第二十話
「服屋に行きましょう」
白い清楚なワンピースというデート服(よく考えたら私はデートのこととか分からないのでおそらくだがデート服)に身を包んだユニのその一言で、私たちの目的地は決まった。
鶴の一声である。
なんて、私の行きたい場所が特に無かっただけなのだけれど。
服屋か……。
服は防御力を持たない、お洒落専用の装備。
お洒落に縁の無い生活を送ってきた私には、馴染みの無い場所である。
ユニは結構来るのだろうか。
そういえば普段からずっと防具を着用している私やさっきゅんと違って、ユニは色々私服を着ていたような……。
全くお洒落さんめ。
まあ私とて女子の一角、今日は女子らしくきゃっきゃうふふとファッションについて語らせてもらおうか。
「……いや待って、どうしてこうなる?」
「え?」
と、いうわけで十数分後。
服屋に辿りつくや否や淀みない足取りでユニが店内を先導し、辿りついた先には紳士用服売り場。
つまりは男用の服が売っている場所へ着いた。
「私の記憶が正しければ私もユニも女の子だった筈なんだけど……」
「その記憶は正しいので安心してください」
よかった。
ついに脳みその記憶領域までもが怠け出したのかと危惧してしまったじゃあないか。
「てことはユニが女性服売り場を間違えたってことか。じゃあさっさと移動しようぜ」
「目的地はここですよ?」
「え?」
「さ、これを着てください」
手渡されたのは、黒色の燕尾服。
執事とかがよく着ているあれだ。
「……いや、その、私の豊満なボディでこれを着ても似合わないと思うから……」
「私以下の絶壁じゃないですか」
「い、いくらなんでもユニよりは……! ……その……実際に競ってみないと分かり辛い部分だし、ぶかぶかな服を着てるからパッと見だけで適当なこと言われたら堪ったもんじゃないし……」
「さっきゅんが言ってたので間違いないです。いいからさっさとこれを着てください」
さっきゅんが言ってたなら反論できねぇ。
怠惰で不健康な生活をしていたのが仇になったか……。
…………でも本当に負けていたのかは今度さっきゅんに確認しておこう。
「きゃー! 似合うー! 似合いますー!」
というわけで根負けして、着てみた。
燕尾服。
漫画とかでは見たことあるけど、実際にお目にかかるのは初めてだ。
似合っているどうかは……自分じゃちょっとわかんない。
とりあえず胸が全くきつくないことに関しては気にしないでおこう。
「次はこれ! これお願いします!」
こんなテンションの高いユニは始めて見るなぁ。
次々とユニが運んでくる男物の服を、諦めてどんどん着ていく。
一人ファッションショーだ。
正直何が良いのか分からないが、ユニが喜んでいるし良しとしよう……。
「マコさんは絶対こういうの似合うと思ってたんですよー、着せる機会が出来てよかったです」
「ああそう……」
「もうずっと男装していてください」
「あれ? おかしいな、涙が出ちゃう」
だって女の子だもん。
仕方ないね。
「こういうのは、例のイケメンちゃんとかが着るからいいんじゃないの?」
「イケメンがイケメンの格好したらただのイケメンじゃないですか! 何言ってるんですか! 温厚な私でも流石に怒りますよ!」
「お姉さんちょっと何言ってるのか分かんないなー」
まあ、何かしら譲れないこだわりがあるらしい。
こうやって語っているのを見るとどうもさっきゅんの顔が脳裏に浮かぶが……どうも性欲とかとは別の……何というか――。
『萌え』?
よくわかんないけど、多分そんな感じの何かなのだろう。
「じゃあせめて今日のデート中はずっとその格好でお願いします」
「まあそれくらいなら……」
いっか。
そういうわけで、最終的にユニが一番似合うと判断したっぽいカジュアルなスーツらしき服を購入して――服高いなっ、こんなにするのか――、店を出る。
「この後の予定とかあるの?」
私はガチのノープランだったので、エスコートとかを期待されても困るとか考えながらの言葉だったのだが、ユニはふんすと鼻を鳴らすとなにやらメモを取り出した。
「デートコースは昨日頑張って考えましたからね、期待してもらって構いませんよ?」
おお、頼もしい。
私が昨日噴水前のベンチでひたすら惰眠を貪っていた間にそんなことをしていたなんて。
何だか自分より年下の女の子が物凄く頼もしく見える……。
そして集合時間に遅刻しないことだけを考えて、肝心のデートに関して何も考えていなかった自分が恥ずかしい……!
(いやまあ……)
(デートと言っても、女の子同士のお出かけを冗談めかしてそう称しているだけなんだけど)
それにしたって凄い気合の入りようだ。
事前に本気な感じでデートすると言ってくれれば私もちょっとは服装を変えたり…………してないんだろうなぁ。
「とりあえずご飯ですね。町の特色が特色なので都会的でお洒落なお店なんて無いですが、あっちに美味しい店が……」
「了解。……ああ、そうだ」
本気でデートごっこをするというなら、本気でやらなければ失礼だろう。
私は怠惰だが、ノリのよさではさっきゅんにだって負けはしない。
『楽しむことを怠ける者は人間ですらない』。
三つある私の座右の銘。
その内の一つである。
「というわけで、はい」
「……? なんですか?」
「手ぇ繋ごうか」
「!?」
私の発言がよっぽど意外だったのか、ユニは目をまんまるに見開いた。
頬が見る見るうちに赤くなっていく――おいやめろ、そんな照れられると私も恥ずかしくなるじゃないか。
そんな、ガチみたいな反応しないで欲しい。
「……やめとく?」
「! い、いえ! 繋ぎます!」
食い気味に手を掴んできた彼女の手を、握り返す。
思ったよりもちっちゃかったその手は、少しだけ汗で湿っていた。