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第一話

R-15付けました。

 『神』ゲーは流石に神様が作っただけあって面白いゲームである。

 世界中の人々が熱中するほどには――だけど、実のところ世界中の人々が熱中していることには理由がある。


 人の感じる『面白さ』は千差万別だというのに、このゲームが文字通り万人受けしていることに違和感は覚えないだろうか。


 覚えるだろう。

 なのに『神』ゲーは世界にプレイ経験者がいないと言えるほど流行しているのだ。


 それもそのはず。

 このゲームを最初にクリアしたものは、何でも一つ願い事を叶える。


 そう、神様が言ったのだ。

 はっきりとその口で明言したのだ。


 尚、現時点ではまだクリア者どころか――クリア条件すら知る者はいないのだが――。





*****





 と、いうことで私の昔ながらのゲーム仲間こと『さっきゅん』が年下だったことが判明した翌日。


 ……昔ながらのゲーム仲間なのに知らなかったのかと問われると言葉に詰まるが、ゲーム仲間と言っても実際に会ったことは無くてオンライン上での付き合いだったから仕方あるまい。


 普段のセクハラおじさんっぽい言動も含めて男だと思っていたくらいだ。

 『神』ゲーの世界で会ったときはそれはそれは驚いた……驚いたっけ? 面倒くさくてリアクションは取らなかったかもしれないが心の中では驚いていたのである。


 年下だというのに発育の暴力ともいうべきあのスタイルのよさには憧れるものがある(『神』ゲー内ではアバターは現実世界の身体がベースに使われる。髪色とかのアレンジは出来るが基本的にほぼそのまんまだ)が――それは兎も角。


 翌日。

 プレイヤー個人個人に与えられる《マイルーム》と呼ばれる空間で、私は目覚めた。


 簡素だが生活に必要な家具などは一式揃っているレンガの家である。

 マイルーム取得時にレンガの家か木造の家かを選ぶことが出来るのだが、日本人でありレンガの家に馴染みの無い私はあえてレンガの家を選んだ。


 ……と、いうわけではなく初期選択がレンガの家だったので決定ボタンを連打していた私は自動的にレンガの家になった。


 自分で言うのもなんだが《怠神》の加護は私にとても似合っていると思う。


「むにゃむにゃ……」

「…………」


 当然のように私を抱き枕代わりにしているスタイル抜群の痴……美女、さっきゅんこと我が相棒が左隣で寝ていた。

 左腕をパジャマの襟から私の胸元に突っ込んで、右腕は仰向けで寝る私のお尻とベッドの間に入れて。


「…………」


 ギルド名に【ふかふかベッド】なんて名付けていることから分かるだろうが私はふかふかのベッドが大好きだ。

 それにこのゲームは全年齢向けということでエロいことは悉く出来なくなっている――故に、胸を触られている感触もお尻を触られている感触も無い。


「…………」


 私は無言のまま、二度寝を敢行した。


 人肌と布団が心地よい。

 あと二十四時間は眠れそうだ。


 何? 折角ゲーム内世界に居るんだから戦闘の一つでも見せてみろ?

 使用者の少ない希少な加護を奇想天外な使い方をして読者を楽しませてみろ?


 残念だったな、今回はもうやる気が出ない。


 ここからは私の寝姿と夢を二千文字ほど綴らせてもらい、第一話は終わりを迎える予定なのだ。


(……はっ)

(今、ウトウトしながら何か変なことを考えていたような……)


