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鉄の人  作者: 糸羽 茂吉
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最終話 28号

「鉄の人」

 それは無敵の兵士を作ろうとする計画だった。たくさんの命が失われないために少ない犠牲で済むように。だが、悲劇しか生まなかった。たくさんの犠牲を生んだ。

 「鉄の人」

 ある物はすべてを食らいつくした。 ある物はその姿を消した。 ある物は水の中を自在に動けるようになった。だがどれも完成ではない。

 「鉄の人」

 あらゆる死を乗り越え、あらゆる場所でその怪力を発揮する。まさに無敵の怪物。無敵の兵器。だが皮肉なことにそれはあの原子爆弾で完成された。あの灼熱の夏に。

ある者がいった。

 ああ、夏が来る。灼熱の夏が。その夏が不死身の兵器を作り出した。

 ある漫画でこんなことが描かれていた。


 良いも悪いもリモコンしだいだと。


それは意思の無い兵器だった。なら意思を持つ兵器は?そしてリモコンの無い兵器はただの破壊兵器なのだろうか?


 おそらくその問いに答えられるものはいない。ただ、はっきりしているのは皮肉なことにその兵器は生きていて、今実際に存在しているということだ。


そしてその名前は。


  28号。


くしくも漫画と同じ名前。

 そして、夏が来る。あの灼熱の夏が。



 最終話 28号。


俺は夏の日差しの中にいた。ありえないほどの熱さだった。周りには何もない。建物さえその熱で溶けて死んでしまったようだった。ああ、熱い。だけど嫌いじゃなかった。何もなかった。それがよかった。何も考えなくてよかった。何もしなくてよかった。誰に非難されることも無かった。ああ、熱い。熱い。雨が降り出した。真っ黒な雨だ。回りで水がはぜる音が聞こえる。だけどその冷たく黒い雨が嫌だった。終わってしまうから。この夏が。この灼熱の夏が。


 何故、死ななかったのだろう。


 月島は目が覚めた。そう、またあの夢だ。あの灼熱の夏の日。八月九日。長崎だった。今でも思う。なぜ俺は生きているのだろうと。月島は立ち上がろうとした。だが酷い立ちくらみとめまい、吐き気が襲う。これもあの日からだ。不死身になってからというものこの症状も終わらない。月島はそれでも強引に体を起こした。そして立ち上がる。月島は電車から外をみた。あれから丁度一年たつ。月島は新聞を読んだ。そこには東京に現れた化物と小屋での惨殺死体。もう、墓参りは済んだ。もう、別れも済んだ。何もかも終わっていたはずだった。一年も前に。だがまだ終わらない。自分も、秋月も。

 「終わらせなきゃな。俺も、お前も。」

 電車での長旅は終わった。長いたびは終わったのだ。


月島がいなくなってから一ヶ月が過ぎた。それでも日々は変わらないはずだった。

 「たべましょうよ。ねぇ」

 小島の声にまるで反応しない瑠璃さん。ただ外を眺めている。その目に意思は無い。あれからずっとこんな調子だった。月島が分かれの挨拶をしにきてからずっと。小島は諦めるとそのまま病室を後にした。

 「どうだったかしら?」

 「見ての通りだね。僕の力じゃ無理だよ。」

 「なにやってんだよ!あの馬鹿!それに瑠璃さんも瑠璃さんだぜ!あんな奴のために。」

 二人は顔を見合わせた。そして仕方ないという顔をした。小島と小梅は知っていたのだ。瑠璃がどうしてここで管理人をやっているのかを。どうしてああなってしまったかを。

 小島は思った。そういえばこの子は何も知らないんだと。月島の考えていることがなんとなく分かった。なんとなく。だが自分は月島じゃない。そう彼の考えるとおりに動く必要はない。

 「瑠璃さんの場合はしょうがないんだ。月島さんが救世主みたいなものだったから。」

 「そこからは私が話すわ。何も知らないのはこの子だけ。それだけは嫌なのよ。月島君が大切にしているのが腹が立つから。」

 小梅も同じ考えだった。月島はきっと夏輝を巻き込まないようにしている。そんなのは不公平だ。

 そして小梅は語った。瑠璃が肉親に売られたこと。その危機を救い、その後の生活も親身になったこと。そしてここの管理人にもしたことを。それを聞いて夏輝はただ黙っていた。だがそれだけじゃなかった。

 「ふざけんな!どうしてそんなに思われてんのにここでああなってられるんだよ!俺なら探しに行く。絶対に!」

 そして夏輝は病室に乗り込んだ。そして意思の無い人形のようになっている瑠璃を思い切りはたいた。その頬が赤くなる。その目に意思が宿る。

 「うるさい!ほっといてよ!ここで私が死にそうになれば助けてくれるの!彼は着てくれるの!」

 もう一度、夏輝ははたいた。

 「本当にそう思ってるのかよ!アイツはもう自分じゃ来ない!来れない!アイツはいったんだろう何かをきめて。みんな聞いたよ。あいつのこと。アイツが何なのかも全部。あんたは知ってるのか?」

 夏輝は小島と小梅から聞いた。月島が戦後、ある実験に関わった人間を殺して回ってることを。そして、月島自身がその化物であるということも。だが「鉄の人」が何なのかは分からなかった。本当の意味での。

