買い取り
父親(王様)が本格的な思考に没頭し始めたので、さっさと家に帰った。
「ただいま。」
「あ、おかえりなさいませ。リオル様。
どうやらお父上様に呼び出されていた様ですが、その様子からするともう行ってしまわれた様ですね。」
俺が生まれてからずっと面倒を見ていたミアは、少し見ただけで俺の体調、心境、どういう行動をしてきたのかと言うことが分かる。
因みにあの性癖はまだ治ってないらしく、俺の衣服や使った食器等を匂いを嗅いだり、抱き締めたりと、他の人が分からないように巧妙に隠れながらやっているようだ。
「ああ、ちゃんと行ってきたよ。少し気になる事を言われたけど概ね問題ない。」
「そうでしたか。それで今日の獲物はどうされました?」
「はい、ラージベアだよ。」
そう言って、ズボボボッという音を立てながら袋から綺麗に小分けされた肉を取り出した。
「お、大きいですね。こんなのがいつもの狩場にいたんですか?」
「いつもより少し奥‥‥‥かな?最近よく魔獣が取れるんだよね。強いのも増えて来てるみたいだし。」
直後、ピクリとミアの耳が動く、これは怒るときの前兆だ。
いそいそと取り出した肉を魔力で直接浮かせて動かす。
これは昔から続けている鍛錬で今更何か言われたりしない。
暮らし始めた直後は俺が国の外に行くのさえ今にも泣き出しそうな顔で見ていたと言うのに。
「‥‥‥リオル様。」
「っ!はいぃっ!」
背筋が氷を当てられたかのようにゾゾっとし、ビクッと身体が跳ねる。
「私と約束しましたよね?リオル様?外に行く時は私にちゃんと言いましたよね?20キロ以上離れない、危険な魔獣と遭遇した時は直ぐに逃げる。
これを守ると‥‥‥。」
「いや、ミア。これにはある深い訳が‥‥‥。」
「言い訳しないで下さい!」
「は、はいっ!」
この後、数時間こってりと説教を受けた。
大人でも怖れる魔獣の威圧でも動じない俺がミアだけには逆らえないのだ。
「ふいぃ〜酷い目にあった。」
自分用の部屋に戻ってベットに飛び込む。
俺の部屋は取ってきた獲物の牙、骨、眼球、血液サンプル、等が机の上に置いてある。
「錬金術って程でもないけど、こういう物を適当に混ぜてみるって面白いんだよな〜。」
前世での好きになったらトコトンやる性格が今世でも受け継がれていて、昔はアニメ、今は錬金術。
時々、王宮で研究している魔法の師匠に錬金のレシピ、やり方を教えてもらっている。
この世界は、娯楽が少なく、没頭出来る物が少なかった。
その末に行き着いたのが、何かを作る、創る、造る事だ。
昔見たアニメのガ○ダムのような巨大兵器や、ポーションの様な回復薬(エリクサー等)、現代に存在するが見ることは無いであろう銃火器類、身体能力向上や状態異常耐性の能力が付いたアクセサリー等!を自らの手で再現すると思うと自然とヤル気に満ち溢れてくる。
記憶したレシピに沿って材料を混ぜ合わせ、加熱したり、冷やしたり、圧力を加えたりする。
やり方は何故か何となく分かるのだ。
まあ今更ファンタジー世界に疑問を持っても仕方が無いと考える。
「えっと‥‥‥イビルスネークの眼球と牙、ドリルビーの針、痺れ草を併せて【錬金】!」
イビルスネークは強力な麻痺毒と邪眼を持つ蛇で、体長5メートルのA級指定魔獣で、ドリルビーと痺れ草も麻痺の能力を持つ生物の一部である。
それ等を錬金によって能力を抽出すればどうなるかお分かりだろう。
「お〜結構上級の麻痺毒っぽいのが出来たわ。」
プカプカと浮かぶ黄色がかった水は、色も艶も魔力の質もどれも一級品と言っても差し支えない物だった。
その毒を近くに転がっていた小瓶に入れて、冷蔵庫に保管する。
因みに冷蔵庫はただの箱に魔術で冷気を閉じ込めているだけの物だ。
「リオル様〜?何をしていらっしゃるのですか?」
小瓶を冷蔵庫にしまったところで、ミアが様子を見に来た。
ババッと冷蔵庫から離れ、魔獣の素材を乱雑に隠す。
「ちょっ!ちょっと待ってっ!」
ガチャッと扉が開かれて、怪訝な顔を見せながらミアが周りを見回す。
ベットに座った俺を見て、破顔する。
そして慌てて表情を取り繕いながら話しかけてきた。
「あの、冒険者の方々が珍しい魔獣を持って来たと別邸に来ております。」
「え?分かった。すぐ行くから。」
ベットから立ち上がりバタバタと急いで別邸に行く。
別邸とは俺が狩った魔獣の素材をチマチマと売って空き家になっていた隣の古屋を買収して改修した店だ。
俺が作ったポーションやアイテムを売ったり、素材を買いとったりしている。
今来ている冒険者はお得意様だ。
「お待たせ!いらっしゃいませー!」
「お!来たか坊主!今日は結構奥まで行ってきたんだぜ!
