第十二話
さっきゅん視点です。
怠惰な主人公だから三人称にすればよかったと反省中。
「――《セクシー☆ビーム》!」
さっきゅんこと私の指先から放たれた桃色のビームが、立ち並んだ骸骨兵たちを蹂躙していく。
我ながらチート臭いスキルだわ。
さほどSPを消費しない、広範囲高火力で乱射も可能なビーム。
正直これ以外のスキルをあまり使わないくらいには依存度が高いスキルである。
「え、えい!」
私が取りこぼした骸骨兵を、ユニがハンマーで叩き潰す。
怒り状態にはなっていないが、ハンマーという武器種が攻撃力高めに設定されているからか攻撃は充分通っているようだ。
マコは――今頃ギルド拠点かマイルームでダラダラしているだろうなぁ。
まあ怠けることが彼女の仕事みたいなところがあるし、仕方ないわ。
「……ん?」
骸骨を殲滅しながら燃え盛る町を歩いていると私たちと同じく骸骨と戦っているプレイヤーが目に入った。
金髪碧眼のイケメンで、剣を持ち鎧を着た騎士のような姿をした……イケメン。
イケメン以外に形容する言葉が思い浮かばないくらいの見覚えあるイケメンが、剣を振り回して戦っていた。
「いえー! やっほーイケメンちゃん! まさかもう共闘する機会が来るとは思ってもいなかったわ!」
「きゃあぁああああああああ!?」
背後からイケメン――アロンに抱きつき、耳を甘噛みしながら股間に手を突っ込む。
すると面白いように悲鳴を挙げてくれるイケメンちゃん。
こういう初々しい反応はマコちゃんにはもう望めないから、楽しくて仕方ないわ。
「きさっ! 貴様ぁ! こういうことはですね! おいそれと気軽にやっていいことでは……!」
「おいおいそんなこと言ってる場合じゃないでしょう? 骸骨共を殲滅するのが最優先って分からない!?」
「よーしそこに直れぶった切ってやる!」
なんてからかいがいのある子だろう。
ただまあぶった切られるのは勘弁願いたいので「降参降参」と両手を挙げて大人しく離れる。
「ふーっ! ふーっ!」
「ちょ、ちょっと……あの人滅茶苦茶怒ってますよ……」
ユニちゃんの耳打ちに、「だろうね」と頷く。
だが私は謝らない。
「美しいと感じた相手に――セクハラしないとか失礼に当たるじゃない?」
「当たりませんよ! 妙な哲学を持たないでください!」
最初はおどおどしていた妹系キャラだと思っていたユニちゃんが段々ツッコミキャラになってきたわね……。
まあおふざけはこれくらいにしておこうかしら。
「と、いうわけでイケメンちゃん。アナタレベルいくつ?」
「何がどういうわけなの……四十だけど、それが何か?」
「あらお強い。じゃあこの辺一帯の敵は任せても大丈夫そうね」
「おや? 何処か行ってくれるのかい? それは有り難い」
やだ……イケメンに嫌われてるとか萌える……。
これはあれですね、少女漫画だと後々恋に発展するフラグだから大事にしていこう。
同性? イケメンに性別は関係ないってそれ一番言われてるから。
「い、いや皆で行動したほうがよくないですか? 折角だしパーティ組みましょうよ」
「嫌だね。こんなセクハラ女と組むなんて……おや? 君たちのパーティはもう一人居た気がするんだけど彼女は何処に? 愛想でも尽かされたかい?」
「あの子はこの町の惨状を見て家に帰ってゴロゴロしてるわ」
「成るほ……? …………っ!? いやどういうこと!?」
《怠神》の特性を知ってないと意味不明だろうね。
と、いい加減お喋りも終わりのようだ。
敵影が近くまで来ている。
この辺一帯はイケメンに任せるといっても、一発くらいセクシービームを撃ってから移動しないとね、と。
指を向けた私の視線の先に、今までとは一味も二味も違いそうな骸骨が佇んでいた。
『成る程――この世界の人間を甘く見ていたようだ。
ではこれより、魔王軍骸骨部隊隊長――《ヴァルデッド》様が相手をしてやろう』
指揮官、登場。
推奨討伐レベルは――《???》と表示されているんだけど、何これ?
*****
魔王軍骸骨部隊隊長《ヴァルデッド》。
そう名乗った骸骨は、通常の骸骨兵の二倍はありそうな体長と、将軍のような立派な鎧。
そして死者が使うものとは思えないほど切れ味が鋭い片刃剣を持った骸骨だった。
いや、そんなことより。
推奨討伐レベル《???》って何だ。
《?》が三つあるから、三桁?
いやいや普通の骸骨兵が推奨討伐レベル十五前後なのだ。
いきなり三桁なんてことが――。
『敵を前にして考え事とは余裕だな』
「――っ!?」
一瞬で、ヴァルデッドは私の目の前に迫ってきていた。
速い――やばい、私はセクシービームがチートなだけで基礎能力は低い方。
片刃剣が、私の首を刈るべく薙ぎ払われて――それをイケメンが防いだ。
「くっ……!」
『ほう……?』
「い、イケメンちゃん!? 私を助けてくれたの!?」
うっわー! マジで危なかった!
イケメンとのフラグが立ってなかったら死んでたわね!
