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緋色の慟哭

 ――それが、最後だった。

 隠れ家が襲われたのは、フェリシア達を逃がした直ぐ後だった。迎え撃つ準備も、逃げることもできないまま、国王所有の騎士団に破壊し尽くされた。

 生き残ったのは、僅かに数名。いや、()()()()()()()()、数十名。

 ――有事の際は、若い者を優先しろ。それが、デイモンが常々言っていたことだった。故に、レナードは子供を先に逃がした。

 そして――だからこそ、無様にも生き残ってしまった。自身の誤った判断が原因で招いたことであるにもかかわらず。燃え上がる隠れ家と、同胞達を目の当たりにしながら、レナードは生かされた。叫びそうになるのを、コーデリアに必死に抑えられながら――逃げ延びた。

 事件の後、すぐに事のあらましをカトレアに報告した。()()の魔導士が引き起こした不祥事の責任を負ったのは、カトレアだった。魔導士である故に誇りを持ち、カトレアのために戦ったレジスタンスは、皮肉にも――魔導士である故に、カトレアの地位を脅かした。

 結果として、輸出禁止は一部解禁された。同情では勿論ない。代わりに重税が掛けられ、寧ろ状況は悪化した。

 ブライアンの狙いが何だったのかは分からない。ただ、一つ間違いなく言えるのは――彼は、魔導士全てに仇なす者であるということ。

 レナードが生きていることを知ったブライアンは、国中に手配書を回した。レジスタンスの襲撃事件の首謀者として、レナードの名は知れ渡った。これで、全てが終わったはずだった。


 とにかく、必死だった。レナードは、カトレアの者達が食糧を得られるよう奔走した。魔導士のために身を捧げた。それが、償いであった。いつしか冬となり、「オリヴィア」が生まれたと知った。魔導士が不自由なく生きられるようになること。それこそがレナードにとっての償いの終わりであり、全てが終わるまで妻子に会わないことこそが自分への罰だと信じて疑わなかった。

 ――東カトレアが、襲われるまでは。

 国王軍による、遠征。全ての魔導士を殺し尽くさんとする、侵略行為。知らせを受けて、すぐさまレジスタンスはカトレアに向かった。一人でも多くの魔導士を救うために。


 たどり着いたときには、焼け野原が広がっていた。


 死の大地だった。死体の一つ、残ってはいなかった。どの灰がどの魔導士のものかも分からないほどに。狂ったように、生きた証を探した。

 

 ――妻は、子は。友は、どこだ。

 

 何も、見つからなかった。レナードは、ただ泣き叫ぶことしかできなかった。声が枯れるまで、叫んだ。涙が涸れるまで、泣いた。



 ゆっくりと、だが、しっかりと大地を踏みしめる足音。命の気配を感じて、レナードは振り返った。

 ――セオドアだった。セオドアは、生きていた。至る所に傷を負い、土と埃にまみれながら。

「セオ、ドア」

 激しく痛む喉で、辛うじて声を出した。セオドアは、泣きもせず、怒りも見せず、淡々と、

「……リブラの子は。僕達が、守り抜いた。――君の娘は、生きている」


 セオドアの娘は――

 後に、オリヴィアの身代わりになったと聞かされた。

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