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第三十話

-tips-

 スキルの発動について。

 スキルの発動には、発声による宣言が必要である。

 心の中でどれだけ叫んでも、スキルは発動しない。

 ただし常時発動型のパッシブスキルや、一部アクティブスキルなど例外も存在する。

 《死神》の加護。


 強そうな加護に思えるかもしれないが、これもまた不人気――というか不遇な加護である。


 何せ覚えるスキルの殆どが《即死》に関係するスキル。

 《即死》というのはRPGではよくある特殊な状態異常で、残りHPや防御力に関わらず敵のHPを0にするというこれだけ聞けば滅茶苦茶強そうな状態異常なのだが……。


 如何せん成功率が低い。

 雑魚モンスター相手でも、成功率は三割程度。


 中ボス以上のモンスターはほぼ標準で即死耐性を持っていてほぼ通用しない。


 プレイヤー相手に至っては、絶対に通用しないという不遇仕様である。


 しかもそれに加えて即死で倒したモンスターからは経験値が貰えないというゲームの仕様も重なって、《死神》の加護は《怠神》や《淫神》と同レベルかそれ以下の使用率を誇る不遇加護と言っても過言では無いだろう。




*****




 ベルの町在住プレイヤー全員集合。


 ……いや、さっきゅんはまだ帰ってきていないけど、あいつは垢BAN中だから除くとして全員集合である。


 《邪神》、《死神》、《剣神》。

 前二つはよく分からないけど、《剣神》の加護持ちであるイケメンちゃんはスキルに頼らずとも基礎ステータスが高いタイプの加護だ。


 スキル封印とかいうチート能力を持つ嫉妬女に、現状最も対抗しうるのは間違いなく彼女だろう。


 イケメンちゃんは、倒れているナオミとユニを一瞥すると、驚いたように目を見開いてからキッと嫉妬女を睨んだ。


「この二人は、アナタがやったの?」

「……これはちょっと分が悪いわね……」


 イケメンちゃんの質問には答えず、嫉妬女はそう呟いた。


 瞬間、彼女の身体が青い炎に包まれる。


「《嫉妬の炎(ジェラシー・ファイア)》」


 女は炎を、地面に向けて放った。

 まるでジェット機のように、炎を噴出して空を飛ぶ。


「な、なぁ……!?」


 そんなのありかよ、と私は思わず立ち上がって空を見上げる。


 青い炎を噴出し、空を駆ける嫉妬女。

 《炎神》の加護を受けたプレイヤーなら、同じことが出来るだろうけど……彼女は間違いなく《炎神》の信仰者じゃなく――《妬神》の信仰者だろう。


 炎は扱えても、専門ではないはずだ。


 それなのに、空を飛べるほどの出力で炎を噴出できるなんて……明らかにおかしい。


 一体あいつは何者なんだ?


「ソニア、追ってくれ」

「ああ、任せておけ」


 凶夜くんがそう言うや否や、ソニアちゃんは嫉妬女が逃げた方向に駆けていった。


 ああそういえば、《邪なるもの》を感知できる能力を持っているんだっけ。

 私たちの所為で感知しづらいとか言っていたが、一度捕捉出来たのなら追跡可能とかなのだろうか。


 それなら、とりあえず……。


「……ナオミを教会に連れて行かないとね」


 戦闘不能になったプレイヤーを蘇生できる施設は、町ごとに異なる。


 町が持つ特色によって変わるのだ。

 例えばこの町は異世界転生風中世ヨーロッパな町並みだから、蘇生は教会によって行われる。


「ちょっと待って、ユニちゃんは?」

「ああ……死んでるからね、教会に連れて行っても仕方ない」

「……っ!?」


 もしかして戦闘不能で倒れているとでも思ってたのかな?


