みで笑うマリアーナ様は、我が国の王太子殿下の婚約者筆頭候補であり、我が国の女性トップ3位の位におられる。それは上位貴族の中では常識であり、覆してはならない事実である。
しかし、そんなマリアーナ様の表情が徐々に苦しそうに歪んだ。何があったというのか。
「リルーリア様、実はそのことでお耳にいれなければと……」
そう、マリアーナ様が切り出した時、会場中にトランペットの音が鳴り響いた。
王族の入場である。
仕方なく、マリアーナ様も私も話を取りやめ、拝礼する。
「第一王女アリシア・スチーリア殿下、第二王子ルドルフ・スチーア殿下、王太子、ウィリアム・ヴォル・スチーア殿下のご入場」
王族の入場が行われている間、貴族は一言も喋ってはならず、また、身じろぎも許されない。ひたすらに全員の入場を待つ。
この国の王族は、国王陛下を始め、王妃陛下、第一王子であり王太子殿下であるウィリアム殿下、第一王女で来年にもフォルグ公爵家にご降嫁されるアリシア殿下、第二王子のルドルフ殿下がおられる。
王弟殿下は既に臣籍降下され、ターズベルド公爵家の当主を務めているので、この場では入場されず、事前に会場内におられた。
「王妃陛下エリザベス妃、国王陛下シャルディオ陛下のおなーりー!」
お二人が同時に入場された瞬間、空気が変わった。伏せていてもわかる国王陛下の威厳。絶対君主として君臨しておられる陛下のオーラは尊敬と畏怖を同時に感じさせるものがある。
数年前まで内戦をしていた我が国を見事平定し、ここまで発展させたのはひとえにシャルディオ陛下の手腕ゆえ。誰も逆らえない絶対的な威圧感を放っている。
「面をあげよ」
玉座の前に立った陛下の号令で皆顔を上げて陛下のご尊顔を拝見する。
「皆、よく集まってくれた。今日は我が国の今後を左右する重大な発表もあるが、今年の繁栄を願い、春夜舞踏会を始めよう!」
陛下のお言葉に皆拍手し、楽団のオープニング曲が流れ、無事舞踏会は始まった。
しかし、いつもとは違い陛下からの重大発表が何か、そこかしこでコソコソと推測が行われている。
そう。私が今日久しぶりにこの場に来たのも、先ほど陛下が仰せになられた重大な発表を聞くためである。それが無ければ、私は来る意味のない舞踏会へは来なかっただろう。
「重大発表の内容、気になりますわね?…………マリアーナ様?」
話しかけても返事のないマリアーナ様を見やれば、珍しく目を潤ませながら、体を震わせていた。
「マリアーナ様、大丈夫ですか?…もしや、先ほど仰られようとしたことと、陛下の発表に関係が?」
私がそう聞けば、マリアーナ様はようやくこちらを見て困ったように目を伏せた。
「実は…」
「さて!皆のもの。これより発表いたすが…」
タイミング悪く、またしても陛下のお言葉がかかり、マリアーナ様もおし黙る。
あまりに深刻なマリアーナ様の表情に忘れていたが、ちょうど先ほどまで鳴っていた拍手も鳴り止んでいたようだ。
こちらのタイミングとしては最悪だが、他の人から見れば陛下のお言葉は絶好のタイミングであったに違いない。悔しいことこの上ないが。
「来年には第一王女であるアリシアが婚約者であるフォルグ公爵家の嫡男イージェスに嫁ぐことが決まっている。そして、今宵は王太子ウィリアムの婚約者を発表しようと思う」
その瞬間、会場にはどよめきと大きな拍手が起こり、リルーリア自身隣のマリアーナ様を見た。
周りにいた貴族たちももちろんもれなくマリアーナ様をチラリと視野に入れる。
「王太子ウィリアムの婚約者はブリルロイズ公爵家のマ……」
「お待ちください!陛下!」
どう見ても今陛下はマリアーナ様のお名前を呼ぼうとされておられたが、まさか当事者である王太子殿下に止められるとは思わなかったに違いない。
国王陛下は睨みつけるように息子である王太子を見やる。
「王太子、何故我の言葉を遮った。答えよ」
少し苛立たしげに聞こえる陛下の声音であるが、王太子殿下は負けじと踏ん張っているようだ。
「ブリルロイズ公爵家のマリアーナは、弱者を虐め貶めるような卑劣な輩です。そのような者と婚約など結べません!」
会場は騒然とし、自然とマリアーナ様と私のいる場所と陛下や殿下方のおられる玉座とに道ができた。
何かの間違いではなかろうかとマリアーナ様を見れば、ガクガクと震え、拳が強く握られていた。
先程からリルーリアに伝えようとしていたことはこのことだったのだろう。