 メタネタは自重自重。


 そんなことを考えながら、またも私の意識は夢の中へと落ちていく。


 あーもう。

 おふとんいずごっど。





「……ぐっもにん! おはようマコちゃん!」

「…………」


 ウトウト中という人生で最高に気持ちの良い瞬間を邪魔され、私は不機嫌そうにうっすらと目を開ける。


 どうやら私の隣で寝ていたさっきゅんが起きたようだ。

 寝起きがとても良いのか、彼女の目はぱっちりと開いている。


「まだ、寝かせ、て……今ウトウトしてて……さいっこうに……きもち、ぃい……とこ、ろ……」

「何言ってるの? 最高に気持ちいいのは性行為しているときでしょう。ほら起きて起きて」

「…………は?」


 流石にその言動は見過ごせない。

 私は近年まれに見る速さで意識を覚醒させていく。


「眠れそうでウトウトしているとき。……それ以上に気持ちいい瞬間なんてこの世界には無い……!」

「ほほう……じゃあ私とシてみる? ウトウトなんかよりもよっぽどか天国に連れて行ってあげるわよ?」

「望むところだー!」


 シてみた。

 全年齢向け世界だから何も感じなかった。


「勝った……」

「納得いかない……! 納得いかない……!」


 半裸で悔しそうにベッドを叩いている痴女を置いておいて、洗面所に向かう。


 もう少し寝ていたかったが、目は覚めてしまったし変態が邪魔してくるので諦めよう。ぐす。


「そんなにエロいことしたいならさ、ゲームをクリアして神様にお願いしてみればー?」

「あんなのプレイヤーを集めるための広告でしょ。大体MMORPGっぽいこのゲームにクリアがあるのかすら分からないわ」

「じゃあ現実世界に戻れば」

「現実世界にマコが居るならそれでもいいけどね」


 現実世界に戻る気とか無いなー。

 とかそんなことを考えながら、鏡の前に立つ。


 肩口あたりまで伸びた黒髪。

 死んだ魚みたいに濁った黒い瞳。

 中学生から成長が止まった身長や体格も踏まえて、何処に需要があるのか分からない感じの女の子だ。


 ……いや、ベッドで私の残り香を楽しんでいる変態には需要があるらしいがあれはあいつが変態だからだろう。

 多分女の子なら誰でもいいんだと思う。うん。


 ちなみに男は守備範囲外らしい。

 まあ趣味と性癖は人それぞれだよね。


「本人が目の前に居るのに残り香嗅いで楽しい?」

「わっつ? 本人の体臭と残り香は別腹でしょう」

「そ、そう……」


 趣味と性癖は人それぞれだよね(二度目)。


 朝の準備諸々を終えた私は、早速部屋のソファに寝転んだ。

 準備と言っても顔を洗って歯を磨いた程度だが、今日はもう家でゴロゴロする予定なので問題ないだろう。


「ちょっ、何早々にダラダラしようとしてるのよ。今日もクエスト行くから装備着けなさい」

「えぇー?」

「ほら、髪も整えてあげるから座って。朝ご飯はパンでいいわよね?」

「いいけど……今日もクエスト行くの?」

「年中ダラダラできるだけのお金は無いから、仕方ないわ」


 この世界は結構世知辛い。

 お金をクエストや討伐依頼で稼がなければ生きていけない。


 そして死んだら死ぬ。

 外傷による死亡なら蘇生魔法で生き返ることもあるが、餓死や病死は二度とゲーム世界にも現実世界にも戻って来られなくなってしまう。


「仕方ない……」


 手をかざす。

 そうしてから心の中で「メニュー」と唱えると、目の前にゲームのメニューウィンドウが浮かんできた。


 そこから装備画面を入力し、パジャマから装備を戦闘用のものに変えていく。


「……よし」


 防御アップの効果が乗った普通の服の上に、魔法使いのようなだぼだぼした黒いコートを身に纏う。

 一見すれば魔法使いだが、杖も持っていない、というか武器は無しだ。


 このゲームは加護を受ける『神』によって装備できる武器が決まっているのだが……《怠神》の加護は装備できる武器が存在しない。

 この辺も人気が出ない要因だろうか。それを言うとさっきゅんの《淫神》もそうなのだが。


「さて」


 朝ごはんを食べて、さっきゅんも戦闘用の装備(ビキニにしか見えない薄着)に着替えたところで準備完了。


 やれやれこんな働き者じゃあ《怠神》から加護を受け取っている信者失格だぜ、とか。

 信仰心の欠片もないどころか怠神の姿も見た事がない私は、そんなことを思いながらマイルームの扉を開けるのであった。

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