 「どうでもいい!どうでもいいの!彼がいるなら!」

 そのまま夏輝は思い切り瑠璃を殴った。今度は拳を握ってそのまま顔に思い切り当てた。その光景に唖然とする小梅と小島。

 「月島さんのことを知ろうともしないで自分のことばっかり押し付けるんじゃない!俺もそうだったけどもう月島さんは限界なんだ。多分。もう。」

 そのままうな垂れた夏輝。その手の拳はいつの間にか震えていた。

 「寒いわね。ほんと。」

 小梅が呟いた。


 「来ましたか。舞鶴さん。それにとっておきの人もついたようですね。」

 舞鶴は花鳥風月にいた。この月という男。戦後、この社会を裏から知り尽くしているというのはもぐりでも知っている。そして私はついに真実を、あの月島という男のこと、そしてあの事件。人が消える事件の真相を知ることが出来る。だが驚いたのはドアを開けて後ろから来たのが月島だったことだ。

 「どうして貴方が!」

 「驚くことじゃないだろ。俺のことを調べてたんだろ。これを読めばすべてが分かる。」

 月島は古い資料をそのままぞんざいに舞鶴に投げてよこした。その表紙には「鉄の日」と書いてある。それを怪訝に重いながらも舞鶴は読み進めていった。そして驚愕の表情に変わっていく。

 「何だこれは!馬鹿げてる!」

 「そうだよな。だがそれが事実だ。真実ではなくな。それ以外の答えは無い。そして、それも終わる。知りたいならついて来い。「鉄の日」がもうすぐ始まる。それだけは止めなければ。」

 月島はそういって無言で銃を差し出した。それはあの「崩壊薬」の撃つことができる銃。そして、それをためらいながら手にする舞鶴。

 「月。アイツは、繰り返すつもりだ。戦争を。俺たちを。だから後始末だけは頼む。俺が出来れば良いがそれは出来ないかもしれない。」

 「おかしなことを言わないでください。貴方は不死身じゃないですか。」

 「終わりの無いものなんてない。コーヒーを。苦くて好きじゃないが俺には丁度いい。」

 月はコーヒーを作り始めた。


「ああ、苦い。」


 月島はいれられたコーヒーを飲んでそう呟いた。


 「結局、ここにしか手がかりは無いよ。」

 そういって小島は花鳥風月の前に立った。夏輝が小島の顔を見返す。瑠璃は言われるがまま、引きずられるままここまできた。そして、夏輝は小梅と小島に頼んだのだ。月島はどこにいるのか?手がかりは無いのかと。そして小島がここにつれてきた。ドアを開く。いつもと違って重かった。そこには月がにこやかな顔をしていた。

 「来ましたか。どうやら月島さんのことを話さなければならないようですね。その前にコーヒーを。それが私に出来る唯一のことですから。」

 コーヒーを誰も飲まなかった。出されたコーヒーから湯気が消えるまで誰もが無言だった。一番はやはり夏輝だった。

 「どうしていままで知らない振りをしてたんだよ。」

 「それが月島さんとの約束でした。いや、戦争終結と共に交わした約束です。「鉄の人」のことは誰にも喋らないと。無論、小島さんたちは別ですが。」

 小島は冷めたコーヒーを口に含んだ。そして、そのまま少し飲む。

 「僕は、「鉄の人」で関わる人間の監視。いや、月島さんの監視を任務にしていたんだ。彼も「鉄の人」だから。」

そして、小島は一つの写真を取り出す。そこには小島と一緒に笑っている男の人がいた。

 「月島さんと本当の意味で会ったのは兄が薬を飲んだときだった。「神薬」それを使ったときだった。「神薬」は「鉄の人」にするための薬。人間を兵器に、化物に変える薬。僕たちはどんな形であれこの薬と「鉄の人」に関わっている。」

 「私は知らない!そんなもの!早く教えてよ!どこにいるの?ねぇ!」

 立ち上がり激しく叫ぶ瑠璃。だがその声をまるで聞いていないかのように続けていく。

 「僕は、月島さんに兄を殺してもらった。化物になった兄を。そしてそれを否定した僕を助けてくれた。」

 小島は辛そうにそう喋った。

 「私は月島さんに助けてもらった。おじさんとあわせてくれた。化物になったおじさんと。最後までやら無くても良いのに。関わってくれた。」

 小梅さんも同じく辛そうに。

 「私は、彼に見逃してもらっている。「鉄の人」それの私は関係者だった。いや、それを進めた責任者といってもいい。だが彼は言った。お前にはすべての後始末を頼むと。私に贖罪の機会をくれました。」

 月はそういった。その顔はやはり苦悶に満ちている。だがその顔はもうその子とを受け入れているのかすぐに戻る。

 その言葉に、そのみなの顔に瑠璃は後ろに後ずさりながら首を横に振る。

 「違う。私は、私だけ助けてくれた。そのはずじゃないの?化物?私は関係ない!」

 「あの時、月島さんはあの場に「神薬」があることを知り乗り込みました。だけどいたのは貴方だった。「神薬」にはもう一つ使い道がある。粉末にしてそれを皮膚に塗りこむ。それは刺激への過剰な反応を引き起こします。貴方は知っているんじゃないですか。」