婚約破棄が行われるかもしれないことを事前に何かしらで知り、他にも何か起こるかもしれないと伝えたかったに違いない。
「マリアーナ様、お気を確かに。事の次第、きちんと確認いたしましょう?」
私はマリアーナ様に声をかけた後、若干彼女の盾になるように体を前に出した。
「国王陛下、発言を許可願えますでしょうか!」
陛下へ拝礼しながら告げれば、「許す」とのお言葉が返ってきた。
「ご温情に感謝申し上げます。王太子殿下、お伺いさせてくださいませ。マリアーナ様がいつそのようなことをどんな風に行いましたでしょうか?」
「そなたは知らぬと申すか!そなたもマリアーナ同様、弱者を甚振っていたという報告が上がっている!」
「……は?」
つい、ポカンとしてしまった。令嬢としてあるまじき行為である。すぐに気を引き締め直し、深呼吸をした。
「私はそのようなこと……」
「マリアーナ・ブリルロイズと、リルーリア・オルトロスの行いは、誰が見ても非道なものであり、そのようなものをこの国の王妃や王子妃に据えることは出来ない!よって、私、ウィリアム・ヴォル・スチーアは今結ばれようとしたマリアーナ・ブリルロイズとの婚約を白紙にし!ここにいるリリーア・ムラリーズ男爵令嬢と婚約することを陛下に誓います!」
リルーリアが否定の言葉を述べようとしたのを王太子殿下が大きな声で遮り、また、あらぬ宣言をし始める。
そんな王太子殿下の隣には、いつの間にか小柄な女性がおり、こちらを見て怯えるように王太子殿下の腕に縋っていた。
殿下のおられる場所は王族しか登れない場所である。何故そんなところに?という疑問は、すっとその女性を守るように前に立ったルドルフ殿下をみて察してしまった。
彼が騒動の合間で連れてきたのだろう。
そして、そのルドルフ殿下からもあり得ない宣言が下さる。
「私からも言わせてもらう!リルーリア・オルトロス、貴様との婚約をこの場を持って破棄する!貴様の彼女にした残忍な所業、許されるものではない!」
「……は?」
本日2回目のポカンが出てしまった。
これ以上はいけない。
こんな茶番付き合ってられるかと吐き捨てようとしたその時、隣のマリアーナ様がふらりと倒れそうになり、私は慌ててマリアーナ様を支えた。
「マリアーナ様、お気を確かに!」
ふるふると首を振ったマリアーナ様をなんとか落ち着かせながら、舞台上に立ち、まるで正義のヒーローのように振る舞う屑どもを睨みつけた。
「何を根拠に国と家との契約を自分勝手に破棄されると申されますか!ブリルロイズ家を蔑ろにされるおつもりか!陛下!」
「そのようなつもりはない。王太子、これ以上の戯言は控えよ」
当然の如く、ブリルロイズ家の当主、つまりマリアーナ様のお父上から陛下に対する抗議の声が上がる。
それに対して陛下は呆れた様子で王太子の言葉を否定し、諌めた。
「父上!それは父上がかのもの達が何をしたのかご存じないからそのようなことを仰せになられるのだ!知っていただければこの婚約は間違いであったと分かっていただけるはず!」
力強く告げる王太子に、今まで静かに控えていた王妃陛下が前に出た。
「静まりなさい、王太子。貴方は何を言っているのか分かっているのですか?父王陛下の命が聞けぬというのですか!」
「ええ、聞けません!こんな理不尽なこと!」
「なんてことをっ!」
「両者とも控えよ!ここは舞踏会の会場だぞ!これ以上の発言は許さぬ!!」
「申し訳ございません」
「父上!」
陛下のご叱責に王妃陛下は拝礼し、王太子殿下は未だに抗議の姿勢をとる。
「陛下!直答をお許しくださいますでしょうか!!」
場が騒然とし、まとまりが付かなくなってきたので、私は仕方なく声を上げた。
それまで抱えていたマリアーナ様をそっと伺えば、なんとか立てるところまで復活したようだ。マリアーナ様からありがとうとお言葉をいたあだいた。
「許そう」
「感謝致します。まず、先にあらぬ疑いをかけられているようですので、そのことへの弁明からさせていただきます。私は両殿下方がおっしゃられるようなことをした覚えは全くございません。ですが、何か誤解を招くようなことをしたと仰るならば、いつ、どのような場面で、どなたに私はその行為をしてしまったのでしょうか?また、その行為を見たと仰る方はどなたですの?」
「私の温情でこの場では言わずに置こうと思っていたが、そう言うのであれば仕方あるまい!そなた等はムラリーズ男爵令嬢リリーアに対し、暴言を吐いた。前期の社交シーズンのみならず、学院での行為も見られているぞ!」
