護衛やら、婚約者やら、報告やら
俺は一旦そこから離れた。
「ふうぅ、面倒だな。心配だけど‥‥‥。」
人目がなくなった場所でそう独り言ちた。
勿論索敵をしている。
貴族みたいな奴等は基本的に面倒なのが多い。
出来ることならあまり関わりたくない。
まあ俺は貴族より上位の王族な訳ですけど。
それでも生まれつき、見ず知らずの他人の心配をしてしまう。
それを自分の長所であり、短所だと思っている。
「まあ、今更何を言っても変わらないか。俺は楽しければ良い!だからな。」
無駄に早い、切り替えの早さはこう言う時は自分でも便利だ‥‥‥と感じながらも馬車の方に戻った。
ちゃっかりボアを気付かれないように回収している。
「今戻りました。」
騎士の一人‥‥‥ではなくメアリさんが何故かこっちにやって来た。
「私は皆さんに守ってもらっていますから、貴方はルミアの方の護衛をお願いするわ。
それで何が出てくるか、とかを彼に言ってくれれば良いから。」
そう言って宣言した通り、騎士が周りに控えている。
俺は言われた通りに彼女の元に行き、少し後ろに立った。
するとルミアが俺の服と手を掴みながら「怖い。痛いのやだ。お母さん。」と呟き、周りの騎士もどうすれば良いのか迷っているようだ。
「‥‥‥全く。しょうがないな。」
俺はルミアの手をしっかり握った。
子供は温かいと自然とリラックスして、緊張も解ける。多分。
すると、多少は安心したようで、手を握る力が緩くなった。
「それじゃ案内します。ここらは最近、リトルボアが多くなって、それを狩る為に狼系の魔獣が増えてきています。気をつけてください。」
そう言ってゆっくりと先頭を歩き始めた。
手を引かれて、ルミアもゆっくり歩き始め、他の兵達も俺に続いて歩き始めた。
歩いてる途中、急にルミアが話し掛けてきた。
「ねぇ、貴方は‥‥‥えっと名前なんだった?」
「リオだよ。」
「そう、リオ君は怖くないの?」
一体、いきなり何なんだ?と思ったが直ぐに口には出さず少し考えて答えた。
「魔獣の事か?それだったらもう馴れたよ。俺がある目的のために鍛える一環で殺しに馴れるってのがあったしな。
何より、魔獣は害悪なのが多いし、魔獣を狩れば狩るほど国が潤う。」
「そうなんだ。リオ君は「っ!少し前からウルフが来ます!警戒してください!」」
メアリが全て言い終わる前に、魔獣の気配を掴んだ俺が叫んだ。
「何!?しかし我等には分からないが‥‥‥。」
どうやら兵達は気配を掴むのが苦手みたいだ。
「リーダー、子供の言うことだ。
どうせ、適当なことを言ってこれで仕事しようとしただけですよ。」
目の端がつり上がった狐みたいな印象を受ける男が軽薄そうな言葉で否定する。
その途端に森の奥からトップスピードで突っ込んできたウルフに飛びつかれた。
「うわあああぁぁぁっっ!??!」
つり目や男がウルフに押し倒されて喉笛を噛み切られる‥‥‥というところで横で警戒していた兵士がウルフを蹴飛ばした。
「グルアァァッ!」
呻き声らしき声を上げて横に転がる。
「大丈夫か!?」
そう言いながら無理矢理立たせている。
結構容赦ない‥‥‥言葉と行動が一致してない。
「まだまだ来ますよ!」
俺がそう言った途端に木々の間から何匹もウルフが飛び掛かる。
ウルフ種は地球の狼と一緒で群れで動くので一匹いるなら、独り立ちの時期とかでない限り、確実に10匹はいる。
「クソッ!全員気合いいれろ!メアリ様とルミア様を守るぞ!」
各々が剣を手に取り、ウルフを相手どる。
その光景を横目に見ながら、気配は更に50以上の気配を捉えていた。
『これは、おかしいな?最近、魔獣の数が増えてきている。』
魔獣の数に不信感を募らせながら、撫でるように首筋にナイフを当てて殺していく。
『そろそろ片付けるか。面倒になってきたし。』
そう決めると、全身に魔力を巡らせ、身体強化の魔法を掛けた。
魔力を巡らせるのは、東の国では気と呼ばれていて、身体強化と同じことが出来る。
重ね掛けした俺の肉体はいくつかの残像を生み出しながら的確に喉笛を切り、絶命させた。
一瞬の出来事に兵士達はポカンと口を開けたまま、ほおけていた。
「はい!終わりましたのでさっさと行きましょう!」
「あ、ああ。そうだな‥‥‥。」
疑問が大きくて処理できないといった状況だったが、まだ何かあるかもしれないし、血の臭いが漂うここにいると危険だと考えるくらいの思考力は残していたようで、直ぐに了承した。
「す、すごい!リオ君はすごいね!」
「そうですね。ひ‥‥ルミア様。」
ひ?何を言おうとしたんだ?
「失礼だが何処でそれほどの体術を?
あの速度なら私も出せますがコントロールが難しいので実戦では使えないのです。
それをその年で物にするとは、末恐ろしい才能ですね。」
おお、そうだったのか。
あのつまらないだけの苦しい訓練が活きたのだろう。
「貴方!私の家に支えなさい!厚待遇で迎えてあげるわよ?」
「え?いえ。大丈夫です。」
「何故?家族が大事なら家族ごとイルタニアに移ってくれば良いわ!