 月島の口調はやさしかった。あのとき、慰み者にされていたあの時、確かに自分の体には、この世には無いほどの苦痛と快楽の連続だった。気が狂いそうだった。それを助けてくれたのが月島だった。

 「嘘よ、彼は、嘘よ。」

 「貴方を助けたのは確かに月島君です。それだけは確かです。任務ではなく、自分の意思で。」

 月はやさしく瑠璃の頭をなでた。瑠璃はその場に座り込んだ。

 「じゃあ、俺も?」

 「さあ?貴方にどんな意味があるのかは分からない。だけど貴方は、かなり大切にされていたようです。自分の娘みたいにね。だけど、貴方の名前には意味がある。多分意味が。」

 「意味?」

 月島はそのとき外を見た。外ではもう季節が移ろおうとしているのに必死でないているセミたちがいる。まるで夏を終わるのを拒んでいるかのように。

 「彼は言っていました。夏が来ると、灼熱の夏がくると。そのときやっと自分は負われるのかもしれないと。」

 「夏輝?だから夏輝なのか?」

 「分かりません。ただ貴方にはまだ役割があるのかもしれません。貴方だけの。そして彼は多分軍艦島に現れます。秋月がやろうとしていることを止めるために。」

 

 

 「酔狂だねぇ。月島。なあそう思うだろ?みんな。」

 秋月は写真たてを手に取った。そこにはたくさんの人間が映っている。だが、皆が人間には見えない。まるで化物屋敷の写真だった。そこには3号や、4号、15号も映っている。もちろん月島も。

 「私たちは望んでいない。戦争が終わることを。何故、私たちを否定した人間たちの世界を容認せねばいけないんだ。」

 そして椅子に座り一つの試験管を手に取る。そこには「神薬」があった。鈍く緑色の光を放っている。

 「皆が同じになればいい。さあ、最後の作戦を開始しようか。「鉄の人」を。」

 その暗闇には誰もいない。


 「打ち捨てられた場所だよ。俺たちのな。舞鶴。何故俺たちがこうも数が少ないと思う?」

 舞鶴たちは船に乗っていた。目的地は軍艦島だった。波に揺れる船。そして、月島は銃を握り締めた。そしてその中の弾丸に真っ赤な弾丸があった。それを握る。それはお守りのように。

 「元から作られた数が少なかったんでは?いや、すみません。」

 「気にするな。どうせ俺たちは兵器だ。だがな。心がある。そう、あそこで俺たちは処分されたんだ。日本の暗部として。思い出すだけで心が狂いそうになる。」

 来る日も、来る日も、同胞たちが「崩壊薬」のはいった浴槽に落とされていく。来る日も、来る日も。天皇のために、国のために。だが負けた日本の、何のために俺たちは死ねばよかったのか今でも分からない。その光景は壮絶だった。死ぬためだけの行列が長蛇の列をつくる。逃げようとしたものも問答無用で落とされ崩れていく。

 「俺たちを何故作った?良いも悪いも人間しだいだといった。だが俺には人間は悪魔にしか見えない。兵器の俺たちよりも。」

 話し終えた月島は舞鶴にそういったあと何も喋らなくなった。何も。

  船がついた。そのとき舞鶴は月島の顔をみた。その顔は憎悪に歪んでいた。

 「貴方はこのまま人間が、」

 「死ねばいいとおもっている。だが秋月がやろうとしていることは容認できない。俺たちを増やしてどうする?また同じことになるだけだ。」

 軍艦島。捨てられた場所。そして「鉄の人」が処刑された場所。そして秋月が最後の作戦を開始する場所。


私は生まれた。作られた!その役割を果たすために。「鉄の人」。無敵の兵士を作ること。無敵の兵器を作ること。戦争の早い段階でそれは進められた。当然だ。世界相手に何もかもが足りなかった。道具も、資源も、人間も。だからこそ作られた!すべてを破壊するために。だが足りなかった。作る人間の賢さも、思想も、全部!何故!我々に心を与えた!何故!完全に作らなかった。何故!もっと早く作られなかった!何故!私たちは作られて処分されねばならない!何故!何故!何故!何故!

「だからこそ許せない!何故!戦争が終わって何もかも忘れようとする!何故!我々を認めなかった!こんな世の中真っ平御免だよ。こんな世の中誰が望んだ!私たちが望んだのは私たちが生きられる世界だったはずなのに。なあ、みんな。」

 秋月は振り返った。そこには何もない。軍艦島の中央、炭鉱があった場所。そして、その地下深くに秋月はいた。真っ暗闇。何もいるはずがない。だが、秋月には見えた。後ろには仲間が「鉄の人」がいたのだ。皆が悲しそうな目で秋月を見ている。