好機だ!とばかりに勇む王太子殿下に陛下は哀れむような視線を向けた。
陛下の今の様子だと、王太子殿下の仰っている内容は事前に情報として入ってきており、それが誤りであることも認識しているようだ。
私はそれを確認したが、とりあえず話を進めることにする。
「では、それはどのような暴言であり、どなたが目撃した情報でしょうか?」
「リリーア本人が言ったのだ!彼女は貴様らのことを恐れ、震えながら隠そうとしていたが、なんとか聞き出せば『男性に擦り寄るはしたない女だ』と罵られ、『私(王太子)に近づくな、どうなっても知らないぞ』と脅されたと聞いている!」
「殿下、それは『婚約者のいる男性方に色目を使って擦り寄るはしたない女になりたくなければ、王太子殿下には近づか無い方が良いですわ。その行為によって貴女が国から王太子殿下を誑かしたとして処罰されても私共は知りませんわよ。注意いたしましたからね?』と言ったのですわ。」
「何故、彼女が私に近づくことが国から処罰される対象となると言うのだ!友すら側に置くことが許されぬと申すか!?」
アホを抜かす王太子殿下を見る陛下の目がとても残念なものになってきた。
陛下が可哀想だが、とりあえず話を進めよう。
「違いますわ、殿下。彼女がただの純粋な女の子でしたら、側室に迎えることもできますから、私共もそこまで強くは言いませんでしたのよ?けれど、そこの彼女とくれば、殿下だけではなく、ルドルフ殿下をはじめ、王女殿下の婚約者たるイージェス様やマリアーナ様のお兄様であられるジェイド様、財務大臣を務めておられるハーヴェイ侯爵の御子息ユージーン様にまですり寄っておられたのですよ?」
イージェス様の名前を出せば、上座に居た王女殿下の表情が凍りついた。それを見たイージェス様はすぐさま王女殿下の元へいきこちらそっちのけで弁解をしているようだ。
ちなみに、イージェス様は擦り寄られてもすげなく断っていた。後でフォローしておこう。
イージェス様が必死に王女殿下へのご機嫌取りをしている間に、同じく上段になぜか乗っていたリリーア様が震えながら王太子殿下に縋っていた。
「擦り寄るだなんて…っ、私そんなっ…」
ようやく声を発した、リリーア様に私はニコリと笑いかけて言葉を続けた。
「あら、あの行為が擦り寄る行為じゃないだなんて、貴女のご実家では何を教えてこられたのかしら?婚約者のおられる男性に無闇矢鱈に抱きついても良いと?それが家訓ということでしたら、家訓を守っていただけの貴女には申し訳ない注意でしたわね。ムラリーズ男爵?私はそんなふしだらな教育をされている家とはお付き合いできませんわ。今後はどうぞお声をかけないでくださいましね?」
この女にどうせ何を言ってもダメなので、実家に圧力をかけることにする。
「そ、そんな教育、我が家ではしておりません!!娘の仕出かしたことは我が家の責任でございますので、お詫び申し上げます。私も責任を取り爵位を息子に引き継ぎます!ですから、どうか!我が家をお見捨てにならないでくださいっ!リルリーア様っ!」
笑顔でムラリーズ男爵を見やれば顔には流れるほどの汗が滲み出ており、ガクガクと震えながらも、必死にお家を守る為我が子を見捨て私に謝罪している。隣にいる奥方は既に失神しており、周りにいたお友達と思われる方々に介抱されているようだ。
「だ、そうですわよ?リリーア様?でしたら、あなたの恥ずべき行為は貴方のせいだわ。私、そんな汚らわしい方とお付き合いできかねますの。そんな汚らわしい方をお好きでいらっしゃる殿方ともお付き合いしたくはありませんわ。私の言っている意味が分かりまして?殿下」
リリーア様を守るように立っていた王太子殿下は私の発言を全く理解していないようで、顔を真っ赤にしながらこちらを睨みつけてきた。
「このように人前でリリーアを貶めて、なにが楽しいのだ!こちらこそ貴様との付き合いなど今後一切したくもない!貴様らは王妃となるリリーアに対する不敬罪に処する!」
そう言い切った王太子殿下にニコリと笑いかけた後、ずっと黙っていた国王陛下に目を向けた。
「……だそうですわ、陛下。私、こんな屈辱初めてです。婚約もしていない男性から婚約破棄を申し出られるだけでなく、ありもしない罪で処罰を受けるんですって!あの方何様のつもりですの?」
「なっ!!おれは王太子だぞ!」
王子様ですが、何か?