デケえ鶏みたいな魔獣だったが火魔法で攻撃すると怯むから、その隙をついて俺が首を切り落としてやったぜ!」
意気揚々と話して来たこの冒険者はAランク冒険者パーティー王者の剣のリーダーであるディールである。
彼はAランク冒険者であるがもう少ししたらSランクに昇格すると言われていて、この国の中でも十指に入る実力者だ。
Sランクはこの国には未だ4人、この世界中でも100人もいない。
「おっさん‥‥‥その年ではっちゃけるのはチョット‥‥‥辞めておいた方が良いと思うよ?
まぁ素材を持ってきてくれたら文句無いけど。」
「ハハッ、坊主は相変わらずの口調だな。最初俺と会った時はもっと丁寧な口調だったろうに!」
ディールは豪快に笑うと屋敷の庭に魔獣の素材を出した。
ちゃんと解体されていて、分かりやすい。
流石は上級冒険者。
「え〜と、こりゃコカトリスって言う魔物だな。
討伐難度がAだな。」
俺は魔獣種大図鑑と言う本をパラパラとめくって調べる。
図鑑にはどの部位がどういう物の材料に使われたりするのかが書いてあり、すごく便利だ。
討伐難度Aは全員Aランク冒険者パーティーがいて倒せるレベルだ。
たしかおっさんのパーティーには経験を積ませる為に2人ほどBランクが入っていた筈だ。
パッと見何処にでもいる気の良いオッサンだが流石だ。
「じゃあ羽を‥‥‥そうだな、200枚程と眼球、血液、それと胃袋を買い取るよ。
リリー!!これ全部だと冒険者ギルドでは幾らになる?」
呼ぶと部屋の奥からピシッとメイド服を着こなした女性が出てきた。
彼女は外見こそ2、30歳だが、実際は50歳を越えているらしい。
昔、冒険者ギルドの受付をやっていたらしく、素材の価値は大抵分かるので買い取りの時に必須の人材だ。
「そうですね‥‥‥。羽は羽毛布団の材料で人気なので金貨80枚、眼球は石化の呪いが掛かっていますから解呪する作業分を差し引いて金貨20枚、血液は魔力がたっぷり入っているので上級ポーションの材料になるので金貨50枚、胃袋は一般的には大した価値は無いですが金持ちの好事家ならば買い取ってくれるでしょう。金貨10枚ですね。
合計で160枚ですね。」
結構するけど石化の呪いは数ある呪いの中でも上位に位置する。
研究のしがいがありそうだ。
「よし!おっさんのパーティーは6人だから区切り良く180枚で!」
「お!やっぱ太っ腹だなぁ坊主!全くどこからそんな金捻り出してきてんだか?」
この国の税金です。
それと実験の過程で仕留めた獲物を売った額です。
何か買う度に一瞬で吹き飛ぶけどね。
「それは言えないかな?おっさんも得体の知れない金掴ませる不安もあるかもだけど、ここは信用してくれとしか言いようが無い。」
多くの人が冒険者ギルドに素材を卸すのは単に信頼があるからだ。
信頼が無いと騙されて、偽物の金や情報を掴まされて、酷い時は借金を負わされて奴隷にされたりする。
俺の場合、顔が広いリリーの保証と鑑定書があったからだ。
「リリーさんの保証を疑う奴なんざ世話になったベテランにはいねぇよ!」
おっさんが愉快そうにガハハと笑う。
リリーが昔築き上げた信頼は俺が思っているより大きいらしい。
実年齢は知らないが長く生きているだけある。
もしかしたら俺の正体も薄々感づいているかもしれないという怖さもある。
「んじゃこれからも頼むよおっさん!」
「おう!任せとけ坊主!」
これで更に研究が進む。
おっさんにはもっと良いものを持ってきてくれるのを期待しよう!
そう考えながら、おっさんに手を振って見送った。