身勝手な願い。身勝手な答え
「崩壊薬」それは「鉄の人」を殺すための一種の安全装置。だが何故、人は「鉄の人」になるのだろうか?どうして同じ「崩壊薬」で殺すことが出来るのだろうか?
ここに一つの答えがある。
「神薬」。そう呼ばれるものはほとんど「崩壊薬」と精製法が同じだ。この二つの薬の成分に共通しているのは微量の未知の物質を含んでいるということだ。それがウイルスなのかそれとも成分なのかは分からない。だがそれを服用することにより人は人で無くなる。そして化物は崩壊薬によって灰となる。だが例外が存在する。それこそが
真の「鉄の人」
だがもう一つ分かっていることもある。いずれにせよその化物を作り出したのは人間なのだ。そう、本当の化物は人間なのかもしれない。そしてこの二つの薬が導き出すのはただ一つの答えだけだ。
悲劇
身勝手な願い。身勝手な答え
「これはまずったねえ。まさかまだ残っているとはね。」
秋月はその資料をよんでため息をついた。だが顔はまるで困ったような顔をしていない。そこには小島が対照的に渋い顔をしてたっていた。
「君は分かってるよねえ。こんなものに頼ったところでろくな答えが無いことぐらい。」
そこには「崩壊薬」の流失について語られていた。それは前回、月島の事件でそう、小梅とであった最初の事件で使われたものだった。なぜ、大量の「崩壊薬」を野口が所持できたのかは分からない。たとえ野口が製法を知っていたとしてもあれだけの量を作り出すには何らかの後ろ盾か施設が必要だ。「崩壊薬」はそれほど簡単に作れるものではない。
「これだけの崩壊薬の流失、これは何とかなりました。しかし、元の「神薬」のほうがいくらか持ち出されていました。」
書類を投げ捨てて秋月は外を見た。外は太陽がかんかんに照っている。
「ちょうど一年ぐらいたつのにねぇ。まだ、同じことを我々は繰り返す。本当にどうしようもないねえ。」
「「神薬」をもちさった可能性のある人物はリストアップしました。すぐに」
「ほっといて良いさ。あとでそれ相応の罰は受けるんだから。」
だがその言葉を聞かずに小島は外に出て行った。秋月は肩をすくめた。
「ほっとけないかもねえ。彼は、なあ、月島。」
扉の閉まる音が消えてそこには何も音が鳴らなくなった。
花鳥風月には月が一人でコップを洗っていた。まだ開店前だ。だがふと扉が開いた。
「珍しいな。君が来るとは。小島君。」
「月島さんはいませんか?」
小島は普段とはまるで違い真っ黒なスーツをきて真剣な表情をして月のほうを見る。付きは黙って顔をみつめていたが後ろを向いてコーヒーを入れ始めた。少ししてコーヒーが出来上がる。それを小島のほうに出す。
「まあ、飲んでください。いい豆が入ったんですよ。」
だまって小島は飲んだ。熱いのにごくごくとまるで熱いのを感じていないかのようだった。
「月島さんの行方は分かりません。だけど貴方がここに来たというのなら他の情報があります。最近の噂でこんなものがあります。どんな病も直すことの出来る薬があると。」
小島が表情を変える。そのまま月はコーヒーの豆をいりながらたんたんと語る。
「その噂はここ最近に広まったものでした。そう、小梅さんがここに着てぐらいからでした。」
「まさか、どこでそれを!」
「闇市ですよ。」
それを聞くや否や小島は飛び出していった。からんからんという音と共に扉が激しく閉まる。それからすこしして夏輝がやってきた。
「あれ、月さん誰かいたの?」
「いませんよ。さあ、仕事です。」
花鳥風月の朝はこうして始まった。
なにも変わっていない朝だった。夏輝はいつものように掃除をしている。お客さんはたまに来る老人たちとえらそうな人たちだけである。この仕事をして始めは戸惑ったがもう大分なれて仕事にも余裕が出てきた。
「休憩にしましょうか。」
その言葉と共にいつもと同じようにコーヒーが出てくる。