「何故!私が政府の命令で仲間を殺さなければならなかった。すまなかった。本当に簿面よ。だけど、もうすぐ、もうすぐ、終わる。「鉄の日」が来れば。」


「そう!皆が私たちと同じになればいい!」


「彼は何をしようとしているんですか?」

「薬を海にばら撒くのさ。ありたっけ。それを摂取した魚にそれが蓄積される。もともと薬は人間にしか効果がない。そしてその一件変わらない魚を食った人間は化物になる。それを繰り返す。さらに言えば薬を少量でも摂取した魚は濃度を自分自身で高くする。薬を体内で作り出すようになるんだ。そして、世界が「鉄の人」で覆われる。これが「鉄の日」。」

 舞鶴は息を呑んだ。全人類の「鉄の人」にすること。それが秋月の狙い。だが、秋月自身だってそうなるはずだ。自分の家族だって。

「アイツに家族はいない。いや、いるとしたらそれは俺たちだ。そして秋月こそが真の「鉄の人」。アイツほどそれらしい奴はいない。」

「どういう意味ですか?本当の意味で「鉄の人」とは?」

「アイツだけなんだ!アイツは「鉄の人」同士の子供として生まれた。まさに新しい人間だった。そしてアイツだけが本当の意味で不死身だったんだ!」

そう喋りながら突然咳き込む月島。そして思い切り口から血が出る。あれほど血を流さなかったのに。怪我では決して。そして自嘲気味に笑う。

「俺はかつて失敗作だった。だがあの日。原子爆弾が落ちた日に俺は変わった。アメリカは隠しているがあの爆弾には人に、いや生物にとって有害な何かがあったんだ。だがそれが思わぬ方向に作用した。」

月島の体は常に蝕まれている。だがそれを「鉄の人」の体が抑える。そしてその以上に増殖する細胞が月島の体の燃料になっている。そしてその異常な細胞は鉄の人の力によってその力をコントロールされている。まさに蜘蛛の糸のような危うい関係。だが、それは強固であり絶対。そしてそれは永遠に病魔に蝕まれ続けることを意味する。

「それでもおかしい!年齢の計算が合わない!」

「俺は薬を打たれたのはかなり昔だよ。起きたら皆死んでいたよ!そう、俺は打たれてからずっと、秋月が生まれるまで俺はずっと寝続けていたんだ!俺の知り合いは全員死んでたよ!やけになって戦争にも参加したがすぐに終わった。それだけじゃない!いつの間にか死ななくなってたんだ!」

 何もかもが理不尽だった。その実験が行われたのがいつなのかさえわからない。だが、自分を知っている人間はとうにいなくなっていた。そして、「鉄の人」の仲間も、つぎつぎと薬を打たれて誰が誰だかわからなくなっていった。自分を知った人間はつぎつぎといなくなっていった。ただ眠り続けていただけなのに。なら目覚めなければよかった。何故自分は目覚めたのか今でも分からない。そして島の中央にたどり着こうしていた。だがそこに現れたのは秋月ではなかった。見たことのある彼らだった。

「俺を殺しに来たのか?なあ、どうなんだ?」

だが、その姿は一瞬で掻き消えた。そして暗闇が口をあけて待っている。大きな、深い深い炭鉱の名残。そしてここは海にもつながっている。そこから終わらせるつもりなのだ。秋月は。この世界を。

「ついて来い。知りたいならな。命の補償はしないけどな。」

「ここまできて帰れますか!」

そうかたくなに言い放つ舞鶴をつれて炭鉱の入り口まで歩いていく。だが、そこには黒服の男たちがまっていた。皆、銃で武装している。だがそれをおもむろに自分の体に向けて撃ったのだ。固まる舞鶴。だが、次の瞬間、月島は弾丸をその人間に向けて撃っていた。ためらいなく。

「なにしてるんですか!」

舞鶴がそのあまりの光景に月島に怒鳴る。だが月島は苦い顔をした。

「5人中、3人しんだが後二人はご愁傷様だ。せめて人間のうちに殺してやりたかったが。」

 その一言に舞鶴は一つの可能性に行き当たった。そうだ。もし、薬自分で打ったなら、そして今の言葉を考えるならば。そう考えるとその背筋が凍った。そう、二人、生まれてしまったのだ。化物が。あの兵器が。そう、考えているうちにも男の一人の腕がいように伸び皮膚がこうもり傘のように伸びていく。そして口からは巨大な牙が生えてくる。そしてもう一人は体の下半分だけが真ん中に割れかにのような足が這い出てくる。そのあまりのおぞましさに舞鶴は吐き気を覚える。だが、月島は止まらない。その間に弾丸を「崩壊薬」に変え、それをまだ変態途中の彼らに浴びせる。穴から徐々に崩壊していく兵器たち。

「があああああああああああ。」

だが、それでも倒れない。

「無駄に生命力をつけやがって!ここで俺が終わらせてやる!」

月島はそのまま突っ込んでいく。走っていく。ただそれを舞鶴は見ているしかなかった。月島は近づくと翼を生やした男の首を引きちぎった。とめどない鮮血があたりを地に染める。そしてその返り血を舞鶴が浴びる。

「ひぅ。」

出たのはそんな悲鳴だけだった。舞鶴はただへたり込み震えるだけだ。そしてかにのような男の足をつかむと思い切り何度も何度も地面にたたきつけた。たたきつけられるたびに血がとめどなく地面にこびりつく。そして、動かなくなるまで何度もたたきつけた。なんども。そこには原型をとどめていない。ただの肉の塊があった。