「見るからにふざけてられる敵じゃないでしょう! いいから私が前で戦うから援護を頼むわ!」
「え、ええ! ユニは……下がってて!」
「は、はい!」
確かにいつものようにふざけている場合じゃなさそうだ。
大きく後ろに下がって、イケメンを巻き添えにしないように射角を調整してからセクシーポーズを取る。
右手は銃の形にして前に。
左手は頭の後ろに回して、腰はくねらせ瞳はウィンク。
「《セクシー☆ビーム》!」
『!?』
「!?」
桃色のビームが、ヴァルデッドに直撃した。
イケメンと鍔迫り合いしていた骸骨は、その場に留まることも叶わず吹き飛び、燃え盛る一軒家の壁に激突。
そしてその衝撃で、家が半壊した。
「…………!?」
そのあまりの威力に驚いたのか、イケメンが目と口をあんぐり開けてこちらを見ている。
いくらセクシーポーズを取っている私がセクシーすぎるからってそんな熱い視線を送られると、いくら私でも照れ……はしないな、濡れはするけど。
「な、何だそのふざけた威力のビームは……ていうか何だそのふざけたポーズは……」
「ふざけたポーズとは失礼な……これはセクシーポーズよ」
『ふははははは! 中々やるではないか!』
おっと、お喋りしている余裕は無いようだ。
崩れた家の屋根から、骸骨が飛び出した。
さすがはボスエネミー、セクシービーム一発では倒れないか。
「《セクシー☆ビーム》! 五連打!」
『おっと、そんな直線的な攻撃に当たる我輩ではない!』
「――ええっ!?」
今度は両手を銃の形にして撃ち出した五発のビーム。
しかしそれは、ジグザグな軌道を描いて走るヴァルデッドに一撃も当たらなかった。
初イベントのボスにしては強すぎませんかねぇ!
「《破砕剣》!」
『ぬっ?』
イケメンが剣を上空から振り下ろし、ヴァルデッドに目掛けて叩き付けた。
あれは確か、《剣神》のスキル《破砕剣》。
防御を無視してダメージを与えることが出来る剣技、だったかしら。
成る程あれならセクシービームでは倒しきれなかった骸骨にもダメージを与えることができるかもしれない――が。
そんなに簡単な相手じゃないようだ。
防御貫通系の攻撃であることを見抜いたのかどうかは分からないが、ヴァルデッドは骨の癖に俊敏な動きでイケメンのスキルをかわした。
「ちっ……!」
『こっちの坊主もそこそこやるみたいだな……! だが甘い!』
「坊主じゃないよっ!」
律儀にツッコミながら、イケメンは私の方にヴァルデッドが来れないように上手いこと前衛を務めてくれているようだった。
やだ……格好いい……。
抱きたい。
「……!? 何だか悪寒が……アンデッドのスキルか?」
『え? いや我輩何もしてないが』
「《愛の標的》!」
投げキッスで生み出したハートマークの物体を銃の形にした指に乗せて射出!
射出されたハートマークは、見事ヴァルデッドの額部分にヒットした。
説明しよう!
《愛の標的》とは、当たった相手を《セクシー☆ビーム》の攻撃対象に設定し、ビームを何処までも追いかけるホーミングビームに変えるスキルだ!
ハートマークの弾速が遅くてあんまし当たらないんだけど、何故か一瞬敵が動きを止めたおかげで当たってくれたようね。
「と、いうわけでもうこれで終わりよ……! 《セクシーぃぃぃぃぃぃ☆ビィィィィィィィッム》!」
『ふん! 何度やっても無駄だ! そんな直線的な攻撃が当たるわけ……ぐわぁああああああああ!?』
「《ビーム》! 《セクシー☆ビーム》! 《ビーム》《ビーム》《ビーム》! 《セクスィー☆ビィーム!》」
『ぐわっ! このっへぶっ!? やめ! やめん! か! があああああああ!?』
息が切れたので、深呼吸。
技名を叫ぶ声のセクシー度も威力に関係してくるところだから、手は抜けないのよ。
さて、最後の一発は、より一層セクシーに。
『い、いい加減に……!』
「――《セクシー☆ビーム》!」
極太のビームが、ヴァルデッドの身体を貫いた。
というか、射線上にあったもの全てを貫いた。
ちょっと気合を込めすぎたかもしれないけど、兎も角。
「勝った! 完全勝利ね!」
「フラグ! フラグ!」
「それフラグですよさっきゅんさん!」
ガッツポーズを決めてそう言うと、二人から非難轟々を受けた。
何を言ってるんだか。
私のセクシービームをこれでもかというくらい受けたのだ、あれだけ喰らって生きていられるモンスターなんてそうそういるわけが無いじゃない。
『――同胞よ』
声がした。
私のビームによって、身体が消失したヴァルデッドの頭骨から。
『我輩に……力を!』
「! 何だこれ……!?」
町中のあちこちから骨が蠢く深いな音が鳴り出した。
東西南北。
あらゆる方向から、スケルトンが磁石にくっつく砂鉄のように集まっていく――!
『――これこそが、我が真の姿』
それが出来上がるまで、数秒も要さなかった。
あっという間に骨は組みあがって形を成し、一つの塊となって顕現する。
『さあ、絶望しろ――!』
ヴァルデッドは、民家を三つ重ねたくらいの巨大な骸骨集合体となって再起動した。
ようやく判明した――推奨討伐レベル百。
無理ゲーだろふざけんなと私たちは叫んだ。