不意に夏輝は外を向いた。だが花鳥風月の扉は開かない。
「気になりますか?月島君のことが。」
その言葉に複雑な顔を浮かべる夏輝。けれど月は外のほうを向いて残念そうにため息をつく。
「彼がいないととてもさびしいですよ。私は。それに夏輝さん。覚えておくと良いですよ。会いたいか会いたくないか困るような人には会っておいたほうがいい。会わなくて後悔するのだけはつらいですからね。それに彼はなんていうんですかね。いついなくなってもおかしくない人間ですから。」
そういってコーヒーをつきは飲む。
「苦すぎましたね。」
月は苦笑いをした。その笑顔が妙に夏輝の心に刺さった。
仕事が終わった。辺りは夕焼けだった。夏輝は自分の家にもどる。いつものアパートを見る。階段を上って扉を開ける。玄関を開けるのはなれなかった。いつもは月島が帰っていたから。部屋にもどるとただ空っぽな部屋があった。夕日が茜色に部屋を照らす。
「どうしていないんだよ。」
その問いに誰も答えなかった。
夜遅くだった。管理人室に誰かが来た。ノックの音がする。瑠璃は玄関を開けた。するとそこには月島が立っていた。
「どうしたの!あれからいなくなってとても心配したんですよ!?」
「おっと少し静かにしてください。他の住人にばれると面倒なんでね。」
月島は唇に人差し指を当てて困ったように笑った。
「あれから考えたんだ。俺はここにはもういられない。」
出されたお茶を飲みながら月島は答えた。
「冗談ですよね?」
「すいませんが冗談じゃないですよ。夏輝にばれてしまった。貴方にも分かってしまった。話は聞いたんでしょう。」
瑠璃は夏輝から話を聞いた。あの時のことを月島が丈に引き金を引かせたことを。実の娘を殺させたことを。
「どうでもいいんです。私はそんなことどうだっていい!」
月島の手を瑠璃はつかんだ。その力は普段のものと全く違っていた。つめが肌に食い込む。そして月島の手が赤くなる。
「あの時、私をあそこから連れ出してくれたのは月島君よ!あんな屑みたいなところから私を、汚い私を。」
「瑠璃さんは汚くなんか無いさ。俺なんかよりずっと。」
瑠璃は戦後、売られた。実の兄弟に。瑠璃は美人だった。男たちに買われた。そしてなんども何度も酷い目にあった。最初の人間が飽きれば、他の男に売られた。何人もの相手に酷い目に合わされた。逃げようとして鉄ごてを押されたこともあった。そんな時に助けたのが月島だった。瑠璃が男にまた売られようとしたときだった。
「この化物が!」
そこにいた人間を一人残らず月島は叩きのめした。殺してはいない。だが皆、もう二度と満足には歩けないだろう。もう誰も満足に人を見ることなどできないだろう。その血黙りの中で瑠璃は呟いた。
「綺麗」
瑠璃は月島がここの管理人にした。最初は月島にも男たちと同じことをしようとした。そのとき月島は頭をなでた。
「別にいいんだ。もう、そんなことしなくていいんだ。」
その声が好きだった。そして今の瑠璃がいる。ここまで来れたのは月島のお陰だった。
「あの綺麗な光景で私は分かったの。月島君。私は、貴方のことが。」
「やめてくれ。俺にそんな資格は無い。俺は罪人だ。ここも俺が使いやすいから作っただけだ。瑠璃さんだって丁度よかっただけだ。」
「嘘!ならあんなやさしくしないよ!ねぇそうですよねぇ。」
「とにかくこれ以上は俺はここにいられない。小梅や、夏輝のこと頼みます。あいつらや貴方は俺とは違うから。俺のような化物とは違うから。」
そして月島は立ち上がった。瑠璃は月島にしがみついた。月島は瑠璃の顔を見なかった。振り払う月島。倒れた瑠璃は近くにあった果物ナイフを月島に突きつけた。
「でてくなら刺すわ!」
月島は悲しそうな顔で近づいた。そして瑠璃が握っているその果物ナイフに思い切り自分の手をさした。驚く瑠璃。だがもっと驚いたのは月島の手から血がこぼれないことだった。一滴も落ちなかったことだ。そしてナイフを抜くとたちまちその傷口がふさがる。そのまま声も出せない瑠璃。