とキレてくるアホをリルーリアは冷ややかに笑い飛ばした。
それを見た国王陛下はついに腰を上げた。
「すまぬ、リルーリア。私は息子の不始末を謝罪することしかできぬ。これは我が国が招いたこと。そなたが彼の方へお伝えしたいのであればしてくれて構わぬ。しかし、国民に罪はない。我が王家のみがその咎を背負うゆえ、どうか、国民は助けてくれ」
「なにを仰られているのですか!父上!たかが公爵家の令嬢というだけのリルーリアに謝罪する必要はありません!アレは罪人です!」
なおも言い募る王太子殿下は無視して、リルーリアは薄く笑う。
「ふふ、無責任でいらっしゃいますこと。構いませんわ、賢王で在らせられる陛下と王妃様を殺めてまでのことではないですから。彼にはそこの不出来な息子供のせいと伝えますから、不幸が起こるのは、リリーア様を味方なさった方だけですわ。私の愛しの君は懐が広い素敵な方ですもね。ね?ライリアン様」
名前を呼ぶと、突如隣に若い男性が現れた。黄金の髪に碧眼の見目麗しい男性だ。年齢で言えば20代と思われる。
会場は突然の男性の登場にざわついた。
それまで隣で呆然と立っていることしかできなかったマリアーナ様はその存在に気付き慌てて礼をとった。
マリアーナ様の礼を横目に見ながら、彼はリルーリアの腰を抱く。
「私としてはこの国ごとぶっ飛ばしても全くもって心が痛まないのだけど、君がそれを望むなら仕方ないよね。しょうがないから手出しはしないでおくことにしてあげる。だけど、そこの屑どもは放っておけないよ?いいよね?シャルディオ?」
「…ライリアン、そう言ってもらえて助かる……、構わぬよ。あやつらが暴走した結果だ。事情は全て話してあったのだから」
親しげに話す2人の存在に会場はようやく彼、『ライリアン』が誰であるのかを気付き、慌てて跪くものが増えた。
「…貴様、父上になんという口の利き方を!」
そんな2人のやり取りを見ていたルドルフ殿下がライリアン様に注意してきた。
それに慌てたのは王妃陛下だ。
「ルドルフ!控えなさい!あの方をどなたと思っているの!」
「だから、誰なんですか?」
ルドルフ殿下の質問に上位貴族達がざぁっと青褪める者が多く見られた。
ふと気になって王太子殿下を見れば、彼もライリアン様が誰であるかを認識していないようである。
困ったあまちゃんな息子どもだ。
教育係は何を教えてきたのか。
噂では、両陛下があまりに優秀で操れないからと、たぬき達が傀儡を作るつもりだったと聞くが、上手くいっていないどころか、アホすぎて操りづらい問題児を作ってしまってるじゃないか。
本当に困ったたぬき共である。
そして、両陛下はとても素晴らしい方だが、子育てを完全に間違ったようだ。
「おや?私のことを知らなかったか。隣国の王の名前くらい覚えておいてほしいものだよね、ダメな子達だねー?」
当のライリアン様は、どうやらオモチャを見つけたと楽しげな気配を出し始めている。
そんな雰囲気に馬鹿にされたと気づいたのだろうルドルフ殿下は見事につられた。
「国王だと?隣国の皇帝は父上と同い年だと聞いている。となれば、もう40は超えているはずだが、貴様はもっと若かろう!嘘をつくならもっとまともな嘘をつけ!」
鼻で笑いながら告げるルドルフ殿下にライリアン様も諦め顔をした。
「…なんか、いいオモチャ見つけたと思ったのに、あいつヤバくない?シャルディオどんな教育をあいつにしてきたの?」
やっぱりオモチャだと思っていたようだ。
ライリアン様の言葉にシャルディオ陛下は深く沈んでおられたが、事実であるのでフォローなどできはしない。
「ライリアン様、シャルディオ陛下や王妃陛下は為政者としてとても素晴らしい方ですわ。ですが、そちらが忙しいあまり、子育てまで手が回らなかっただけです。致し方ありませんわよ」
「リルーリア、それは彼らを貶してるのと一緒だよ?」
ライリアン様がクスクスと笑いながら告げてくる。
「あら?そうでしたかしら?私、本当に国王陛下と王妃陛下を尊敬しておりますのよ?申し訳ございませんでした、陛下」
「構わぬ」
そんな意味を込めてはいなかったが、そう取られてしまっては意味がない。深く謝罪すれば両陛下とも気にするなと笑ってくださった。やはり御心の広い偉大なお方である。
「まぁ、それは良いとしてさ?きちんと名乗っておくけど、私は隣国ヤランディ帝国皇帝ライリアン・ヴィヴァル・ヤランディ。そして、ここにいるリルーリア・オルトロス嬢の真の婚約者だ!」
「「えっ!?」」
ライリアン様の宣言に驚いたのはオルトロス家の政敵とあまり中央に出てこない下位貴族、そして王太子殿下と先程トンチンカンにもリルーリアに婚約破棄を宣言したルドルフ殿下だ。
「まったく、先程は怒りを覚えたものだよ。私の大切な婚約者のストーカーをしていた気色の悪い人間が、婚約していた事実もないのに婚約破棄なんて意味のわからない宣言をするし、リルーリアがやっていないと告げているにもかかわらず、それを無視し、処刑するなどと言ってくるし。こいつら我が国に戦争を仕掛けるつもりかと本気で思ってしまったよ」