震えていた舞鶴はその光景にいささか混乱していたがそのまま自分の足で立ち上がった。それをみて月島は軽く驚く。その顔は真っ赤に染まっていた。

「なんだ。以外に元気そうだな。」

「もっと酷いものがこの世にはありますから。」

「そうだな。いつも酷いのは人間だ。」

そういうと月島はあったタバコに火をつけた。煙が暗闇に吸い込まれていく。真っ白な煙がまるでいざなわれるように。


「へぇ、来たんだ?月島君。君はてっきり賛成だと思ったんだけど。まあ、いいや。彼には危害を加えないでおいて。どうせ死なないし。後の連中はいいさ。彼らにも見せてあげよう。同じ人間のやったことを。」

秋月が笑った。そこには誰もいない。少なくとも人間と呼べそうなものは。


 「ここが長崎、軍艦島。」

 夏輝たちは月島たちより早くここに到着していた。そして、炭鉱の中を歩いていく。真っ暗だ。何も見えない。小島が少しずつ喋りだす。

「もともと、「鉄の人」はここで研究され、そしてここで処分されていった。中には違う場所で作られたものもあったが基礎的なものはすべてここで作られた。俺の兄も、そして小梅さんのおじさんもここで働いていたことがある。いや、そんなことはどうでもいい。そして、ここが地獄の釜だった。」

炭鉱の中ほどには大きな大きな穴があった。深くて何も見えない。だが時折流れる風の音が反響し何かがうめいているようだった。瑠璃はその声に驚いて後ろに後ずさった。

「どういう意味だ?地獄のかまって?」

「ここで処分されたんだ。「鉄の人」はほとんど。いきたままここにいれられまさに煮るように、処分されていったよ。そのときのことを月島さんはこういっていた。」


「人間に勝る悪魔はいないって。」


「そうだ!人間に勝る悪魔はいない。そして悪魔が作るものにいいものなどないさ。なあ、29号!」

 正面を見ると秋月が浮かんでいた。いや、浮かんでいるのではなかった。浮かんでいるように見えるだけだった。秋月は立っていた。大きな、大きな化物の背に立っていたのだ。

「君たちは見覚えあるんじゃないか?」

その怪物はまるでたこのようだった。だが中央の大きな肉の塊には見たことのある部位があった。そして大きな肉の塊の顔も見覚えがある。そしてその見覚えのある物がしっちゃかめっちゃかに体をたこのような姿にしているのだ。大きな中央の肉の塊に大きな職種のような足が8本あるのだ。

「嘘だ!」

「嘘よ!」

「嘘!」

「怪物!」

少なくとも三人とも見覚えがあった。いや、化物の体の一部分に。夏輝だけがそれが何なのか分からなかった。だが他の三人はただ信じられないという風にその怪物を見ている。

「ハハハハ。感動の再会かな。なあ、諸君。」

「おじさん!おじさんの体!」

「兄さん!兄さんの腕!あの時のカップルの顔!3号の顔!」

「あの時、私をうった弟の顔。」

その怪物の体は三人にとっての知り合いのものだった。いや、そのものだった。それらが乱雑に組み合わさっている。

「君らの知り合いの体を繋ぎ合わせて作られた29号だ!さあ、感動をかみ締めたまえ!そしてもう一度殺したまえ!自分の大切な人間を!」

29号は秋月を下ろすとそのまま夏輝たちににじり寄ってくる。

「夏輝ちゃん。君は先に行ってくれ!どうやらこれは僕たちでなければいけないようだ!」

「そうね。残念ながらその役割は私たちみたい。」

「仕方ないのね。いきなさい。私も行きたいけどどうにもこれを見せられたら行くことは出来ないじゃない。」

「でも!」

3人の声は一致した。そのとき初めてかもしれなかった。

「「「行け!邪魔だ。」よ。」」

その声に言われるまま夏輝は走り出した。何故か涙が止まらなかった。

 化物の横を走り抜けていく。だが、化物はそれを追おうとはしなかった。ただ小島たちを見ている。そして不意にその姿が消えていく。

「4号の消える能力!やらせるかよ!」

その声と共に銃弾が吐き出される。暗闇に閃光が灯った。


そこには大きな薬品がたくさん備え付けられていた。大きなドラム缶のようなものにたくさんたくさん。まるで捨てられるようにおいてあった。それだけで壁が出来ていた。そして潮風が流れる。炭鉱の最深部。だが天井は崩落の性で空が見えている。そしてそのさらにおくには水が流れ込んでいる場所がある。