「俺は化物だ。どうしようもない罪人だ。分かっただろう。これが俺だ。」
そのまま月島は外の闇に消えていった。瑠璃はただ呆然とするだけだった。
闇市ではある噂が確かに流れていた。その薬を飲めば死ななくて済むと。誰もがそれを鼻で笑った。当然だ。誰もそんな奇跡信じていない。これが戦後すぐならそれを信じた人間もいたかもしれない。だが、人々はもう冷静さを取り戻しつつある。だが、完全には取り戻していない。
「ここが薬を売っていた場所。」
小島はその場所に向かった。その場所は汚い物置小屋のような場所だった。そして、扉は無くわらの垂れ幕で入り口が隠してあるだけだった。
「誰かいませんか?僕は日本政府のものですが。」
あけたとき小島は目を疑った。そこには何もなかった。少なくとも手がかりになるようなものは。そこには血だまりとばらばらの人間の死体。そして、「崩壊薬」の無残な残骸だった。その凄惨な光景に呆然としていると突然火炎瓶が投げつけられた。そして瞬く間にあたりは日に包まれる。小島はそのままぼろい窓を突き破って外に逃げ出した。その次の瞬間ものすごい勢いで小屋は爆発した。
「誰がこんなことを。」
その目にはただ業火が映るばかりだった。
「薬が手に入ったぞ!蘭子!」
男はその薬を手に入れた。とてつもない金額を要求されたが何とかそれも払い終えた。売った人間は君の悪い笑顔でこんなことを言っていた。
「確かに助かるかもしれないけどその薬を飲んだ人間は化物になるけど良いのかい?」
売った人間の話では薬の副作用があるという。だがそんなことなど関係ない。男にとっては蘭子が助かればよかった。あの長崎に落ちた爆弾。そのせいで蘭子は酷い姿になった。皮膚がはがれ、治っていかない。それどころか日増しに弱まっていく。助かるならばそれでよかった。
「ごめん。九ちゃん。私のせいで。けどこれで私たちは。」
とこで臥せっている女は幸せそうな顔をした。そうだ。助かるのだ。絶対に。
花鳥風月で月が弊店の準備をしているときだった。不意に扉が開いた。そこには煤だらけの小島がいた。
「あの爆発の事件に貴方が関わっているとは知りませんでした。」
「どうしてそれを!」
事件はつい先ほどだった。どうしてそれを月が知っていたのか分からなかった。そして、近くには飲みかけのコーヒーがある。
「彼からです。これを。」
月から渡されたのはある二人の人間の資料だった。そこに映っているのは男女の若い二人だった。そこには走り書きで「薬」購入の疑い高し。と書いてあった。
「月島さんがこれを。すみません。僕も行かなきゃ駄目みたいですね。」
だがいこうとする小島に無言で月は銃を渡した。それはあの崩壊薬のこめられる銃だった。
「野口が使っていたものだそうです。つかい方は分かりますね?それと月島さんは今回は行かないそうです。これは貴方がどうにかすべき問題だと。」
「まったく駄目ですね。僕はね。」
小島は拳銃を受け取った。そのびっくりするぐらいの軽さに驚いた。
雨が降ってきた。
小島は走っていた。資料の住所に向かっていた。雨でもかまわなかった。それでも止めたかった。もう、同じ思いをするのはごめんだったからだ。
そこは何もない橋の下だった。そこにわらぶきのような小屋がある。そこの扉を開けた。そこには今まさに薬を撃たんとする二人の男女の姿があった。
「薬を撃つな!」
その声に二人は驚きドアのほうを見る。真っ暗で裸電球だけの光の場所にずぶぬれの小島が立っていた。
「なんだ!あんたは!」
「薬を撃つな!それを撃つとどうなるか知っているのか!それを撃たれた人間は化物になるんだ!」
小島の怒鳴り声に男はひるむ。だが、そこで蘭子がものすごい勢いで小島をにらみつけた。
