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第3話

 「おはよう、ダイスケ、どうしたの?なんか辛そう・・・。」

朝の講義。始まる10分前から僕は講義室の真ん中辺りの席に一人座っていた。少しして、高校生の時からの友人、朝倉アカリがやってきた。同じ学部、学科に、無事入学できている。

「ん?ああ、アカリか。いや、なんでもないよ。昨日ちょっと、遅くまでおきちゃってね・・・。」

「ふうん・・・。映画とか、見てたんだ?」

「まあ、そんな感じ。」

僕は夕べ、リアルな映画を見ていた。いや、映画、とは言えないか。実際に目の前で起こっていたことなのだから。でも、やはりまるで映画を見ているようだった。自分の過去を題材にした、映画を。


「・・・よし。」

僕は簡単な夕食を食べ終わると、タイムスリップのできる時計を手に取った。そして、恐る恐るその時を、僕の高校時代に合わせた。2年前だ。高校3年生の冬。まだ記憶に新しい。

上履き忘れの光景をもう一度、目にしたい。あの頃に戻って。僕は時計の性能を知ってしまってから、そう考えるようになってしまった。もっと別のことがあるだろうに、僕は一度そのことを考え出すと、もう他のことは頭に浮かんで来なかった。うろ覚えだが、一瞬のそのあらゆる光景は今も頭の中に入っている。だがそれをもう一度、じかにこの目で見てみたい。僕は念のため、一番近い年の上履き忘れの光景を思い出した。あれは、2年前。高3の冬だったか。


 寒い日だった。12月の初めだったか。受験が迫り、僕もみんなも、一心不乱に勉強していた頃だ。そんなある日、月曜日だった、その日、僕は見てしまった。クラスのある女の子が、黒いタイツだけで、靴箱から校内へ入って行く光景を。僕はすぐさまその後を追ったのだが、階段を登れど登れど彼女に追いつけない。しまいには教室に着いてしまったが、そこに彼女はいなかった。僕があっけに取られながら席に着くと、彼女は直後にやってきた。足元は机の陰に隠れて見えず、その日は用事や遊びや付き合いやらで、全く彼女の足元を見る機会がないまま、終わってしまった。今思い出しても、イライラする。後悔もする。クラスの中では可愛い方の女の子だった。大学は遠く離れたところに行ってしまったが、結構話をしていた分、今でも時々メールを交わすことはある。フェイスブックも登録してある。北海道で獣医になるために奮闘しているということだ。彼女は動物が大好きだった。

僕はなんとかその日の日付を思い出してみた。20XX年の・・・、12月・・・、そうだ、11日。うん、多分その日だ。その日の朝、何時に登校してたっけ・・・。いけない。高校生の記憶がない。ヤバイな。あ、そうだ。朝の情報番組を見終わっていつも出てたから、8時10分には靴箱にいたっけな。僕の家から学校までは、自転車で10分くらいだった。よし、その時間に行こう。時計を合わせる。よし、OK。そしてボタンを、押す。緊張が高まる。

ポチ。


つづく

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