 私がそう言うと、イケメンちゃんは驚いた顔でユニに駆け寄りその死に様を確認した。


 それを横目で見ながら、私はナオミを抱えあげようと手を伸ばす――。


「……やめて、そんな目で見ないでよ」


 イケメンちゃんが、ユニの死体を抱きかかえて私を睨んでいた。


 籠められている感情は、軽蔑か。

 目尻に涙を浮かべて、震える声で言葉を紡ぐ。


「あ、あなた……何で仲間が死んだっていうのにそんなに冷静なのよ……」

「…………」

「仲間が死んで、悲しく無いの? それとも、泣くことすら面倒くさい?」


 ああ。

 羨ましいなぁ。


 仲間の死くらいで涙を流せるような人生を送ってきたこの女の子が、羨ましい。


 ましてや彼女とユニは仲間ですらなかったはずなのに、それでもこの子は泣いている。


 少し、妬ましい。


「泣いて――」

「……?」

「泣いて、それでユニが生き返るっていうのならいくらでも泣くわよ」


 でも現実はそうじゃない。


 泣いて、喚いて、悲しんだとしても。

 死んだ人間は生き返らない――ならば泣くのも喚くのも悲しむのも、面倒くさいだけだ。


「……おい《剣神》の遣い。そこを退け」

「……?」


 そこで突然、凶夜くんが液体の入った瓶片手にユニを抱きかかえていたイケメンちゃんを押し退けた。


 あの瓶は……回復薬?

 それを凶夜くんはおもむろにユニの傷口へとかけ始めた。


 傷が治っていく……けど、そんなことしても無意味だ。

 肉体の損傷が回復しても、命は生き返らない……ああいや、もしかしたら遺体を綺麗にしようという心遣いかな?


 でも貫かれたのが心臓部なので、肉体が回復することによって破れた服から見える胸元が若干えっちぃ……。


「こいつが死んでから、どれだけの(とき)が流れた?」

「え? ええっと……十分も経ってないと思うけど……」

「ならいい」


 それなら間に合う、と凶夜くんは背負った鎌の柄部分でユニを中心になにやら魔方陣を描き出した。


「一つ、死後十三分以内であること

 一つ、肉体の損傷が生存可能なレベルであること

 一つ、老いによる死亡ではないこと

 一つ、初めての死亡であること

 一つ、生後四歳以上であること

 一つ、魂が消失していないこと

 一つ、生きる意志があること

 一つ、縁が深い人間が傍にいること」


 え?

 何? 何をしている?


 《死神》の加護――死を司る、神の加護。


 生と死は表裏一体。

 死を司るということは……いや、そんな、まさか……。


 そんなことが起こり得るわけ……!


「全ての条件は――満たしている。

 少女の魂よ、《死神(タナトス)》の声を聞け」


 ぶん、と一振り。

 凶夜の鎌が宙に漂う何かを切り裂くように振るわれて。



「――《死のタナトス》」



 《死神》のスキルが発動した。


 凶夜くんの身体から黒紫のエフェクトが滲み出て、それが天に昇ったと思ったら急降下。


 まるでユニの魂を連れ戻したかのような動作で、そのスキルエフェクトはユニの身体に直撃した。


「…………」

「…………」


 目を見開いて、ユニと凶夜くんの動向を見守る私とアロン。


 今のスキルは、何?

 もしかして、もしかしてだけど……。


「……ん」


 ゆっくりと、ユニの瞳が開いた。


 死んだ筈の少女の心臓が動き始め、呼吸を始めた。


 生き返った。

 生き返った。


 ユニが生き返った生き返った生き返った!


「……あれ? 此処は……?」

「……ユニ!」


 思わず抱えていたナオミの身体を雑に地面に置いて、走り出す。


 焦りでもつれる身体をどうにか動かして、

 上半身だけ身体を起こしたユニを、思いっきり抱きしめた!


「わっ!? ちょ、ちょっとマコさん!?」


 今、何が起きているのか把握出来ていないのだろう。

 ユニは驚いた声をあげて、急に抱きついてきた私を信じられないものを見るような目で見てくる。


 でもごめん。


 もう少しこうさせて欲しい。


「あ、あの……? 一体何が起こってるんですか? 私、殺人犯と戦ってて……あれ? えーっと、それからどうなったっけ」

「…………」

「マコさん? マコさーん、教えてください。今これどういう状況ですか……っ、あの、ええっと……」


 もしかして、死んだ影響で少し記憶が飛んでいるのだろうか。

 なら説明しないといけないか、ユニが死んでる間に起きた出来事を。


 だけどごめんね、本当にごめん。


 今はちょっと、喋れそうにない。


「ちょっともう、泣いてないで説明してくださいよーっ」


 言いながら、ユニは私をあやすようにそっと頭を撫でてきた。


 困ったような、嬉しいような、そんな声色で。


 そんな笑顔で。

 ユニは私が泣き止むまで、頭を撫でてくれた。

数多の条件をクリアする必要があるものの、埒外な効果を持つ《死のタナトス》の発動に魔方陣や鎌を一振りする動作などは一切必要がありません。

全部凶夜くんの趣味です。

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