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第十六話

 このゲームには決闘というシステムがある。


 本来禁じられているプレイヤー同士の戦いを、合法にするシステムだ。


 決闘が始まると周囲の一定範囲が戦闘エリアとなり、どちらかが降参するか戦闘不能になるまで解除はされない。

 そして勝者は敗者に一つ、決闘前に定めた《約定》を課せることができるのだ。


「私が勝ったら、貴方は『この町から出て行って二度と近づかないこと』を約束してくれ」


 イケメンが、《約定》を定めながら剣をさっきゅんに向けている。


 これでさっきゅんが《約定》を定めて決闘を受けたら決闘は成立だ。

 万が一にもこの町を出て行きたくないから拒否してもらいたいところだが……。


「いいわよ。じゃあ私が勝ったら貴方は――」


 しかし、さっきゅんは受けた。

 あっさりと承諾し、《約定》を定める。


「『ミニスカートの着用を義務』にしなさい」


 戦闘エリアが広がり始めた。


 決闘は一対一で行われるため、私たちが手助けすることは出来ない。

 戦いの行方を見守るだけだ。


 さっきゅんが町を出ることになったら私も出ることになるんだからもうちょっとこう、相談とかして欲しかったものだが……。


 しなかったってことは、勝算があるってことだろう。


 相手は高レベルの《剣神》。

 しかも同性相手に《淫神》が出来ることなんて限られているわけだけど……。


「《セクシー☆ビーム》!」


 やはりというべきか、さっきゅんが初手に放ったのはビームだった。


 しかし初見ならば兎も角、アロンは骨の集合体と戦った時にさっきゅんのビームをその目で見ているのだ。

 それに加えて《剣神》の基礎能力値は非常に高い。

 大きくサイドステップすることによってビームをかわし、噴水を足場にしてさっきゅんに突貫した!


「そのビームは脅威だが、距離を詰めてしまえば何の問題も無い!」

「ふっ」


 まさしくその通り。

 近距離戦こそさっきゅんの弱点だ。


 でも、笑った。

 さっきゅんは意味深に笑みを深めて――ビキニのような自分の服を引き千切るようにして脱いだ。


「……はっ!? な、なんで脱いで……!」

「新スキル……《セクシー♪バリア》!」


 ぽよん、と。

 柔らかいゼリーのようなバリアがさっきゅんの周囲に生まれた。


 そのバリアは、柔らかくイケメンの剣を受け止めて、包み込む。


「説明しよう! 《セクシー♪バリア》とは使用者のセクシー度とバストサイズによって強度とサイズが決まるバリアである! おっぱいを晒してセクシー度を上げた私のバリアがその程度の攻撃に負けると思うないことねフハハハハ!」

「この恥知らず! 変態女!」

「《セクシー☆ビーム》!」


 イケメンからの罵倒をスルーして、

 胸を強調したセクシーポーズから、桃色のビームが放たれる。


 急ぎ剣をゼリー状のバリアから引き抜いて回避行動を取るイケメンだったが、時既に遅し。


 バリアに包まれた剣を引き抜くのに、一瞬手間取った。

 そしてその一瞬は、致命的な一瞬だ。


 イケメンの身体は、桃色のビームに呑まれていった。


 勝負あり。

 ますますチートに磨きがかかってるさっきゅんであった。





*****





 ただいま描写できない光景が広がっていますので音声だけお楽しみください。


「さあ可愛い格好をしましょうねー♡ イケメンちゃん♡」

「や、やめろぉ! 来るなぁ! 自分で履く! 自分で履くから! ていうか自分で買ってくるから! なんで自分のミニスカートを脱いで私に着せようとするんだ! やめっ、ヤメロー!」

「仕方ないじゃない、《約定》なんだから。一刻も早くミニスカートを履く義務がアナタにはあるのよー♡」

「短すぎるんだよ! 君のスカートは! 待って! 本当待って! やだ! やだ! アーッ!」

「こら、暴れないの! パンツが脱がせにくいでしょう!」

「な、何でパンツを脱がせるんだっ!」

「ノーパンミニスカートのほうが私が興奮するからよ! どうせ謎の光で見えないんだからいいじゃない! ほらほら《セクシー♡タッチ》♡」

「ふゎっ!? ん、くっ……やめ! ほんとやめて……!」

「へっへっへ、身体は正直だぜぇ? やめて欲しければ甘えた声で『やめてくださいご主人様♡』と言ってみろよ」

「だ、誰がそんなことぉ……くっ、ぅうん……!」


「…………ユニ」


 私は。

 街中の広場という公衆の面前でよからぬことをしている相棒の姿を見て、隣に立つユニに語りかける。


「収拾つけるのが面倒くさいから帰っておやつにしない? 良い和菓子が手に入ったんだよ」

「…………はい」


 全てを諦めたような虚ろな瞳で、ユニは頷いた。

 もうさっきゅんに関しては色々と諦めた方がいいということをようやく理解したか。


「マコさんは……何であんな変態のことを相棒と呼ぶのですか?」

「ん?」


 ふと、思いついたように、ではなく。

 ずっと訊くタイミングを計っていたかのような感じで、ユニは言った。


「悪い人ではないのは分かりますが……明らかに変な人ではあるでしょう。どういう経緯で、二人は出会って知り合ったのですか?」

「…………私が、現実世界でニートしてた時、やってたネトゲで一緒に遊んでいた人なんだよ」


 そして神様が降りてきて、『神』ゲーが配布された時一緒にやろうと誘ってくれた人でもある。


 初めて会ったときは、とんでもない美人な巨乳お姉さんでびっくりしたものだ。

 女性を自称していたけど、発言がおっさん臭くてネカマだと思ってたもの。


「そっからは……ま、元々お互いのことをある程度知ってたし、最初はあの子ちょっとネコを被ってたからなぁ、なあなあで続いている関係って感じ」


 嘘だ。

 私は今、嘘を吐いている。


 でも仕方ない。

 多くは間違っていないし、あの子との関係性は――語るには、面倒臭すぎる。


 語ってしまえば――私は罪悪感に押し潰されてしまいそうになるから。


 それは非常に、面倒だ。

 死にたくなるくらい。


「……そうですか……」


 納得行ってない様子のユニに内心謝りながら、ギルド拠点への帰路を歩く。


 後ろからアロンの「くっ殺せぇ!」というセリフが聞こえてきて、シリアスな雰囲気なのにちょっと笑ってしまった。



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