ライリアン様の最後の言葉で、ところどころから小さな悲鳴が聞こえてくる。
ヤランディ帝国と戦争すれば、我が国が負けることは必須。
それが分かる者達から恐怖で震え始めている。
ちなみに、先程マリアーナ様がこちらへの糾弾で倒れ込んだのは、ここら辺の事情が大きく影響しているものと思われる。
隣国ヤランディ帝国は世界最大の魔法国家であり、その圧倒的な力で周辺諸国を恐れさせている国である。
この大陸で一番の大きさを誇るヤランディ帝国は、人口はもちろんのこと多く、多民族をまとめ上げるにはこの国の国王よりももっと偉大な王が必要であり、それを25年続けてきたのがライリアン様である。
そう。25年。
20歳から皇位につき、誰よりも大きな魔力を操り、絶対的なカリスマで安定的な国営を行なっている。
そんな彼は20代の見た目をした、45歳のおじ様であるが、魔力量の多い人間はその魔力量に対して寿命が決まるので、ライリアン様の場合、魔力を持たない普通の人と比べて3倍は長生きすると言われている。
つまり、45歳のおじ様でも、リルーリアと十分に釣り合うのである。
なお、リルーリアとライリアン様の出逢いについは割愛しておこう。
なんてことないライリアン様のただの一目惚れであるからだ。
さて、そんなライリアン様の婚約者であるリルーリアに喧嘩を売ってしまった両殿下はようやく事の重大さに気づいたようだ。
だが、未だ隣に居続けたあの娘、リリーア様はさっぱり現状がわかっていない様子。
「ウィリアム様…私、怖い。リルーリア様がライリアン様に嘘を教えていらっしゃるのだわ…なんてひどい……」
リリーアは涙を瞳に堪えながら、王太子殿下に縋る。その姿を見て、守るべきものを思い出したと言わんばかりに、王太子殿下の態度はまたしても強気になり、リリーアを守るように踏ん張り始めた。それに伴って何故か第二王子殿下も背筋を伸ばし始めている。
「……あの子たち、やっぱり洗脳でもされてんじゃないの?よくあんなのからリルーリアを守ってくれたね。ブリルロイズ嬢、ありがとう」
あまりによく分からない2人の行為に呆れが勝ってしまったライリアン様は肩を竦めながら、隣でそれこそあのリリーアよりも青ざめて今にも倒れそうなマリアーナ様に声をかけた。
「い、いえ。とんでもないお言葉でございます…ですが、こんな結果となってしまい申し訳も立たず……」
「あれじゃぁ無理だよ、むしろ良くやった方だって。そんなに青ざめないで、綺麗な顔が台無しだよ?エドが悲しむから、笑っていて?」
この状況でなんて無茶を、と思いますが、確かにエド、改め、エドヴァルド・ヴァル・ヤランディ皇弟殿下は悲しむだろう。
なにせ、リルーリアがヤランディ帝国へいった際に、公務をしない王太子殿下の代理として付いてきたマリアーナ様に一目惚れして、しかし、叶わぬ恋に日々泣き暮らしていたくらいの方だ。
此度のことを聞けば、それはお怒りになり、そして好機とばかりにマリアーナ様をさらっていくだろう。
弟となる方のことを思えば良かったと思えるが、この国のことを考えたときにはあまり良くない結果なように思える。
しかし、今後リルーリアはヤランディ帝国の皇妃となるのだから、マリアーナ様がヤランディ帝国に嫁いできてくれることは良いことのように感じた。
エドヴァルド様を応援することにしよう。
「マリアーナ!貴様、私という婚約者がいながら、隣国のものと通じていたというのか!!」
「そうよ!ウィリアム様は自分はいつも1人だ。マリアーナ様には辛くあたられて辛いのだといつも悲しそうにしていらしたのに!それがまさか、浮気が原因だったなんて!!」
「リリーア……お前は本当に優しい。その優しさで、どうか王妃となり、国を一緒に見守っていってほしい」
「ウィリアム様、もちろんですわ!私は貴方の隣に立ち、貴方を支えます。一緒にこの国をよりよくしていきましょう!」
……やはり、エドヴァルドを応援することにしよう。
絶対にそうしよう。
アホ王太子の声と隣にいる阿婆擦れの言葉に余計リルーリアの決意は固まった。
なにが、婚約者だ。
通じたとかじゃなく、アホの代理を務めただけじゃないか。
「何を仰いますか!!私が、何故隣国へ行くことになったかも知らず、のうのうとその女と遊び呆けていた貴方には絶対に言われたくない言葉です!それに、エドヴァルド様の件は当時きちんとお断りしています!"まだ"貴方の婚約者でしたから!エドヴァルド様も分かってくださってましたのよ!なのに、殿下ときたら、そんなに私を悪者にしたいのですね!!もう結構ですわ!私、貴方との婚約などこちらから破棄してやりますわ!よろしくて、お父様!」
さすがの王太子の物言いにマリアーナ様もついに怒りを露わにした。
