3.仮説と仮説
更新お待たせしました。
未知との遭遇のおかげで事態の把握が進みつつあった。
そう、「異世界転移」こそが今の状況を説明できるのではないかと。
仮説1
地球上のどこかにいる。何者かに誘拐された。
ゴブリンとの遭遇がなければ有力候補だった。
さすがに世界旅行中に記憶を失ったとはないだろう。
とはいえ、誰かの意図によるものなのは間違いない。
仮説2
自動車事故や脳出血脳梗塞などの何かしらによって植物状態になった俺が見ている夢
うーん、ありえるのか?
そうなると覚醒を待つしかないのが怖いな。一応候補の1つにしておこう。
寝ている俺の横に愛しのあの子がいたりして。ディフフ
行きつけのカフェの店員さんなんだけど、すんごい可愛いんだな、コレが
え?ただの客としか見られてないのにそんな事あるわけないだと。
バーロー 夢くらい見ても良いじゃないか!
そして、最有力候補の異世界転移。
ここへ至るまでの過程と異様な風景、そしてゴブリンとの遭遇
やはり、これらを加味すると仮説2よりは現実的だと思う。
人間が想像できることである限り、起きる可能性はゼロではない。
うん
異世界転移説を否定できる要素が見つからない限りは異世界転移説前提で動いていこう。
正直言うと、この非現実的な事態に心踊ってしまっているので見つかってほしいけど見つかって欲しくないという複雑な気持ちだ。
心地よい風が吹いている。
肌寒さを感じない、季節は元の世界と変わらず春だろうか。
この果てまで続く緑豊かな景色、旅行で来ていたら最高なんだけどな…
「さ、て、と」
そう声を上げた俺はスッと立ち上がる。
「警察による保護や消防による救助は期待できない、そもそも連絡手段がない」
「親は他界し、独り身だから事態が発覚する期待もできずか、孤独死してても同じだなこりゃ」
「最優先は安全の確保」
再確認を兼ねて口ずさむ。
「アー!服がほしい」
こうして、のちに人生で一番長くて過酷だったと語るようになるサバイバル生活が始まったのだった。
レウラ認・コボーヘト王国は領土がノクセント大陸の4割を占める大陸有数の大国である。
貧富の格差があるとはいえ豊かな農業国であり、余裕ある国力を魔術研究へ割いている。
そんな豊かな国には人が集まり、更にそれは新たな富を生むきっかけとなる。
この繁栄へと導いたのはノートリア王族なのは明らかだった、それを知る国民の信頼は非常に厚い。
しかし、豊かな国があるからにはそれを妬む国があるのは必然である。戦乱の火種は常に燻っている。内にも外にも。
首都キライト・ソナノベレル
王城 王女ユリア・ノートリアの一室にて。
2人の少女と年配の男がそこに居た。
高貴な少女は椅子に座り、男は少し離れてほぼ土下座のような体勢で頭を下げていた。
「で…カハボス。何が起こったのかしら?」
望みが叶うと確信していた、それが遠のいたせいでユリアは苛立ちを抑えられていない。
侍女ネシュアはそのすぐ横に控え、ユリアを心配そうに見ている。
「ご…ご存知の通り、魔術は魔法とは異なる摂理のもとで起こるもので、魔法しかなかった時代に魔術という新しい摂理を発見したターロ・タナーカが構築した魔術体系、それをいかに理解できるかが今の魔術師の力にな…なります…….ぞ」
カハボスは自らの失態の処分と今後よりも、今、目の前に座る少女の威圧に怯えていた。
いまだ頭を下げたままである。
「ええ、知っているわ。いまだにターロ魔術体系を完全に理解できるものはいない。それを1割でも理解できていれば一流の魔術師とね」
「ターロ・タナーカは親しかった人間に「魔術とはぷろぐらむだ」と語っております。その意味を知るものはターロ本人しかいないでしょう」
「今回の召喚魔術根もターロ・タナーカが作った既存の魔術を組み合わせて構築していまして、内部でどのように行使されているかが」
「はやく本題に入りなさい。カハボス」
ユリアの声が響く。
「つまり、わからない…ですぞ」
カハボスはユリアが顔をしかめる前に急いで続ける。
「魔術の構築に不備があったのかもしれません。魔力タンクが足りてなかったのかもしれません。し、しかしですぞ、事前にテストした時は問題なく成功してますぞ」
「魔術根の大半が焼き切れていまして、加えて魔術体系がブラックボックスというもののもあって解析してもわずかな情報しか得られませんでした…」
ユリアはため息をつく。
「そう…つまり、失敗したのね。で、は、カ、ハ、ボ、ス」
「ソバナ大平原!」
一声
「ソバナ大平原ですぞ!」
「な…何が起こったか、不明なのは、た…確かですぞ。し…しかし、召喚は滞りなく行われ、姫様が求めた人間はソバナ大平原に召喚されたことを確認しましたぞ。 ハァハァ」
ユリアとやりとりを続ける中で寿命が縮んだのではないか、そう思われても仕方がないほどに憔悴したカハボスは叫んだ。
召喚部屋を移ってから、はじめてユリアは笑みを浮かべた。
張り詰めていた空気が変わる。
「ネシュア」
「はい」
「キーファー騎士団に特命に発します。ソバナ大平原への救援、大至急です!」
「キーファー騎士団にですか!?それは…」
「ネシュア」
「わかりました。今すぐに手配を」
数日後、国家最高戦力と評されるキーファー騎士団がソバナ大平原へと向かった。
「腹減った」
ソバナ大平原にて巨大な何かがポツリと漏らした。
魔法
古代より伝え続いてきた摂理。過去に虐殺とも言うべき弾圧があったため魔法使いの絶対数は非常に少ない。
魔法は外部からの魔力供給に依存する魔術とは異なり、使い手の魔力のみで起こすもので、全ては感覚に依存する。