第八話
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「すみません、ちょっと今お時間よろしいですか?」
イベントアイテム交換所を出て、
私が珍しくやる気を出しモンスター退治に行こうとしていた矢先、背後から声をかけられた。
振り返る。
すると、そこにはイケメンが居た。
金髪、碧眼。
騎士のような鎧に身を包み、腰には剣を差していることからおそらくは《剣神》の加護を得たプレイヤーであることが予測される。
まるで物語に出てくる王子様のような風貌の男だ。
イケメンだ、と思わず呟く。
「イケメンだ……」
「イケメンね……」
「イケメンですね……」
「あ、あの……? すいません、プレイヤーの方ですよね?」
「そうですよイケメンさん」
「いえす、ざっつらいとよイケメンさん」
イケメンの顔が、ほのかに赤く染まっていく。
照れているらしい。
「イケ……あの、私の名前は《アロン》と申します」
「私はマコよ、よろしくイケメンさん」
「私はさっきゅん、何か用かしらイケメンさん」
「ちょっと、マコさんさっきゅんさん、イケメンさんがちょっとおこですよ、何かしたんですか?」
やばい、イケメンがゲシュタルト崩壊しそうなほどイケメンだ。
別段面食いというわけではないという自負は持っているが、後光が差しているんじゃないかというレベルのイケメンがいるとは思っていなかった。
「あ、あの……そんなにイケメンイケメン言わないでください……」
「は? 女子がイケメンにイケメンと言って何が悪いっていうの?」
「い、いえ……その……! 私これでも女ですので!」
顔を真っ赤にして、イケメンが叫んだ。
思わず目を見開く。
今なんと言った? 女? このイケメンが?
「せいっ!」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!?」
イケメンが叫ぶや否や、変態が彼――いや、彼女の股ぐらに手を突っ込んだ。
触られた感触も触った感触も無いはずだが、イケメンは顔を真っ赤にして理解不能な悲鳴を挙げて大きく後ずさる。
「ななななっ! 何をするんですかいきなりぃ!」
「……ごめんイケメンさん、触った感触が無いから『ある』か『ない』か分かんなかった。ちょっと鎧を外しておっぱいを見せるかズボン脱いでパンツ見せて?」
「見せるわけないでしょう!? ぶっ殺しますよ!?」
「あ、そういえばこれ使えばいいのか。《魅了》」
今思いついたとばかりに、さっきゅんは《淫神》の加護初期スキル、《魅了》を発動した。
ちゅっと投げキッスをして、ハートマークの物体を飛ばしてそれに当たった異性を魅了状態にするスキルだ。
魅了状態になれば男、ならなければ女。
成る程簡単かつ確実な判別方法だ。
果たして結果は――魅了状態に、ならなかった。
アロンと言う名のイケメンは、女の子だったようだ。
「な、なんですか今のスキル……私に何をしたんですか?」
「本当に女の子なのか確認しただけだよ」
「見れば分かるでしょう!?」
彼女はそう叫ぶが、見れば見るほどイケメンである。
女子高に入ったらさぞモテるだろう。
「それで? 何か用ですかイケメンちゃん。私たちそんなに暇じゃないんですけど」
「結局名前では呼んでくれないんですね!? ……ごほん、ええと実はですね、この町に拠点を構えようと思ったのですが……」
ようやくイケメンは本題に入ったようだ。
一つ咳払いをして、まだ頬が赤いが表情をニュートラルに戻す。
「噂なんですけどね? この町には頭のおかしい女性の二人組が住んでいるらしいじゃないですか、だからまずは情報収集を――……もしかして二人組ってあなた達ですか!?」
「いや違う違う、よく見なよ私たち三人組だよ」
首を横に振って彼女の言葉を否定する。
ユニが何かを言いたそうにしているが無視だ。
「そ、そのようですね……すいません」
「いえいえ。でも私たちここに住んで結構経ちますが、頭のおかしい女なんて見たことないですよ? ただのデマじゃないですか?」
「そうなんですか? なんだ、心配して損しました」
私の言葉に、イケメンちゃんはホッと息を吐いて苦笑した。
ユニがジト目でこちらを見ているが何か用だろうか、皆目検討が付かない。
「おそらく、近いうちにこの町へ居を構えていると思います。また会うこともあると思うので、機会があればクエスト等お誘いください」
にっこりと笑って、イケメンはそう言った。
なんて出来た人間なのだろうか。心も見た目もイケメンとはこのことか。
とか何とか考えていると、変態がにやにやしながらイケメンに向かって口を開いた。
「ねえねえ彼女居るの?」
「恋人はいませ……って何を言わせるんですかっ!? ていうか彼女!? 私にそういう趣味はありません!」
「ぶっちゃけ処女?」
「前言撤回です! 機会があってもアナタとはクエストに行きたくありません!」
心も見た目もイケメンだろうと、限界はあるらしい。
ていうかこればっかりはさっきゅんが悪いと流石の私でも思う。
アロンは、怒りながら去っていってしまった。
激おこぷんぷん丸である。
あ、いや今はこの表現古いのだろうか。
「…………」
さっきゅんは、流石にやってしまったと反省でもしたのか顎に指を置いて、うーんと思案顔をしながら一言。
「……今の反応、間違いなく処女ね」
「おい」
反省も後悔もしていない。
安定すぎる変態だった。