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序章

 日が沈み掛かった夕方。私室に戻ると、先客がいた。

「おかえり。レナード」

 セオドアは、待ちくたびれたように言った。

「今日も、行ってきたのかい」

 隠れ家からほど遠い場所に、妻の墓を建てた。誰も立ち寄らないほどの、山の奥の奥。

「ああ。――俺は、どうしようもないな」

 十六年が経った今でも、悔いは募るばかりだった。時折身を引き裂かれそうなほどの後悔で、眠れない夜を過ごすほどに。

「過去を過去と切り離せないのは、弱さじゃない。向き合えるだけの強さだと、僕は思うよ」

 セオドアが、不意に窓の外を見た。馬蹄の音で、彼らの帰還を知る。

「――アルフレッド達が、帰ってきたみたいだ」

「ああ」

 憚らぬ足音が、がたがたと廊下に響いた。何やら話し声がする。十七といえば、もう少し落ち着きがあっても良いだろうが――生きているはずの娘も、こうなのだろうか。どうしても、彼に重ねずにはいられなかった。生きるため、人間の手に渡った一人娘に。

 普段なら空腹を訴え真っ直ぐ食堂に行くはずのアルフレッドの足音が、慌てた様子で何やら此方に近づいてくる。勢いよく開いた扉が、部屋の壁に叩きつけられた。

 はあ、はあ、と息の荒いままの少年は、

「隊長! オリヴィアを、見つけました!」

 と、言った。

 立ち尽くす。呆然として、アルフレッドの顔を見た。

「……隊長?」

「レナード。……会っておいでよ」

 セオドアに言われて、我に返る。

「あ、ああ」

 どこか現実感を伴わないまま、少年に腕を掴まれ部屋を出た。

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