「今と変わらないじゃない!私はあの長崎にいたのよ!そしてこの体!誰も私を人として扱わなかった!誰もが私を化物扱いした!私は自由に動きたいのよ!」
「その薬を使った人間がどうなったか知っているか?」
小島は低く、この世の終わりを見てきたかの様な真っ黒な瞳をした。
「は!知ってるなら教えろよ!」
九が小島をみた。だが九の体は震えていた。静かに小島は語りだした。
「実験体1号、薬の投与により錯乱、自ら舌を噛み切り死亡。実験体2号、薬の投与後、胸部の異常発達確認。自ら立つことが出来なくなる。そのまま自殺。3号、強大な再生能力確認。一応の成功、だが以上な食欲の確認。日に4体の死体の摂取を必要とする。実験体、」
「もうやめろ!何だよ!実験体って!何だよそれ!」
「もともとその薬は人間を兵器にするための薬だ。そして数え切れない人間がそれを使い死んだ。いや、死を選んだ。選べないものはもっと悲惨光景を見た。三号は自分の恋人を喰らった。」
だが蘭子は薬を手放そうとはしなかった。だから小島はそのまま続けた。
「僕の兄さんは君の恋人と一緒だった。だから僕もその薬に頼ったことがある。どうなったと思う?」
「知らないわ!」
「確かに直ったよ。怪我はね。だけど。人で無くなった。どこの世界の人間に腕が六本ある人間がいる?どこの世界の人間に日増しに爪が獣のように太く鋭くなっていく人間がいる?どこの世界に足が増える人間がいる?兄さんは耐え切れなくなって殺してもらったんだ。」
辛そうに小島は顔をゆがめている。そして、さっきと同じような絶望しきった顔になった。その顔は今まさに薬をうとうとする蘭子に向けられている。
「信じないわ!嘘よ!そんなの!」
叫ぶとそのまま薬をうとうとした。小島は止めようと飛び掛る。だが遅かった。薬が彼女の腕に注射器で刺される。
「うっ!」
彼女のケロイドのような皮膚がどんどんつややかになっていく。九はその光景に喜びを隠せなかった。
「直ってる!直ってる!」
そして、やけどはふさがり、血で膿が出来ていた場所もどんどん無くなっていく。そして、その体は動かなかったはずなのに手や、足が自由に動くようになっていく。
「やった!九ちゃん。私。なおったの!」
抱きしめあう二人。だが、それも長続きはしなかった。体がどんどん伸びていく。腕が肘が。まるでゴムのように。体もゴムのようになっていく。その肌は黄色くなっていく。
「いやああああああああああ。なにこれええええええええええ。」
蘭子は絶叫し、抱きしめていた九は呆然とする。そして、急に蘭子の髪がぬけていく。そこにいたのは人間ではなかった。その姿を鏡でみて蘭子は錯乱している。
「九ちゃん。九ちゃん。」
だが、男は蘭子が錯乱し必死で手を伸ばした手を払って震える顔でつぶやいた。
「化物。」
「きゅうちゃあああああああん。」
そして、引き金は引かれた。小島は黙って引き金を引いた。その元人間に向かって。男はただ震えていた。それを無理やり立たせた。
「よく覚えておけよ!これがお前たちの勝手な願いの結末だ。そして勝手な答えだよ!あの時の彼女の顔を覚えておけよ。お前に拒否されたときの顔を!そして死んだときの安らかな顔を。」
男は泣き出した。そこには元人間の死体がある。その顔は酷く安らかだ。そして、その顔は自分の兄の死に顔によく似ていた。
外に出た。雨はさらに強くなる。そこで小島は銃を落とした。その手は震えていた。そして虚ろな眼をしていた。だが、そばには月が傘を持ってたっていた。だがさしていない。
「兄さんが死んだとき僕は拒絶したんです。その手を払った。そしてその後に月島さんに撃たれた。けど、あまりに兄さんは嬉しそうだった。僕が兄さんを殺したんだ。僕が。」
その呟きには誰も答えない。ただ雨が降っていた。
ここまで読んでいただけるとはもはや言葉に表せません。ありがとうございます。
台詞等 参考 鉄人28号




