研究
完全に主人公だけでやってます。
おっさんから色々素材を買い取って溜まってきたので今日は一気に研究を進めることにする。
先ずは魔法について復習しよう。
前世では勉強の復習などでは全くと言っていいほどやって無かったが、新しい身体を得た事でヤル気が溢れ出てくるようだ。
出来る奴ってのは皆こんな感覚なのかも知れない。
少し思考がズレたが気を取り直していこう。
そもそも魔法とは魔力を現象へと変換する技術だ。
空気中に漂う魔素を身体の中(正確には血液中)に取り込んで、身体の中で精製しているのだ。
一般的に魔法を使うには呪文を唱える必要があるらしいが、魔法はともかくイメージが必要なのであって、言霊や呪文のような物は一切必要では無い。
そしてイメージの上で脳内の演算領域で魔力量や制御をする。
呪文はその魔法のイメージをしやすいからこそしているのだ。
呪文無しでイメージが出来るのならば呪文は必要が無い。
むしろ戦いの時などに、『我は望む。赤く燃える灼熱の炎で敵を焼け!』なんて言ってたら、火系統の魔法だと分かる上に相手に準備する時間を与える事になる。
そもそもそんな厨二病みたいな発言は恥ずかしくて悶絶しそうだ。
それこそ銃のような物が生み出されていたら、詠唱している間に頭を撃ち抜かれる。
なので国の騎士や魔法師は無詠唱を出来るように日常的に訓練している。
強大な魔法を使うときに魔法師は魔法陣のような物を触媒に使っているが、その一方で騎士は身体の中で魔力を活性化させて、筋力を上げたり、魔力を武器に纏わせたりする身体強化とかもあったりする。
俺が研究しているのは主に魔獣だ。
先程も言ったが、強大な魔法を使うためには触媒を使うが、使わなければイメージが多過ぎて脳が処理する内容が増えてオーバーヒートしてしまう。
しかし魔獣は身体自体が触媒で、魔境と呼ばれる場所に生息する魔獣は人間が触媒を用いても使えないような魔法を使うと言う。
俺はそれを人間でも出来るように日々研鑽を重ねているのだった。
‥‥‥本当はただの趣味だが。
ボンッ
試験管っぽい物の中に入った液体が煙を立てて小さく爆発した。
「んー、やっぱり違う生物の血液を混ざり合わせたりすると質の違う魔力同士が反発し合うな。
それに何かしら衝撃を与えただけでこうなるのか。」
試験管に残った液体を容器でそっとすくい、匂いや感触を確かめる。
「魔力が消えてるな。魔獣は他の魔獣を仕留めて貪り食ってるわけだから唾液、口、食道、胃のどれかが魔力に何かしらの変化を与えているのだろう。」
2週間程前に仕留めた虎の唾液のサンプルを冷蔵庫から取り出して、猪の血液と混ぜる。
今度は爆発も起こらないで普通に混ざり合った。
「唾液にも魔力がこもってる筈なんだけどね。
ん?何て言うか魔力の構成がユルユルだな。
それに何だか分からない物質があるな。」
魔力を知覚すると魔素同士の間隔が大きく開いていて、その原因が恐らく今知覚したよく分からない物質だろう。
「もしかしてこれが魔力の反発を中和したりする仕組みなのかな?」
水と油に卵を入れると混ざり合ってマヨネーズになるみたいなことか。と納得する。
そしてその物質を魔法で抽出して試験管に入れる。
その液体を猪の血が入った試験管に入れて、少し離れた場所で魔法で虎の血液を混ぜる。
すると今度は爆発せずに上手く混ざり合った。
「おっ!やっぱり上手く行ったな。
魔力の質は多少変質しているけど虎の方に酷似しているな。」
やはり虎の唾液を入れると虎の魔力と混ざり合い、8割が栄養素に細胞に吸収されて残り2割は上手く魔力同士が結びつき、少し魔力の質と量を増やした。
その逆、猪と虎の血を混ぜた液体に猪の唾液から抽出した物質を入れてみると今度は何故か栄養素には3割程度しかならず、あとの7割のうち半分は空気中に放出され、半分は魔力と結びついたが、虎のように質と量が上がるのではなく、猪の魔力の原型を残しながら虎の魔力と似た質になった。
長く生きた魔物や、格上ばかりの環境で生き延びた魔物が既存の強さより上位の力を持っているのはこのせいだろう。
そして魔力は恐らく、酸素などの元素を生み出すか、周囲から収束する特性があり、その中で水と土は操作をしやすく、火と風は威力に長けている。