「やっと来たかい。月島君。いや、28号!」

本当に嬉しそうな顔で月島のほうを向いた。それと対照的に苦しそうな顔をして秋月のほうを月島は見た。

「ああ、来たさ。秋月。いや27号!本当の「鉄の人」」

二人はしばし無言だった。舞鶴はそれをただ後ろから眺めているだけだった。しばらくして舞鶴に気がついたのか秋月が嫌そうな顔をする。

「何故人間を連れてきたんだい?」

「どちらに終わるにしても結末を知らせる人間が必要だと思ったからだ。何も知られず、忘れられるのだけは御免だからな。」

「そうだね。なら彼は見ているだけかい?」

「俺たちに手出しが出来ると思ってるのか?」

「聞いてみただけさ。」

二人は軽く銃を構え、そしてそのすべてを打ち切るまで相手に打った。だが、二人は何事も無かったかのように立っている。二人とも服に穴をあけただけで。

「「始めようか!」」

二人が、お互いに向かって歩き始めた。そして、殴り始めた。二人とも全く相手の攻撃を防ごうとか、避けようとはしなかった。ただ、ただ殴る音だけが辺りに響いた。


 「どうして!どうしてだよ!こんなことになるんだ!」

夏輝は走っていた。ひたすらに。今までのことが走馬灯の用に思い出される。なぜかそのほとんどが月島とあってからの思い出だった。楽しい思い出だけだった。その一つを思い出すために胸が痛んだ。また一つ、思い出すために心が痛む。それでも思い出さずにはいられなかった。


「これが僕たちの罪ですか。以外に早かったですね。」

小島は以外に落ち着いた声でそういった。だが目の前には異形の怪物が迫っている。どうやら「崩壊薬」もあまりのその巨体に効果が薄いようだった。

「そんなものあってたまりますか!私の場合は完全にとばっちりですよ。」

瑠璃は半狂乱になりながらも月から渡された銃を撃っていた。皆に配られたこの銃はすべて「崩壊薬」がセットされている。

 「確かに。貴方は関係ないかもね。これは私たちの罪なのだから。」

異形の怪物が吼える。その声はもはや人の声ではなかった。そして小島と小梅がほっと安心したかの用にため息をついた。

 「なに?余裕なら早くやッつけてください!私にとってはただの憎い奴なんだから!」

 「「安心したから。彼らには心が無い。そうただの化物だって分かったから!」」

 二人が全く同じことを言うとそのまま拳銃を構え撃つ。壊すために。その完全なる兵器を。だが二人でいっせいに撃っても倒れずに突っ込んでくる。

いつの間にか二人の後ろには逃げ道がなくなっていた。

 「がああああああああああああ。」

 二人に巨大な足が襲い掛かる。だがそれと同時に瑠璃の絶叫が木霊した。

 「消えなさい!この馬鹿野朗ううううううううううううう!」

 怪物の顔、そう、自分を売った弟の顔に「崩壊薬」をありたっけ叩き込んだ。そのあまりの威力に怪物は後ろにのけぞっていく。

 「やりますね。」

 「なかなかやるじゃない!」

 「まだ、月島君に会わなくちゃいけないんだから当然よ!」

 三人は頷いた。そして銃弾を怪物に向ける。そして全員で同じ場所に叩き込んだ。そして怪物は悲鳴を上げそしてあの大穴のほうに向かっていく。そして落ちていく。怪物は落ちるのを何とか逃れようと足をばたつかせる。その一部が瑠璃の体をつかむ。だが「崩壊薬」でその足も崩れていく。そしてゆっくりと怪物が落ちていく。そのときだった。


 「助けて。」


か細い声だった。その声に瑠璃は聞き覚えがあった。瑠璃は呟いた。

 「私のときは助けてくれなかったのに何で?」

 いつの間にかないていた。


 いったいどれだけの時間が流れただろうか?ただ辺りには肉を打つこぶしの音だけが響く。いったいどれだけ殴りあったのだろうか?軽くもう、3時間はやっている。だがそれでも二人は終わらない。終われない。

 俺にその音が聞こえてきたのは走って大分時間が経ったときだった。走るにつれて、近づくにつれてその音は大きくなっていく。だけど、どれだけ走っても終わらない。終わらないのだ。その音が。俺がたどり着いたときも二人はまるで意に介さないかのように殴りあっていた。

 会えた。やっと会えた。なのに嬉しくなかった。それよりもその光景で頭がおかしくなりそうだった。

 「月島さん!」

 二人が唐突に殴るのをやめた。月島が夏輝のほうを向いた。その顔には久しぶりにあった友人に対する顔のように懐かしくて仕方が無いといった感じだった。

 「久しぶりだな。もう会えないかと思っていた。いや、会わないほうがよかったのにな。」

 「何でだよ!今ぐらい喜んでくれよな!」

 いつの間にか泣いていた。月島ははかなく微笑んだ。

 「そうだな。ありがとうな。俺に関わってくれて。夏輝。舞鶴、あとを頼めるか?どうやらもう、終わりのようだ。せめて俺の知り合いが来るまでとは思ったがまさか夏輝が来るとはな。」

 秋月は肩をすくめた。そして月島から離れてドラム缶のほうに歩いていく。

 「待て!」

 秋月は月島に背を向けたままとまった。

 「君が納得するまで殴りあってもよかったけどまさか他の人間が来るのを待っていたとはね。がっかりだよ。」

 「別にまっていたわけじゃない。来なきゃ、来なくてよかったんだ。この様子じゃ他の連中も来てるのか?」

 夏輝は思い出したかのようにあわてる。彼らは無事だろうか?それよりも生きているのだろうか?

