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プロローグ

よろしくお願いします。

「『さっきゅん』、今よ」

「おーるらい! 『マコ』!」


 暗い洞窟の中、後衛に立ちながら前衛で戦う相棒に指示を飛ばす。


 相棒――『さっきゅん』というHNの女性は、私の指示を聞いて完璧なタイミングでそのスキルを発動させた。


 ほぼビキニにも見える露出の多い扇情的な格好で、右手を銃の形に、左手はその大きな胸を強調するように下から持ち上げつつ右手に添えて、その桃色の髪の毛を靡かせながらさっきゅんはスキル名を叫ぶ。


「《セクシー☆ビーム》!」


 ショッキングピンク色の極太ビームが、彼女の指先から放たれた。

 彼女が《信仰》する《淫神》の加護によって与えられた、唯一の攻撃スキルだ。


 『自分のセクシー度に比例して威力の上がるビームを放つ』。


 そんなふざけた文面がスキル説明欄に書いてある、ネタスキルである。


 しかしセクシー度に比例して威力が上がるというのは本当のようで、女である私から見ても非常にセクシーな肢体を持つさっきゅんが使えばその威力は折り紙つきらしい。


『ぎゃぁあああああああああ!』


 一発で『ナーガ』と呼ばれる上半身が人、下半身が蛇のモンスターが悲鳴をあげて蒸発してしまった。

 《淫神》とかいうネタ神の加護をよくもまあ使いこなしているなぁ、と感心しながら私は頷き、踵を返す。


「うん、今ので討伐目標は最後。帰ろうさっきゅん」

「ぐっげ! お疲れ様マコ!」


 クエスト完了。

 という文字が目の前に浮かび上がり、今回のクエストリザルトが次いで表示された。


 ちなみにさっきゅんの言った『ぐっげ』とはおそらくグッドゲームの略である。


「いやーしかし流石は神様の作ったゲーム、発売から一ヶ月経ったというのにまだ底が見えないし面白いしで最高なんだけど一個だけ不満があるわねぇ」

「ん? 何、不満って」


 私の背後に立ち、そんなことをぬかすさっきゅん。

 嫌な予感がするけど一応訊いてやろう。


「このゲーム、全年齢向けだから全くエロいことが出来ないんだよね……触ってる感触が無い……」

「さよか」


 ――もみもみ、と。

 変態女に慎ましい胸を背後から揉まれながら、私は冷めた瞳でそう呟く。


 ちなみに触られている感触も無い。


「はぁ……」


 ため息を吐く我が相棒。

 ほぼ全人類がプレイしていると言っても過言ではないこの『神』ゲーは、当然子供もプレイしているので当然の措置と言えよう。


 さて、クエストリザルトの表示も終わった。

 拠点に帰るとしよう。


「あんまぐずぐずしてると置いてくわよ」

「あーん待ってよマコちゃーん♡」


 さっきまでため息を吐いてた姿は何処へやら。

 自分とはかけ離れた陽気なテンションで背中から抱きついてくる相棒をずりずり引きずりながら、私たちは拠点へと帰っていくのであった。





*****






「我らもゲーム作ってみたから、人間たちよ、ちょっと遊んでみてくれない?」


 西暦20XX。

 神様を名乗る上位存在が唐突に現れて早一ヶ月。


 彼らはこの世界にとあるゲームをもたらした。

 ゲーム。それもただのゲームではない。


 VRMMORPG――を越えたリアル体験。

 創作の中でしか見ることの出来なかった、ゲームの中に入るゲームという人類の夢。


 神の力が存分に注ぎ込まれたそのゲームは、現代にて爆発的なヒットを起こした。


 文字通りの『神』ゲーとして。

 世界中を震撼させたのだ。


 ……そして勿論、私こと『マコ』もどっぷりハマってしまった。


 仮想体験であるVRMMORPGと違い、食べたものは腹に溜まり水を飲めば喉は潤い、排泄も思いのまま。

 ログイン時間の制限だって無い。


 世界がもう一つ増えたようなものだ。

 故に現実を捨ててゲーム内に住む人たちだって大量に居たし、私とさっきゅんもまたその中の一人だったりする。