王妃教育を受け、感情をあまり表に出さなくなったマリアーナ様の久々の怒号である。傍観者に努めている周囲も皆ビックリしているようだ。
「あぁ、もちろんだとも。マリアーナ。我が家はもう、王太子殿下の後見人は勤められぬ。いかにシャルディオ陛下に仕えようとも、今後王太子殿下が国王に着くようなことがあれば、我が家は王家への忠誠を捨てる覚悟はできている」
マリアーナの側に来ていた公爵はそっと愛娘を抱きしめて宣言した。
よくよく見れば周りにはブリルロイズ派のお家の人たちが固まりつつあったようだ。
「ブリルロイズ公爵、その際は我が国がそちを引き受けようではないか。そなたらブリルロイズ家はとても優秀なのでな」
ライリアン様がにこやかに告げれば、ブリルロイズ公爵は是非とも、と言いたげに笑う。
そんな様子に慌てたのはシャルディオ国王陛下だ。
「まて、ライリアン。引き抜くな。そして公爵、早まるなよ?私とてきちんと考えてある。このような事態を引き起こしたアホどもは、責任を持って継承権剥奪し、王家からも追放する。王位は私が退いた後、王弟ターズベルド公爵子息、継承権第4位のランドールに王位を譲ることをここに宣言する。そして婚約者である、そなたの次女ナタリアーナ・ブリルロイズ嬢はそのまま王妃となってもらいたい」
「「なんてことを仰いますか!父上!」」
悲鳴のような両殿下方の叫び、そして、当の王弟殿下及びそのご子息であらせられるランドール様は、既にその話を聞いていたのか落ち着いたご様子で受け止めておられた。
「なお、王位継承権第3位である、アリシアは王位を辞退しておるゆえ、此度の運びとなった。後程正式な継承は行うが、ランドールを王太子として今日付けで任命し、その任をまっとうするように」
シャルディオ陛下のお言葉に、ランドール様は略式ながら、継承の儀式に要する言葉を返し、突然の王太子交代が行われた。
「父上!お見捨てにならないでください!父上!母上!」
「え、ウィリアム様もルドルフ様も王子様じゃなくなるの?え?」
予期していなかった状況に王太子……いや、元王太子殿下は陛下方の方へ訴えかけるも、国王陛下はつまらなそうに衛兵へ命じて元王太子と元第二王子、及び側に侍っていたリリーアを捕らえさせ、その姿を王妃陛下は少し苦しげに見つめていた。
今日、元王太子殿下が大人しくマリアーナ様との婚約を発表し、何事もなくマリアーナ様と政略なりの幸せを探していけばきっとこんなことにならなかっただろうに、どこで間違ってしまったというのか……
そして、ルドルフ元第二王子殿下は……あれは、自業自得だ。
昔から、何故かリルーリアのことを自らの婚約者だと思い込み、ストーカーのごとく付きまとい、そして何故か、婚約破棄をした男。
学生時代、そんなストーカー行為からリルーリアを守ってくれていたのがマリアーナ様であった。
時に諌め、時には私を匿い、またある時には女子の防波堤を築き上げ決して近づけないようにして下さったり。
本当にマリアーナ様にはお世話になったのだ。学生時代には既にライリアン様の婚約者であった為、守ることが必須だったと言われればそれまでかもしれないが、それでも自国の王子と戦ってまで守って下さったことに感謝してもしきれない。
「王太子の私を捕まえるとは、今後覚悟しておけよ!お前たち!」
「放せっ!父上!母上!助けてください!おい、放せっ!!」
「なんで私まで捕まんなきゃいけないのよ!ちょっと放してよ!王子じゃない2人に興味なんてないんだから!」
捕らえられて会場を出て行く様は見苦しく、酷いものだ。
3人が暴れるせいで思うように運べていないのも事実のようである。
あまりにうるさく見苦しいので他に注目を集めて、とリルーリアは隣のライリアン様に視線で訴えれば、分かったと彼は頷いた。
「シャルディオ、今回のことは残念だったよ。でも、君の英断は素晴らしいものだと私はここで認めよう。次代の王太子はとても素晴らしい人物だ。リルーリアも大層褒めていた。頑張るんだよ、ランドール王太子」
「はっ!有難いお言葉」
うまく締めくくったライリアン様だったが、ふと衛兵に連れ出されている元第二王子に目を向けた。
「何をする!俺は第二王子だぞ!放せっ!!」
なおを暴れて現実を理解していない元第二王子にライリアン様はゆっくりと近づいていく。
「ねぇ?」
「な、なんだ!!」
突然声をかけられた元第二王子はライリアン様を見やる。
「ずっと気になってたんだけど、なんでリルーリアのことを婚約者だと思ってたの?」
「リルーリア・オルトロスが婚約者だと周りに言われたからだ」
「周りって誰?」
リルーリアもずっと気になっていたことだった。
何度否定しても、そんなことはないから安心しろ、と、頓珍漢な回答が返ってくる為、誰が彼を洗脳してるのかとずっと疑っていたのだ。
「兄上を始め、側仕えの者達、リンデル侯爵やシーラント伯爵達だな」
…今上がった者達は、オルトロス家と反目している家の者達だ。