 「彼らは29号が相手をしているよ。全くもって邪魔な存在だったから。」

 そのとき本当に月島が辛そうな顔をした。そして顔を伏せる。

 「お前はどれだけ苦しめるんだ。「鉄の人」を俺たちの仲間を。せっかく死ねたのに。何故蘇らせた!」

 「許せなかったからだよ。何も知らず生きていくやつらがね。だからだよ。彼らを苦しめるために。」

 「もっとつらいのは俺たち自身だ。」

 そして、真っ赤な弾丸をそのまま拳銃にセットする。ガチャリという音が辺りに響く。それでも秋月は後ろを向かない。それを秋月に向ける。向けたときだった。小島達が月島たちのところに到着した。

 「月島君!月島君!帰ろうよ!」

 後ろでに声を必死に呼びかける。だが秋月と同じように後ろを振り向かない月島。

そして静かに語りだした。

 「瑠璃さん。酷いこといってすまないな。いつもご飯おいしかったよ。」

 「なら、帰りましょうよ。ねぇ。」

 「小梅。お前は俺といてよかったか?答えは見つかったか?ありがとな。」

 「答えは分からないわ!それでも貴方といてよかった。それだけは確かよ!だから帰りましょう。」

 「小島。お前はどうだ?何か出来たか?俺はお前のこと許せないけどどうにも憎めなかった。どうにもお前らといると楽しかったよ。」

 「僕も楽しかった。だからもういいんです!」

 そして、最後だけ、夏輝に声をかけるとき月島は振り返った。

 「楽しかった。お前をひろってから本当に。ありがとうな。まるで娘が出来たみたいだった。本当に楽しかったよ。」

 夏輝は泣きながら月島のほうをずっと見ている。

 「なら続けようぜ?ここで終わりなんて嫌だ!俺は、俺たちはまだ一緒にいられるだろ!俺は月島さんの嫁になるんだ!」

 そう夏輝が言い終わると月島は笑った。ひたすらに。狂ったように。そして、前を向く。低い声を出して。

 「けれど許せないんだ!俺たちをこんなにした奴ら。俺たちのことを知らない奴ら。俺たちのことを化物呼ばわりする奴ら。俺たちを除外しようとした奴らが!だから俺は終わらなきゃいけない。ここで生きていたら辛すぎるんだよ!」

 「なら、終わらせれば良いじゃないか。」

 秋月が止まったまま後ろを向いたまま言う。だが、それでも月島はその銃を下げなかった。

 「終わらなきゃならないんだよ!俺たちは!畜生!お前は繰り返す。あの時、あのカップルに崩壊薬を渡したのはお前だな秋月。実験のために。」

 「そうだよ。実験のために。」

 「だからだ。お前も変わらないんだ。俺たちを作った奴らと。そして、俺たちがいるかぎりその連鎖は続く。だから終わらせる。そう、あの夏のように。」

 引き金に力をこめる。秋月は笑った。狂うほどに。

 「僕は死なないよ?それにまだ生き残りがいるんだよ?0号知っているだろう?」

 月島は笑わなかった。

 「0号はただの人間だ。それに終わりの無いものなど無い。」

 そして、引き金を引いた。その銃を自分に向けて。赤い弾丸が月島の体を貫く。そして、月島から血が流れた。その光景をみて驚く秋月。舞鶴。

 「どうして血が?」

 そういう間にも月島は迫ってくる。そして秋月を捕まえると無理やりその血を飲ませた。強引に。すると秋月からも血が出たのだ。口から血を吐き、その光景に信じられない様子の秋月。そして、二人の血が混じる。混じったところから砂のようになっていく。その光景をみて対照的に笑う月島。

 「これが終わりだ。」

 「離せ!離せよおおおおおおお!」

 その血が混じったところから砂になる。砂が風に吹かれ辺りに散らばる。その砂は真っ赤だった。赤い砂。それは彼岸の花のように真っ赤だ。そして砂が当たったドラム缶も砂になっていく。ドラム缶がまるで砂で出来たものだったかのように、そしてそれが魔法が解けたかのように砂になっていく。見れば、銃も、何もかもが砂になっていく。「鉄の人」に関わるすべてが。赤い砂になっていく。

 「ハハハハハ。これで終わる。ああ、夏が来る。灼熱の夏が。」

 そういうと月島は火を自分の体につけた。捕まえられた秋月にも火がついていく。そして、あたりに広がっていく。

 「やめろおおおおおおお!」

 「ああ、熱い。熱い。ああ。熱い。」

 その光景に誰も喋れなかった。誰も行動できなかった。しばらくその姿が目に焼きつく。人が燃えている。業火で燃えている。その光景は目に焼きつくようだった。わすれらるものではない。写真を撮る舞鶴。パシャという音がした。その音で我に返ったかのように夏輝や瑠璃、小島、小梅はその炎の中に飛び込んで月島を助けようとした。だが、そのあまりの火の勢いで近づくことが出来ない。その中からは月島の笑い声と、秋月の悲鳴が聞こえる。

