第十八話
『神』ゲーは、普通のゲームとは違う。
アカウント停止も、普通のゲームならば新しいアカウントを作ったりしない限りゲームに復帰できないのだが……新しいアカウントを作るということがそもそも出来ない『神』ゲーは垢BANを喰らっても永久にゲームに復帰できない――わけではない。
あまりにも酷いことをやりすぎると永久凍結もありうるらしいのだが、さっきゅんが今回やらかしたことくらいなら一週間くらいでアカウント停止は解けるだとか。
それを聞いて一安心だ。
有志によって作られた『神』ゲーのwikiを閉じながら、ほっと一息吐く。
「いや、何を安心してるんですかマコさん」
「? 何か問題でもあった?」
「問題というか……最近私達すっかりこのギルド拠点に住み着いているわけじゃないですか」
それがどうかしたの?
確かにもう最近ずっと家に帰らずに、ギルド拠点で共同生活的なことをしているけれど……。
「家事とか全部、さっきゅんさんがやってたわけですけど……大丈夫なんですか?」
あっ。
*****
さっきゅんは家事上手だ。
料理洗濯掃除等々、その全てを軽々しくこなす。
ビッチが家事上手とか萌えるじゃん、という彼女独自の謎理論を展開し、サクサクと家事をこなす様はなんというか単純に気持ち悪かったが……。
それでも、ありがたくはあった。
「なるほど、大切なものは失ってから気付くということか……」
「良いこと言ってる場合じゃないですよ。本当、どうしますか?」
「まあ一週間くらい何とかなるんじゃない?」
と、いうことで。
料理は私担当、掃除と洗濯はユニ担当という分担で一週間家事をこなすことになった。
最初はユニが「何か不安ですし私が全部やりますよ」とか若干失礼なことを言ってきたが、ユニのような子供に包丁を持たせたり火を使わせるのは心配ということで私が料理をやることになったのだ。
私は怠惰だが、子供に働かせて自分は寝転がっていられるほど人間の屑じゃ……いや、うん、やろうと思えば寝転がっていられるけど、兎に角今日の私は何故かやる気に満ち溢れていた。
多分、ユニの『私にやらせるのは何か不安発言』が無駄に私の心に火を点けてしまったのだろう。
「さあ、やるか……」
と、いうわけでお昼時。
私はキッチンの前に立っていた。
このゲームはゲームだというのに材料を揃えてボタン一つでポンと料理完成! というわけにはいかない。
現実の料理と変わらない手順を踏む必要がある。
……何、心配する必要は無い。私は学生時代家庭科の調理実習に一度だけ参加したことがある女だ。
「材料は……米に、卵、肉、魚……野菜は、いいか」
冷蔵庫を開けて、中身チェック。
さて、何の料理を作ろうか……。
「料理なんて一個も分からないけど、私にはインターネットという強い味方がいるからね……ユニは心配しすぎなんだよなぁ……」
さて、検索検索。
今の材料で出来そうなものは……っと。
……。
…………。
………………。
「……呪文、かな?」
なんてこった。
人って自分が興味の無いことってここまで頭に入ってこないのか。
手順を見ながらやればいいかとかそういうレベルじゃない。
なんか「次は何やればいいのかなー」と次の手順を読んでいる間に手遅れになる感じがひしひしとする。
「……まあ、肉焼いて塩振って、お米は炊けばいいんだろう」
なんとかなるなる。
ネットを閉じて、私はお米を取り出すと炊飯器に入れて……こっからどうするんだろう。
水を入れて、炊飯器にセットすればいいのかな。
あ、味付けるために塩水に……いや、甘いほうが子供のユニにはいいよな。
砂糖水を入れておこう。
これでスイッチを押して、と。
さあ次は肉だ。
ふっ、ここで私がかつて現実世界の学校で学んだことが活きてくる。
包丁で食べやすいサイズに切る際に、包丁を持つ手と逆の手は猫の手にする。
それだけは、覚えている。
そしてそれを覚えていれば充分だ。
この知識一つで料理マスターを名乗ってもいいくらいの奥義。
もう、あの調理実習の時のように左手を切ってしまうことはない。
手を切ってしまうミスさえ犯さなければ……肉を切るなんて造作も無いのだ!
ん? あっ。
「……肉ってどれくらい焼けばいいんだろう?」
一時間くらいか?
……まあ多分そんなもんだろう。
中までしっかり火を通さないと危ないっていうしね。
フライパンに肉を乗せて、火にかける。
あ、このフライパン蓋があるじゃん。蓋があったほうが熱が逃げないよな……よし。
火の強さ?
そんなの勿論、強火一択だろう。
これで後は待つだけ……なんだ、料理って簡単じゃん!
一時間後。
涙目のユニにわりと本気の殴打を喰らった。
まるで怒り状態関係のスキルが全部乗ったような攻撃力のパンチだった。何故だ。