リンデル侯爵とシーラント伯爵は今ついでとばかりに衛兵に捕らえられているのが横目に見えた。ザマァみろ。
そして、兄上、つまり元王太子殿下は弟王子を陥れたくてそんな嘘をついていたのかもしれない。
学生時代、リンデル侯爵などと結託し、オルトロス家ごと弟王子を表舞台から消そうと企んでいたものと思われる。何かしらの罠は張られていたのだろう。
元王太子殿下はそういう姑息な人間であった。人を罠にはめ陥れるような。
しかし、それを跳ね除けたのは自身の婚約者であったマリアーナ様であった可能性が相当高くなってきた。
だから、マリアーナ様のことを消そうとしていたのだろう。
「まぁ、君の兄上に言われたのなら信じちゃうのも無理も無い気はしなくもないけど、ご両親から何も言われないのに良く信じていたね。本人からひどく避けられていた自覚もあっただろう?」
「それは彼女が恥ずかしがっているのだと、兄上からずっとそう言われてきたから……」
何が恥ずかしがってるだ。
あぁ、やっぱり弟王子を他の人との婚約が決まっている私にけしかけ、それを嫌がった隣国の帝王に弟王子のことを裁かせるつもりだったに違いない。
しかし、当初の予定もリリーアの存在で瓦解したようだが。
「君は、真実を確かめもせず、ただ人の話を聞いてそれを信じてしまっていたんだね」
「それの何が悪い。兄上は王になるお方だ。そして、何より臣民を信じず、誰を信じろと?」
「君の言っていることは確かに正しいかもね。けど。上に立つ者として、とても愚かだ」
そう捨てたライリアン様はそれ以降興味を無くしたように手で衛兵へ連れ出すように指示を出した。
そして、ゆっくりリルーリアのところへ戻ってきて、リルーリアを抱きしめた。
「これでストーカー事件も終わったね。良かった良かった」
にっこりと笑うライリアン様に、リルーリアもそっと体を預けた。
「さて、このような事態になってしまったが、急遽予定変更で新王太子の顔合わせ舞踏会にしようと思う。皆、思い思いに楽しんでくれ。ランドール、任せたぞ」
「はっ!」
シャルディオ国王陛下の言葉にランドール王太子殿下が頷けば、ランドール王太子殿下の周りに一気に人だかりが出来た。
いろんな問題が一気に片付きそうだ。
マリアーナ様もお母様の公爵夫人に連れられて、とりあえずこの舞踏会は不参加とするようだ。
去り際に少しだけご挨拶できたから良しとしよう。
ライリアン様と少し会場を眺め、挨拶に来る他の招待客達と話していると、ふと自分のイヤリングから自分を呼び出す声が聞こえる。
そちらに耳を傾ければため息をつきたくなる事実を知った。
「ライリアン様」
「どうした?リルーリア」
ニコニコと嬉しそうにしているライリアン様にリルーリアは呆れた顔をしたくなった。
絶対に分かっててやってる。この男。
「今日は、転移まで使って私を助けていただいてありがとうございました」
リルーリアはとりあえず感謝の気持ちだけ伝えた。
「リルーリアの為だからね、なんてことないよ」
頬にキスしようとしてくるライリアン様を剥がし、腰に手を当てた。
「ですが、無断でこちらへいらしたのですね?早く本国へお戻りになってお仕事をされたら如何かしら?先程から、呼び出しが私の方に来ておりますわ」
そう。先程イヤリングから聞こえた呼び出しは隣国の宰相からのものだった。
ふらふらと消えては執務を滞らせる皇帝に痺れを切らした宰相が作り上げた傑作である通信魔法道具だ。イヤリングをしている人同士が思い浮かべた人に連絡できるという画期的な魔法道具である。
当初、皇帝への連絡ツールとして作られたが、当の本人が全く身につけないので、仕方なく周りが全員つけたところ、他の業務でも使い勝手がいいことが判明し、今や帝国内で必須アイテムとなっている。
最近は、リルーリアの元へふらりとやってくる回数が増えてしまったので、宰相からこの魔法具を常に身につけていてくださいと懇願されている。
「えー?なんでー?リルーリアの危機だから出てくるって書き置きしてきたよー?問題ないじゃん」
「問題大有りです。有事は終わりましたから、今すぐ帝国へ戻り、今日中の仕事を終わらせてきてくださいませ」
「えぇ〜、せっかく抜け出せたと思ったのに〜。じゃぁリルーリアが一緒に来てくれたら頑張るよ?」
「…アホなんですか、貴方は。行くわけないでしょう。私はまだこの国の貴族ですの。この舞踏会には参加義務がございますわ。とっとと帰られませ」
威厳もへったくれもない姿を見せているライリアン様であるが、これもリルーリアにしか見せない姿だ。
それを愛おしく感じるが、その反面、めんどくさい。
「リルーが冷たい、泣いちゃいそ〜」
「泣けばよろしくてよ。さぁ、早く帰られませ」
それでも冷たくあしらえば、幻の尻尾が垂れたような気がする。
その仕草にキュンとくるが、ぐっと我慢してツンとすまし顔を作る。
「もぉ、分かったよ。帰国する。あぁ〜、早く2ヶ月経たないかな?そしたら君とずっと一緒に居られるのに」
