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第十七話

 数日後。

 それは穏やかな昼下がりの午後だった。


 イベントは期間を過ぎて終了し、慌しく魔王軍を倒す日々も終わって私がのんびりとギルド拠点のソファに寝転んでネットサーフィンに勤しんでいる、そんな日に。


 一件の、アップデート通知がメールサーバに届いた。


「……? 何これ……」

「ん? どうかしたー?」


 ユニを膝の上に乗せて頭を撫でながらテレビを視聴していたさっきゅんが、私の声に反応を示して振り返る。

 さっきゅんはメールの着信通知をオフにしているんだっけか。


「アップデートのお知らせだって。何々……『最近一部のプレイヤーが全年齢向けであるこのゲームの趣向にそぐわない卑猥な発言をしてセクハラを働くという事件が起きています』……」

「うっわ、そんなことするやついるの? サイテーね」

「さっきゅんさんのことじゃないですか。ついに運営の目に止まったんですか?」

「そんな馬鹿な。私のセクハラには愛があるから問題ない筈……」


 さっきゅんのたわごとを無視して、先を読む。


「『よって、卑猥な発言は効果音が入って掻き消されるように仕様変更されました。何卒ご了承ください』……だってさ」

「ふーん、試してみましょうか」


 言って、さっきゅんは息を大きく吸い込んで。

 口の動きからして多分「おっぱい!」と叫んだ。


「《バキューン!》! ……おおっ」


 さっきゅんのセリフが、完全に効果音によって掻き消された。


 これはいい機能だ。

 身近に卑猥な言葉を連呼する変態がいる人には朗報だろう。


 でも逆にその変態にとっては残念なアプデだったんじゃないか? とさっきゅんの様子を伺って見るも、結構平気そうだ。

 というか楽しそうだ。


「《バッキューン!》! 《ズッキューン!》……ふふふ、面白いわねこれ」

「もう卑猥なセリフが言えなくなったけど、それはいいの?」

「甘いわねマコちゃん。エロっていうものはね、隠れていたほうがエロいのよ」


 この変態、底なしか?

 底なしのエロスパワーの持ち主か?


「そうね、試してみた方が分かりやすいかしら……ユニちゃん」

「はい? もう何か嫌な予感しかしないのですが……」


 一拍深呼吸して、さっきゅんはニヤニヤしながら口を開く。


「行くわよ……ユニちゃんって本当《バキューン!》で《ズキューン!》で、でもそこがまた《ドキュキュキューン!》なのが可愛いわよね」

「う、うわあああああああ! やめてください! やめてください! なんか隠れている分何を言われたのか分からなくて本気で気持ち悪いです!」

「……ね?」


 バッチーン、とウィンクしつつ微笑みかけてくる変態にかけてやる言葉が見つからない。


 規制すら味方につけるコイツは、本物の変態と言っても過言ではないだろう。

 こんなことになるなんて、流石の神様も予想できなかったのではないだろうか。


「でもホント面白いわね、これ。どれくらいの言葉がセーフでどれくらいの言葉がアウトなのか検証してやるわ」

「暇人かよもっとやれ」

「何で煽るんですか!?」

「よーっし、えーとまずは軽いところから……《バキューン!》《ドガガガーン!》《キュイィーン!》《ズドドドド!》《ドガガガーン!》……うーん、この辺は全滅か、外国語だとどうだろう、《バキューン!》ダメか。なら……」


 古今東西。

 ありとあらゆる卑猥な言葉を口にしていくさっきゅん。


 エロス方面のボキャブラリーが豊富すぎるだろう、と見守っていると、



 さっきゅんが消えた。



「………………え?」

「……は?」


 突然も突然。

 一瞬姿がぶれたと思ったら、もうそこには居なかった。


 居場所をサーチしてみても、何処にも居ない。

 ていうか、ログイン状態になっていない。


 まさか。


「まさか……あいつ……」

「ええっと、これってもしかして……」


 その、もしかしてだった。

 運営お問い合わせフォームにすぐ連絡し、もしかしては確証へと変わる。


 HN『さっきゅん』。

 卑猥な発言を一定時間、または規定回数以上連続で発言したためアカウントを停止しました、と。


 無機質な文体のメールが、私のメールボックスに届いた。


 アカウント、停止。

 垢BAN。


 え? ていうか、その、なんというか……。


 ……え? マジで?

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