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第十四話

感想・評価等くれたら泣いて喜びます。

「まさか異世界の魔王に目をつけられるとはな」


 世界の何処か。

 神々が住まう雲の上で、赤い皮膚に赤い髪の毛をした筋骨隆々の男神が呟いた。


 目の前には『神』ゲーの世界を俯瞰できる複数のウィンドウ。

 それを何柱かの神々が、雲の椅子に座りつつ眺めている。


「異なる世界を観測できる程強力な魔王、ということですか……」

「今回は軍勢だったが、魔王本人が光臨した場合今のプレイヤーたちでは勝てぬだろうな」


 眼鏡をかけた知的な女神と、髭を蓄えた白髪の老人は言う。


「期間限定イベント、と誤魔化すアイデアは評価する。しかし本物の魔王の軍勢は結構な勢いでプレイヤーに駆逐されているぞ、期間までまだ結構時間があるというのに」

「そんなの偽者の魔王軍を創ればいいだけでしょう。馬鹿なんですか?」

「我らが創ったモンスターは喋れない。そんなことも分からない貴様の方が馬鹿だろう」

「その程度いくらでも誤魔化せる」

「それよりも期間が終わったところで魔王軍が生き延びていたらどうするんじゃ。援軍が来たら?」

「延長とでも、魔素の交換はできんが魔王軍モンスターは常設モンスターとなったと通達すればよい。くだらん疑問を投げるな」

「おうそれはすまんかった。こちとら貴様みたいな若造と違って二千年以上前から生きている古強者。最近のげえむというのはよくわからんくてのう」

「へっ、老害だって自覚があるなら黙ってろ」

「喧嘩しないのー!」


 神々の意見があちこちに飛んで跳ねて転がっていく。


 流石に個性が強い神々同士。

 そう簡単には纏まらない。


「ああそうだ皆の衆。一つ気になることがおきた」


 が、そこで一柱の神が放った一言により、議論がぴたりと止んだ。


 全ての神の視線が、言葉を放った神の方へと向く。

 蓄えられた、銀の髭。そして蒼い瞳を持った老獪な神。


「何ですか《万神》様。何か異世界の魔王に関することで……?」

「異世界の魔王は本格的にあの世界への侵略を始める前にプレイヤーたちが強くなっているように、美味しいイベントをいくつか開催するしかなかろうよ。……いや、そんなことよりもっと重要なことじゃ」

「異世界の魔王より……重要なこと?」


 《万神》は頷く。


「うむ、《ベルの町》のイベントアイテム交換所NPCから……報告があった。

 あの全年齢向けの世界で――性欲を保っている人間がいる」


 神々の目が、見開かれた。


 何言ってんだコイツ――という表情ではない。

 《万神》の言葉に、本気で驚いている顔だ。


「嘘だろ……!? あの世界で性欲なんてものを抱ける筈が……」


 《色欲》、《怠惰》、《憤怒》、《暴食》、《嫉妬》、《傲慢》、《強欲》。


 人類の持つ七つある大罪は、あの世界ではある程度抑制される筈なのだ。

 特に《色欲》に関してはゲーム的にも色々問題あるということで全年齢向けという縛りの元より強く欲望を抑えるようになっている。


「『神への信仰を強める』、『人の罪を洗い流す』。

 二つの目的を持って創られたこの世界(ゲーム)で劣情なんてものを抱ける人間なんているんだにゃー」


 猫耳を生やした神が、くしくしと髪を整え目を細めながら、言う。


「余程の《大罪》を背負った人間ってことなんだろにゃ。つーことはその人間――」



 ――次の《淫神》に成れる素質があるかもにゃ。







*****






「とんでもないスキルを覚えてしまった……」


 骨の集合体を倒した、翌日。

 遅い起床の後、遅い朝ごはんを食べている私に向けて変態女ことさっきゅんは慄きながらそんなことを言い出した。


 何かセクシービーム並みの強力なスキルでも覚えたのだろうか。

 骨の集合体――ヴァルデッドと名乗ったらしい――を倒した時私たち皆レベルが上がったし、さっきゅんなんてとどめを刺したのだからかなりレベルが上がったことだろう。


 何かスキルを覚えたって不思議じゃない。

 ……私は五レベルほど上がったのに《怠神》は何もスキル覚えなかったけどな。


「《セクシー♡タッチ》っていうスキルでね、手で触れた異性を魅了状態にするスキルなんだけど……」

「ん? 何それそんなとんでもないスキルに聞こえないんだけど……」

「これをね、発動しながらこうすると……」


 こうすると、と言いながら。

 さっきゅんは私の胸部に後ろから手を回して……。


 思いっきり、揉みしだいた。


「んぁ……!?」


 びくり、と身体が震える。

 触られた部位が熱くなって、小さく痺れるような感覚が身体を駆け巡る。


 自分から出た艶っぽい声にびっくりして口を抑えながら、私は思わず背後に頭突きを慣行した。


「いだーっ!」

「な、な、な、何を、さっきゅん……」

「うふふ……普段からは考えられない可愛い声をありがとう……そう! 《セクシー♡タッチ》は全年齢向けの壁を越えて相手に性感ダメージを与えられるスキル! これさえあれば百人力! さあマコちゃん! 私とセッ「今日から一緒のベッドで寝るの禁止な」……何で!?」


 何でと言われても……。

 今までは全年齢向けだからという安心感があったから許可してただけだし……。


「さっきゅんのことは好きだし、期待には最大限応えてあげたいけどこればっかりは無理だ、ごめんな」

「ど、どうして!? 別にマコちゃんは何もしなくていいのよ? 私が全部やってあげるから!」

「いや、そういう問題ではなく……」


 私たちデートもキスもまだどころか付き合ってすらいないからな。


 その辺のステップは大事にしていきたい乙女心。


「じゃあデートに行こう!」

「面倒だから嫌だ」

「怠惰!」


 頭を抱えて叫ぶさっきゅんを無視して、朝食をほうばる。

 食パンを咀嚼しながらふと目に映るのは、突貫工事でとりあえず穴だけ塞がれたギルドの壁とよだれを垂らし放心するユニ。


 いやあ本当、昨日の戦いは激闘だった。

 もうしばらく働きたくないから働かないでおこう。魔素も結構な量溜まったし……て。


 よだれを垂らし放心するユニ?


「おいさっきゅん、ユニに何をした?」

「《セクシー♡タッチ》を試してみたわ」

「ああ、通りで覚えたばかりのスキルなのにやたら使いこなしているわけだ……」


 ちなみにスキル説明文には『発動中に触れた相手が異性だった場合魅了状態する』としか書いていないらしい。

 彼女ほどの変態ともなれば直感で隠し変態効果があることを見抜けたとでもいうのか。


 いや多分オ――やめておこう。


 何はともあれ。

 この日、ある意味最強の存在がこのゲーム内に生まれてしまったことは確かだった。

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