「その為に早く仕事を終わらせてきてくださいませ。後々までに伸ばして、私達の結婚式が遅れるなんてことがあったら、私すぐに婚約を破棄させていただきますわ」
そう、2ヶ月後私たちの結婚式が行われる。
婚約式すら慎まやかに行われたせいで、皇帝の婚約者がリルーリアであることはあまり知られてはおらず、未だに皇帝に縁談や女性がたむろしているようだが、結婚式をすることだけは伝わっているようなので、まぁなんとかなるだろう。
母国であまり知られていないのもそれが理由だった。
リルーリアも楽しみにしているのだ。
素敵な結婚式になればいい。
「それは大変だ!今すぐ帰って仕事するよ!だからさ、私が仕事を頑張れるようにキスをくれるかい?」
腰をかがめて頬を見せたライリアン様に、リルーリアは苦笑する。
「仕方ありませんわね」
そっと彼の頬に手を当てて、顔を近づけ、頬の横にあった彼の唇を奪った。
びっくりした彼の表情が見える。
クスクス笑いながら、リルーリアは手をひらひらさせた。
「リルーリア、君は私の全て。愛してるよ」
「私もですわ、ライリアン様」
甘く溶けるような表情で愛の告白をする彼に、リルーリアは手を差し出した。
その差し出した手の甲に優しくキスを落として、ライリアン様は来た時と同じく唐突に消えた。
その後、この舞踏会はつつがなく終わりを迎えた。
さて、この国のその後について話していこう。
まず、急遽王太子に任命されたランドール様は、無難に職務をこなしつつ、多忙の中でも婚約者であるナタリアーナ様をそれはもうご馳走さまと思うほど愛しておられ、国民から絶大な人気を誇っている。
そのナタリアーナ様もランドール様のことをこよなく愛しておられるので、この2人は今後も問題なく素敵な国王陛下ならびに王妃陛下となられるであろう。
そして、国王陛下だが、息子の教育についての責任を取り、ランドール様への引き継ぎが終わり次第、退位されるそうだ。退位後は、辺境にて軍事力強化に勤められるようだ。元々軍事力によって内戦をおさめた陛下であるからこそ、の考えであろう。
王妃陛下は此度の事件に大層心を痛められ、何日かは部屋に引き込まれていたようだが、最近ようやく気持ちを持ち直したのか、国王陛下とともに政務に出かける姿が見られるようになっていた。
国王陛下が退位された暁には、ご一緒に辺境までついていかれるようだ。
どこまでも貴方とともに。
そう結婚した時に誓ったというお言葉を違えぬように、私を置いていかないでくださいましね?
そう王妃陛下よりお願いされたと伝え聞いている。
さて、その息子どもの話であるが、一時自室にて謹慎を行なっていた元王太子は、2日目には脱走を試みたようで、以後、元王太子殿下は塔に幽閉され、その後数日も経たずに病死したと周知された。
そして、元第二王子のルドルフ殿下は、どうやらあの後、本気で改心したようで、父王につき、今後は辺境で軍人として生きていくことを決めたそうだ。
リルーリアの元にも今までのことについてのお詫びと、今後一切関わらないことを約束した手紙が届いた。
彼は本当に良くも悪くもまっすぐな存在であったことは確かだ。
周囲を信じ、裏切られた男とも言えるが…
そんな彼の今後の成長に期待したいと思う。
今回の事件で完全なる被害者であったマリアーナ様は、やはり、と言っていいが、すぐさまエドヴァルド様がマリアーナ様の元に向かい、求婚したようだ。
今は前向きなお付き合いをしている最中であると聞く。きっと、この2人もうまくいくだろう。
帝国の男は、1人に対する愛情がとても深いから、マリアーナ様の傷ついた心も癒せると信じている。
そして最後に、この問題を大きくした本人である、リリーア様について。
リリーア様は、全くと言っていいほど、このと重大さには気づいていないようだ。
それどころか、よく分からない言葉で尋問官を困らせているという。
「私はヒロインなんだから、こんな展開あり得ない!バグは誰!?」
そんなことを日々叫び続けているそうだ。
なんだか可哀想だが、王国を混乱させた罪は大きい。近いうちに毒殺刑に処されるだろう。
そして。
「リルーリア、本当に綺麗だ」
「ありがとうございます、ライリアン様」
本日、リルーリア・オルトロスはリルーリア・ヤランディになります。
純白のドレスを纏ったリルーリアは、自分で言うのもなんだが、それなりに綺麗だと思う。
ライリアン様も、純白のタキシードを着用しており、キラキラ顔がいつにも増して素敵である。
「リルーリア、幸せになろう」
「ええ、貴方とともに素敵な人生を送ります。ですから、貴方様、いつまでも末永く宜しくお願いいたしますわ」
多くの帝国民達に祝福されながら、リルーリアとライリアンは結婚式を挙げた。
ヤランディ帝国はその後、素晴らしい発展を遂げる。
それは、絶対的な魔力の持ち主であった皇帝の采配あってこそと言われたが、影の支配者は奥方であるリルーリア皇妃だと噂されている。