 「砂になっていく。体が無くなる!熱い!熱い!」

 その声もやがて消えてなくなる。だが笑い声だけは聞こえる。

 「消えろ!消えろ!きえてしまえ!炎で消えてしまえ!ハハハハ。俺たちを作った奴らごと。俺たちを忘れた奴ら。全員だ!ハハハハ。燃えろ!燃えてなくなれええええええ!」

 そして天井が崩れる。炭鉱が熱で崩れていく。

 「ここは危ない!早く逃げるんだ!」

 小島たちは呆然としていた。ただ、言われるがままに走るしかなかった。崩れていく音さえ月島の笑い声に聞こえた。


 事件から数ヶ月がたった。何も変わらない。何も変われない日常だった。墓参りに着ていたのは月だった。その顔はとても悲しそうで手にはみかんを持っている。

 「あの時死ねたんですね。貴方は。そうですか。0号と27号、そして自分の血を混ぜて死んだんですね。」

 27号も28号も不死身だった。だが、互いの血だけは弱点だった。だがお互い血を流さない二人にそれは無意味のはずだった。だが、違った。彼らも血を流した。そう、0号の血を摂取することによって血を流したのだ。月は思う。本当に酷い人間だと。月島は本当に酷いと。

 「わざわざあの光景を見せる必要は無かったはずだ!それに最後は夏輝ちゃんの血を使って死ぬだなんて本人が知ったらどうなるか。」

 

 「鉄の人」そしてその最初であり、最後は夏輝だった。変わったところなど無い。ただの人間だ。だが彼女だけが真の「鉄の人」を殺すことが出来た。彼女こそが終わりだった。彼女こそが最後の「鉄の人」だった。彼女の血が安全装置だったのだ。

 

 「貴方はこれで満足ですか?それに分からない。貴方は本当に夏輝ちゃんのことをどう思っていたのかが。あそこであの光景を見せておきながら正体をばらさなかった。秋月でさえ知らなかった彼女のことを。何故なんですか?」

 だが、誰も答えない。そこにはただの石で出来た墓石があるだけだった。ただ、経っているだけだった。

 「月さん!月さん!おい!月島さんから手紙が届いたんだ!」

 それは夏輝宛だった。月宛のものもある。他のメンバーもそろっていた。高穂と呼ばれた月島の部下にも、舞鶴にも、小島にも、瑠璃にも、そして小梅にも。

そして皆がそれをあけて読んだ。読むまでは皆複雑な顔をしていた。そして花鳥風月でコーヒーを飲んだ後皆それぞれに意を決して読んだ。


 夏輝に。これを読んでいるということは俺は死んだみたいだな。死んでから届くと思うと少し不思議だな。さてお前は見たかもしれない。俺の最後を。俺は多分、この世を恨みながら死んだんだろうな。確かに憎い。この世が。だけど気にするな。そのときの艦長なんてその場で変わるもんだ。現に今の俺はあまりこの世を恨んでいないんだ。憎いけどな。

俺は、お前に会えてよかったよ。知り合いはみんな死んじまった。けれど、お前に会えてそれも気にならなくなったよ。それに礼を言わなきゃならない。俺が死ねたのは多分お前のお陰だ。いろんな意味で。俺は死ぬ気なんて無かった。けど死ななきゃならなかった。けどお前に会えて分かったんだ。俺はお前が死んだら悲しい。だからお前が先に死ぬ前に死ぬってきめたんだ。決められたんだ。本当にお前はいい奴だった。そして本当にかっこいい奴だったよ。そういえばお前は最初に俺に言ったな。俺の嫁だってな。馬鹿いうなよ。俺は親父で、お前は馬鹿娘だ。ああ、なんだか字がにじむな。すまない許してくれ。最後に一つだけ。


お前のこと好きだよ。本当にな。


 ガラにも無いな。だから生きてくれ!誰よりも長生きしてくれ!それだけだ。

 夏輝はその手紙を読んで泣いた。ただ泣いた。そして呟いた。

 「死ねないじゃないかよ!」

 誰も答えてくれなかった。手紙はまだ、まだ続いていた。だけどこれ以上は夏輝は誰にも読ませなかった。そしてその涙で手紙がにじむ。そのにじんだ後は手紙のにじみによく似ていた。


 月にもいろいろ書かれていた。だが一番大きかったのは


もう、いい。十分だ。ありがとう。


 その言葉だった。


 小梅も、小島も、そして瑠璃も決して教えなかった。誰にも。ただ一つだけ共通していたのは誰よりも長生きして欲しいということだった。そうそれは全員にいえることだった。

 「俺には酷いことかくんですからねえ。月島警部。」

 高穂も泣いていた。

 「写真出せよか。あんたは予知能力でも持ってるのか?」

 舞鶴も泣いていた。そして手紙の最後には震える手でこう書いてあった。

 「皆覚えてくれてるだろうか?俺なんかのために涙を流してくれるだろうか?」

 夏輝たちはまた墓の前に立っていた。そして胸を張って月島に言うことがあった。皆が泣いていた。だけど皆で声を合わせていった。


 「「「「「「当然だ。」」」」」


蝉が鳴いている。また夏が来る。灼熱の夏が。もうすぐ2年だ。戦争が終わってから。


蝉はそんなこと知らないかのように激しくなく。


空には大きな入道雲がある。これから雨が降る。また夏が来る。



最後まで読んでいただきどうもありがとうございました。少しでも貴方の記憶の片隅にでもあれば幸いです。


台詞等 参考 鉄人28号

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