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第二十七話

 目が、合った。


 深遠よりも深く、漆黒よりも黒い瞳。

 墨汁をドロドロになるまで煮詰めたような陰鬱としたその瞳は、眼鏡なんかでは到底隠しきれていない。


 一体どんな人生を送ってくれば、あんな瞳になるのか。


 可愛らしい顔立ちをしているだけに、余計目つきの悪さが目立つ。

 目元を隠せば普通にアイドルとかでも通用しそうだなぁ……。


 なんて、そんなこと考えている場合じゃなさすぎる。


 私は今、全然「なにもしない」をしていない。

 つまり、切り札である《怠惰の極み(あしたからほんきだす)》が使えない。


 隣に居るのは、怒り状態にならないとあまり強くないユニ。

 さっきゅんが居ればなと思わなくもないが……無いものねだりしてもしょうがない。


 此処で取るべき行動は一つ。


 私たちの様子を何処かから見ている筈のナオミに助けを求めることだーっ!


「…………」


 そんな私の焦りなんてどうでもいいことのように、眼鏡の女はふいっと視線を逸らして私たちとすれ違った。


 極々普通に。

 何かするわけでもなく、当たり前のようにすれ違う。


 あれ?


 男装している私とユニは、自分で言うのもなんだがカップル以外の何者にも見えない筈なのだが……。


「あれ?」


 振り返ると、眼鏡の女は首を傾げていた。

 いや、首を傾げたいのはこっちだ。もしかしてソニアちゃんの推理は外れていたのか?


 それとも男装女子と小さめの少女じゃカップルには見えなかったか?


「……あっれー?」


 女は振り返り、こちらと向かい合った。

 顎に指を当てて、首を傾げて、思案顔で私たちを見つめている。


 え、何? 何?


「おかしいわね……あたしがカップルを見ても嫉妬する気持ちが全然沸かない……」

「……は、はあ?」

あなたたち(・・・・・)一体何(・・・)?」

「い、いや……何と言われましても……」


 返答に困る。

 ていうか何で私らが詰問を受けているみたいになっているんだ。


 ん? ていうか嫉妬?

 包丁……炎……嫉妬……。


 …………。

 この子、もしかして……。


「《鉄鎖-地縛の陣-》」

「っ!」


 突如、地面から生え出した鉄の鎖が眼鏡女の身体を拘束した!


 鉄の鎖――ナオミか!

 《鉄神》の加護を持つ彼女は、ものの見事に不意打ちを決めてくれたようだ。


「捕まえたわよ、殺人犯」

「な、何……、鎖……!?」


 地面に着いた手を払いながら、ナオミは物陰から姿を現した。


 褐色の肌と、鍛え上げられた筋肉が相変わらず格好いい。


「意外と、簡単に捕まったわね」

「何よアナタ……人をいきなり縛るなんて常識が無いの?」


 いきなり鎖で縛られて、一瞬驚きを見せたものの眼鏡女は首だけ振り返ってナオミを見る。

 身体は動かせないようだ。いや、動かさないだけか……?


 何にせよ、あのチート警官共を一掃できるやつがこれだけで終わるとは思えないけど……。


「殺人犯に常識を説かれたくないわね」

「殺人犯……?」


 ナオミの言葉に、女は首を傾げる。


 一体ナオミが何を言っているのか分からないとばかりに。


 とぼけているのか……?

 いやでも、嘘を吐いているようには見えない。


「えっ、あの、まさか誤判ですか……?」

「そんなわけないでしょう。とぼけているだけよ、ネタは上がっているんだから」


 ユニの言葉をナオミが即否定する。

 そうだ、ネタは上がっているのだ。


 目撃証言も状況証拠も全て揃っている。


 この眼鏡の女が犯人で、間違いない。


「ま、待って……本当にあたし殺人なんて……」

「とぼけたって無駄よ、さあ、何故NPCの皆を殺して回ったの? 警官を倒せたのは何故? 洗いざらい全て吐いた上で自首するっていうのなら許してあげても――」

「い、意味が分からない……何言ってるのこの人……」


 眉を八の字に曲げて、訳が分からないとばかりに困惑する女。


 これが演技だとしたら大したものだけど……なんだかそういう感じじゃなさそうで。


 もしかしてこの子は犯人なんかじゃなくて、冤罪をしてしまっているんじゃないかという気持ちが私に芽生えたその瞬間。


NPCは人間(・・・・・・)じゃないんだから(・・・・・・・)、殺しても《殺人(・・)》ではないでしょ……ゲームのキャラに感情移入しすぎじゃないの?」


 女が、そんなことを呟いた。

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