第十五話
『ケタケタケタケタ』
「てぇい!」
ケタケタと笑う、骸骨の魔王軍をユニのハンマーが打ち砕く。
骨が砕け散り、魔素がコロリとドロップする。
今日も今日とて魔王軍狩りだ。
指揮官モンスターを倒したことによって、ぐっと目標数に近づいた私たちだったが、というか既に私とさっきゅんは目的のイベントアイテムを交換済みだったが、
ユニのイベント限定ハンマーだけはあと数十個ほど魔素が足りなかったのでこうして狩りを手伝っているというわけだ。
いやまあ私は何もしてないんだけど。
「なんかこいつら、言葉を喋らなくなりましたね」
「指揮官モンスターが倒されると知能が低下する仕様みたいね。他の町とかでも同じ現象が起きているらしいわよ」
「そうですか」
疑問を呈したユニに、さっきゅんが解を返しながら肩に手をポンと置こうとして――避けられた。
そのままスススっとユニは私を盾にするように陰へ隠れると、「まあそれは兎も角」と話題を切り替える。
「魔素が集まりました。交換所に行って早速ハンマーを交換しに行きましょう」
「待って! 何で私を避けるのユニたん!」
「……セクシータッチをわたしに使わないと誓うのなら避けません」
セクシータッチ。
さっきゅんが新たに覚えた極悪スキルを、ユニは警戒しているようだ。
それはそうかもね、今朝よだれを垂らして放心していたことを考えると相当凄いことをされたに違いない。
「使わない! 使わないから避けないで傷つくからっ!」
「……本当ですか?」
「ホントウダヨーシンジテヨー」
明らかに目を泳がせて棒読みを繰り出すさっきゅんに、ユニはそれはもう猜疑心の塊のような視線を向けたのであった。
*****
《魔装》シリーズ。
魔王軍襲来のイベント限定アイテムの目玉賞品とされるその武器は、現状手に入る武器の中でもかなり上位の攻撃力を誇る武器である。
初回イベント故か、特異な能力などは付いていないものの、装備が充実していないプレイヤーにとってはありがたい救済措置ともいえる武器である。
全武器種揃っているのも嬉しい。
「これで、ようやく戦力としてマトモになれますかね」
《魔装》シリーズのハンマー――《魔鎚ラグナログ》という大層な名前が付いた黒色に銀の装飾が施されたハンマーを担ぎながら、ユニは微笑んだ。
私とさっきゅんは頷く。
骨の集合体を倒したときに入ってきた経験値でレベルも二十まで上がったし、これで充分戦力に数えられるプレイヤーになったといえるだろう。
(《怒神》の加護が覚えるスキルの中では)便利なスキルも覚えたことだし……さらに私が楽できるな!
「……あれ? さっきゅんさんは?」
交換所を出て、ユニがきょろきょろと辺りを見渡しながら言う。
ああ、あの子なら……。
「さっきゅんなら『もう我慢できん! セフレ作ってくりゅ!』とか言ってアロン……あのイケメンちゃんを探しに行ったよ」
「どうして止めないんですか!?」
「いやなんか『もうフラグは立ってる筈だから押せ押せでイける』とか言ってて自信満々だったから……」
「だったから?」
「面倒だし止めなかった」
「もうちょっと頑張ってください!
急いで止めに行きますよ! どっちの方向に行きましたか!?」
ユニちゃんホント初期のキャラが何処へ行ったのか分からないくらいツッコミキャラになったなぁ……。
一体誰のせいだろう。
ああいや、議論するまでもないか。
間違いなくさっきゅんのせいだ。
「ユニちゃんって結構怒りやすいよね。《怒神》の信仰者だから?」
「怒ってないですけど、仮に私が怒りやすい人だとしたらそれは多分あなた達の所為ですね」
「はは、そのギャグ面白いね」
「…………ああでも、そうですね。お父さんも相当怒りっぽい人でしたから遺伝かもしれません」
おっと、隙を見て重い話を挟みこんでくるのは申し訳ないがNG。
私はユニちゃんに手を引かれながら、話題を転換しようとして……。
「もう我慢ならん! 決闘だ! ぶっ殺してやる!」
聞き覚えのあるイケメンの声に、ハッと顔を上げた。
町の中央にある、噴水のある広場。
そこで、顔を真っ赤にして剣を構えたイケメンと手をわきわきさせた変態が向かい合っていた。