そして、そうして生み出された物質はその属性の特性を備えたまま質量を持つと推測される。
ファイアーランス等で城壁を破壊したり出来るのはそのためだろう。
この特性を使えば、空気を刀の形に固めて見えない剣とか即興で創れそうだ。
そんな想いを抱きつつ、魔法を実践してみる事にした。
そんな訳で森にやって来た。
まず簡単に空気の玉を打ち出してみる。
俺がイメージするのは某忍者漫画の乱回転する術だ。
普通の魔術師がエアバレットを使うのにイメージするのは、ただの空気の塊を飛ばすということだけで、空気砲みたいなものだった。
そのイメージの違いだけでも威力に数倍の差がある。
優れた魔術師とは世間一般では空気の量をどれだけ多く一つのイメージにつぎ込めるか、というところらしい。
幸い、俺が魔法を習った先生はその考え方に批判的だったので、一般常識に囚われずに済んだ。
それはともかく、打ち出した乱回転する空気の玉は木を3本程貫通して霧散した。
昔、アニメや漫画を読み込んでいたので、その手のイメージは簡単であったが、一度発動させると更にイメージが固まり、同程度の威力であれば簡単に出せるようになった感覚があった。
「でもこれだと威力を上げるためのイメージに苦労しそうだな‥‥‥。魔術師団の訓練は反復練習だから威力を上げるのに今まで培って来た感覚を変える必要がありそうだ。」
わざわざ口に出して考えを纏める。
魔法は通常の魔法と意味のある文字を物に付与する事の出来る付与魔法の2つが知られている。
コチラはイメージも関係なく、文字を覚えなければいけないので勉強の最中だが、正直言ってあまり得意では無い。
その付与魔法が掛かっている剣を軽く振って、感触を確かめて本気で折れた木に振り下ろす。
スパッと抵抗も無く大木が輪切りにされる。
身体能力向上の魔法を発動させて、脚で蹴り上げて何年も修練してきたお馴染みの剣技を使う。
「クロス・ストライク!」
すると綺麗に丸太は4等分に斬り裂かれた。
それを見て満足そうに笑う。
「よし!絶好調っ!これで準備完了だ!」
今日相手にするのは前にオッサンが持ってきてくれた魔獣には劣るが、危険な相手だ。
ミアとも危険な事は極力しないと約束しているから、危なくなる可能性は減らしておく必要がある。
準備運動は念入りにしておくのは、当たり前だ。
最後に装備を確認して、森の奥へと入って行った。
すると直ぐに獣が一匹いた。
いや、正確に言えば手負いの猪が身体を休めていた。
しかし、手負いの獣が危険な事はよく言われるので、木の上に登って距離を取る。
「あれを試すか。」
鞄から特製のピックを取り出して指で挟む。
猪が油断したところを狙って、高速でピックを放つ。
当たったピックは注射器のように、身体に薬を注入した。
「ごヴォ?おおヴォ!?」
ウェ、グロい。
当たった途端に体中から煙が出てきて、鈍い悲鳴のような鳴き声と共に吐瀉物を吐き出して、絶命した。
それどころか吐いた吐瀉物が土を溶かして浅い落とし穴のようになっているくらいだ。
仕込んだ薬は裏の商店街で偶然見つけた火竜の血液だった。
それは血液自体が高熱を持っていて、猪の血管に入り込んだせいで、身体中の血液が沸騰して死に至った。
火竜の血は火で熱して温度を上げておいた。
「血液は血液でも多分根本から造りが違うんだろうね。
液体をここまで温度上げても沸騰しない上に、俺が持ってるカバンみたいに時間が止まってるわけでもないのに冷めたりしないし。」
血液自体に発熱する機能があるのか、周囲から熱を奪っているのか、或いはそれ以外。
そう考えていると肉を焼いたような良い匂いが漂っていることに気付いた。
「あれ?香ばしい匂いがするな?」
よく見るとさっき死んだ猪の身体から匂いがしていた。
こんな香ばしい匂いをさせていたら、周りから獣も魔獣も問わず近づいて来てしまう。
早々にカバンに仕舞って、服に染み付いた匂いを魔法で消して、再び森に向かって飛び込んだ。
オーガの筋肉
(耐久性、俊敏性、柔軟性、現在所持している中で最高の品)
竜の鱗
(魔力の籠もった丈夫な竜の皮膚が長い年月を掛けて薄く何百層にも重なった物。)