第十三話
「…………」
桃色のビームが私たちの拠点を貫通し、家具を根こそぎ吹き飛ばす様が眼前に映った。
どうやらあの変態のビームがここまで届いたらしい。
成る程街中でビームを撃ちまくるとこういうこともあるのか、と一つ勉強になった。
何故かビームの直撃を受けても平気だった《七福神人形》を拾い集めて、ひとまず懐へ仕舞う。
「さて、と」
ビームをこっちに撃つなよとチャット機能を使って変態に連絡するか。
それが済んだらまた一眠りを……ん……?
穴が空いた壁から、救難信号として定めていた信号弾が飛んだ。
こうして私が一人怠けていることの多い我がパーティで、私が本気を出すタイミングが来たということを知らせる合図が。
「《怠惰の極み》」
急激に減り出したさっきゅんのHPを見て、即座にスキルを発動。
ビームが空けた穴から飛び出し、屋根伝いに相棒の元へ駆けて行く。
魔王軍は、非戦闘エリアを戦闘エリアに変える。
つまりあの森で魔王軍の相手をしていたときから、私はずっと『戦闘エリアで「何もしない」をしていた』ことになるのだ。
《怠惰の極み》は、『戦闘エリアで「何もしなかった」分だけ基礎能力が高まる』スキル。
ここまでずっと、ずっと何もしなかった。
何もできなかった私の能力値は――。
「本当――使い勝手の悪いスキルね」
仲間のピンチに、駆けつけることしかできない。
仲間がやられてから、仇を討つことしかできない。
《怠惰》の代償ということだろうか。
怠ければ怠けるほど――仲間の負担が増していく。
寄生プレイヤーご用達の加護とはよく言ったものである。
――でもだからこそ、この状態の私は最強だ。
「よっこい……」
視界に入った巨大な骸骨の集合体を見て、察する。
あれが今回のボスで指揮官で、さっきゅんたちを追い詰めている敵だろう。
屋根から跳躍し、思いっきり拳を振りかぶって、
「しょ」
私は拳を振りぬいた。
『がっ……?!』
たったそれだけで、崩れていく骨の集合体。
今の私の能力値は、大体レベル九十相当に匹敵するほど上昇しているのだ。
生半可なボスなんて、相手にすらならない。
「さっきゅん――ユニ――!」
着地をして、あたりを見渡す。
しかし、彼女たちは居なかった。
見当たらない……慌ててパーティメンバー一覧を表示させてみると、まだ二人とも微かにHPが残っているので生きてはいるのだろう。
私が戦うということで、おもいっきりやれるように配慮してくれたのかな。
でももう戦いは終わって……。
『……驚いた。これほどの力を持つ者がいるとは』
「!?」
骨が再構築されていく音が聞こえてきて、振り返る。
わりと会心の一撃だったと思ったんだけど、浅かったか……って、
推奨討伐レベル百って何それ。
『だが我輩の力の前では無意味!』
「っ!」
迫り来る骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨。
骨の手。
それに合わせるように、拳を振るう。
それによって骨の集合体で出来た骨の手はバラバラに砕けた。
耐久力自体はそこまで高くないようだ。
でも、生命力というか再生力が……!
「再生力が、高い……」
『ぐわはははは! 温い温い!』
「ぐっ……!」
《怠惰の極み》の効果時間はそう長くない。
正確に測ったことは無いが五分はもたないだろう。
それまでに倒さないと勝ち目無しなのは明らかだ。
「こういう再生力が高いモンスターは……大体核みたいのがある筈だけど……!」
振るわれた骨の拳を避けるようにバックステップをし、建物の屋根へと飛び移る。
よく見たら骨モンスターの足元にイケメンが戦闘不能で倒れているのが見えたが、今はそちらに注目している余裕は無かった。
「ふっ……!」
屋根が壊れるくらいの力で跳び、骨の集合体の真上を取った。
足を振り上げ、振り下ろす。かかと落としというやつだ、格闘技経験が無い私でも身体能力の上がっている今ならこれくらいのことはできる。
『ぐぉっ?!』
縦に真っ二つ。
これだけ広範囲に身体を破壊すればもしかして倒せるんじゃないかと考えたのだが、しかしてやはりというべきか骨は再び集まって真っ二つに割れた骨の集合体は元に戻った。
…………ん?
今、ハートマークが付いた頭骨が一つあったような……。
「あれは……さっきゅんの……ああ成る程そういうこと」
あれが核か。
そして、今ここにさっきゅんが居ないということは……。
推測だけど、もう時間も無いしその線に賭けようか。
『無駄なあがきを……』
跳ぶ。
今の私なら、空気を足場に空中を跳ぶことだって出来る。
先ほど見つけたハートマークの頭骨があった部位辺りを目掛けて空中を駆け、拳を振るう。
どうやらこのモンスターは攻撃力と再生力に特化したタイプのようで(勿論他のパラメータも推奨討伐レベル相応の高さはあるが)、特に素早さに関しては私のほうが圧倒的に勝っているようだ。
でかさ故の鈍重さか。
少なくとも小回りは効かないなら《怠惰の極み》効果中の私が遅れを取ることは無い。
両拳を某サイヤ人のようにダダダダと振るって、骨の外殻を削っていく。
そんな私を捕まえようと動く骨の手が迫ってきたら離脱して、別角度から再び削岩ならぬ削骨作業。
ハートマークが付いた骸骨を探す。
何処だ、何処だ、何処だ。
くそう、火力が足りない……攻撃用のスキルが欲しい。
私の攻撃全部通常攻撃なんだよなー。
「がぁああああああああああ!」
「! ユニ!?」
聞き覚えのある咆哮が、下方向から聞こえた。
ゴスロリハンマー使いの少女――ユニが、骨の集合体を足元から崩しにかかっているようだ。
そういえば、ユニのHPが減っていた。
HPが一定以下になれば怒り状態になるスキル《怒りを力に》。
推奨討伐レベル百の強敵であるこの骨はレベルにしては防御力が低いし、《怒神》の加護の膨大な攻撃力上昇スキルも相まって足元を崩すくらいのことは出来ているようだ。
骨の手が一本、ユニの元へと動いた。
今しかない。
今この瞬間しか――チャンスは無い。
空気を蹴り、骨の海に突入する。
纏わり付いてくる骨の手を無理やり引き剥がしながら、ハートマークの付いた頭骨を捜す――あった。
手を伸ばして、掴む。
そのまま握り潰してやろうと思ったが、思ったより硬い。
ならやっぱり最初の予定通りやるとしよう。
骨に纏われつかれながらも、身体を全力で稼動しハートマークの付いた頭骨を蹴り上げた。
上に、上に。
骸骨の海から捻り出すように。
それと同時に《怠惰の極み》の効果時間が切れて、私の身体は怠惰に包まれる。
さて、
後は任せた。
「相棒」
「おーらい!」
骨の海に飲まれながら、私の視界に我が相棒の姿が映る。
屋根の上に全裸で立つ、さっきゅんの姿が。
全年齢特有の謎の光が局部を覆っているだけの、生まれたままの姿が――在った。
「全力全開――《セクシー☆ビーム》!」
セクシービームは、セクシー度に比例して威力の上がるスキルである。
局部のみ謎の光で覆われた全裸というスタイルは――セクシービームの威力を最大まで引き上げるのだ。
少なくとも、最大状態の私のパンチより強いくらいには。
全く我が相棒ながらセクシーすぎるぜ。
桃色の極太ビームが、無防備になった骸骨の核を飲み込んだ。
…………。
てれててってーん。
レベルが上がった。