「いつも思うけど、よくまあ《淫神》の加護なんていうネタ加護を使いこなせるわね」

「フフフ……まあ私から溢れる女性の魅力ってやつと相性がいいのよね……」


 私とさっきゅんだけが所属しているギルド――【ふかふかベッド】のギルド拠点にて、二人カップの乗ったテーブルを挟んで雑談中である。

 え? ギルド名? これはギルド名を決める時に私の好きなものの名前をギルド名にしようとさっきゅんが提案したからその通りにしただけだ。


 ちなみにギルド拠点はログハウスのような内装で、二人だけの拠点ということでそんなに広くは無いが一般家庭に必須な設備は揃っているし、

 ゲームシステム的に必要な要素もちゃんと揃っているから便利な施設ということで重宝している。


「ていうか、マコの《怠神(なまけがみ)》も大概じゃない。寄生プレイヤーご用達ってネットの評価散々以下の散々よ?」

「うんまあ私もこんな加護使うより他の方が強いと思うけど――」


 カップに手を伸ばして、冷ますようにふーふーと息を吹きかける。

 そうして一口お茶を飲んで、まだ熱かったのでカップを戻した。


「ほら、えっと、なんというか《改宗》するのがめんどい」

「《改宗屋》行ってNPCに話しかけるだけなんだよなぁ」

「いやでも、もう結構レベル上がっちゃったし」


 《信仰》する『神』を変えると、レベルがリセットされてしまうのだ。

 それは困る。非常に困る。だってめんどうくさい。


 ちなみに私とさっきゅん、両方ともレベルは二十ジャスト。

 現実世界を捨ててこのゲーム世界に居を移した――《移住組》の中では中の下といったところだ。


「レベルリセットしちゃうと、またレベル上げるまでさっきゅんと一緒にクエスト行き辛いしね」

「……マコちゃんがデレた!」

「デレてない」


 テーブルから身体を乗り出して抱きつこうとしてくるさっきゅんから身をかわすことすらせずに(めんどいから)、私は無表情のまま突き放すように言う。


 しかしさっきゅんは都合の悪い言葉が聞こえない耳をしているらしいので、「これはもう結婚するしかないね♡」とか耳元で囁いてきている。


 くすぐったいのでやめて欲しい。


「結婚は面倒だからしないよ」

「面倒じゃなかったらしてくるの? なら手続きとか諸々私がしておいてあげるけど」

「全年齢向け世界だからえっちなこと出来ないけどいいの?」

「がっでむ! そうだった!」


 器用にテーブル越しに私をハグしていたさっきゅんが、頭を両手で抱えて大きくのけぞるというオーバーリアクションをしながらこれまた器用に自分の席へと戻った。


 と思ったら、席を立ち上がってテーブルを回り込み、私の隣まで歩み寄って、


 唐突に私の服を捲りあげた。


「はぁ……ほんと全年齢向けってところだけが不満よねぇ……」

「……やめてよ冷えるじゃない」


 勿論下着を着けているが、それすらもこの世界では非健全的という判定のようで、


 謎の光が、私の慎ましい胸を覆い隠している。

 ……いや隠されているからって人の服を勝手に捲りあげるなと言いたいけれど……まあ慣れてるし言っても聞かないし面倒だから言わないけど。


「神様、十八禁版を作ってくれないかしら」

「作ってくれたとしても、私は全年齢版で頑張るからお別れね」

「わっつ!? 何でよ私と一緒に爛れた生活を送りましょうよ!」

「いやほら、私十六歳だし。十八禁ゲームなんて出来ないし」


 そろそろ熱くなくなったお茶を飲みつつ、そう答える。


 例え十八歳以上用のゲームを神様が作ってくれたところで私はそちらに移住できないのだ。


 …………あれ? ていうかさっきゅんって何歳なんだろう。

 そう思って面倒だと思いながら訊いてみた。


 女性に歳を訊くなんて、とか色々言われるかもと思ったが、わりとあっさりとさっきゅんはその淫靡な唇を開く。


「え? 十五歳だけど?」


 尚更ダメじゃねえか。

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