勿論家族も厚待遇で迎えてあげる。
どう?考えてみない?」
「メアリ様。落ち着いてください。
リオ殿が困っております。」
俺は一応、王族ってことになってるからこの国を離れるのはさすがに不味い。
帰ったら魔獣の不自然な増加を相談と少しこの人達から匿って貰おう。
メアリさんのすごい(ヤバイ)剣幕を見てそう思ったのだった。
都市に戻って、いつも通り門番に声を掛けられた。
「リオ君。その方々は?」
「この方々はボアに襲われている所を見掛けて助太刀した縁で案内したんですよ。」
(ちなみに見て分かる通り貴族ですよ。
丁寧に対応してくださいね。)
ちゃんとフォローも忘れない。
「貴族様。よくぞこの国へとお越しくださいました。‥‥‥―――‥‥‥‥――。」
「‥‥‥‥!?――――!!―‥‥‥。」
何か話をして、門番が顔を真っ青にして何処かに走り出していく。
意識していなかったので何を話していたか聞いていなかった。
「えっと、あれどうしたんですか?」
近くにいた兵士に話し掛ける。
「まあ、気にしない方が良い。いや、知らない方が良いと思うぞ。」
兵士は言葉をそう濁してそっぽを向いた。
何か知らないがこの国に危害を加えなかったら、大丈夫か。
そう楽観的に考えた。
「それでは、俺は少し用事があるので。
用事が無ければこの国を案内しても良かったのですが。
それでは縁があればまた。」
「ありがとね。リオ君。
さっきの話し、考えておいてね?あの子もあなたの事を気に入ったみたいだから。」
メアリさんから熱心な勧誘を受けて、リオルは早急に王城に向かった。
全速力と言うことで屋根の上や屋敷の影に上手く隠れながら走った。
そして、基本的に使われない通路を通って城に入った。
門番に見つかりもしていない。
普通は駄目だが、多くの人にとってここは王城だが、俺にとっては実家みたいなものなのだ。
家に帰るのにわざわざ知らせる必要も無い‥‥‥と言うか報告したらすぐ帰るつもりであった。
なので報告した前、言われた事は少々不意を突かれた形になった。
「父上、少し報告した―――」
「リオル。」
「?どうしたのですか父上。何か悩みですか?」
俺がそう尋ねると、少し申し訳なさそうな顔をしながら口を開く。
「実はな、お前に婚約者が出来ることとなった。」
「‥‥‥え?」
疑問に思いながらも少し考える。
俺は王族の次男坊、王族は血族が後継ぎになる、よって身分が高い貴族等の婚約者を据える必要がある。
そして次男なので長男が不慮の事故や病気で亡くなった時は俺が王位継承権第1位になる。
俺の場合は今、王城の外で暮らしているような放浪癖があるから、婚約者を利用してこの国を出ていかせないようにすると言った手も考えられる。
結論としては、この国にとって本人の感情無視したら良いことしかない。
俺?実感湧かないし、本当に嫌だったら何処かに逃げるだけだしね。
「‥‥‥驚かないのだな。」
「‥‥‥いや、驚いてはいますが、それがどうなるかは後何年か経たないとわかりませんし、何よりも婚約者とやらに会ってもいないのですから。」
そもそも、王族に婚約者がいるとか、前世のラノベ知識を持つ俺にとっては、よくあることだと認識している。
流石にこの年齢でそうなるとは思ってもいなかったが。
「そうか‥‥‥急で悪いが明日、お前の婚約者がここに来る。
対面する予定なのは3日後だが、会う覚悟を決めておいた方がいいと思ったから今日はこの場で話したのだ。」
「そうですか。分かりました。心構えはしておきます。
それでですが父上、少し報告したいことがあるのですが。」
すると急に父の顔が引き締まって真面目な顔になった。
「聞こう。」
王に相応しいと思わせる、威厳の籠った声だ。
この態度が出ているときは親子ではなく、王と王子として接する時だ。
なので口調も改める。
「はっ!今日、少しばかり外に行ったのですが、ラージボアの群れに遭遇いたしました。」
父の眉が少しピクリと動いた。
「最近、魔獣の動きが活発になっていて、本来、群れるはずの無い魔獣までもが集団になっているようです。」
一旦言葉を切る。
「そうか。それは冒険者ギルドから報告が入っていたな。」
どうやら一応、父の元にも情報がいっていたようである。
「そして基本的に冒険者が行かないような奥に行ったことがあるのですが‥‥‥。」
「何!?奥地に行っただと!?」
父がいきなり強い反応する。そして直ぐに呆れたように溜め息を出して座る。
それを見て、多少はにかみながら話す。
「え、ええ‥‥‥。それでですが、そこは魔物が入ってきていました。」
魔獣と魔物の違いは、獣型か、二足歩行で人間のように武器を使うかと言った違いだ。
因みに奥にいたのは典型的なゴブリンとオークだった。
「魔物か‥‥‥。最近、森から出てこない筈の魔獣まで出てきているのは、弱くて魔物共に棲みかを奪われたからか‥‥‥もしくは――――」
父が色々な報告を脳内で合わせて推測をしているようだ。
ぶつぶつと独り言を言いながら思考にふけっている。
こうなると、他のことが全く気にならなくなる。
だから俺は気付かれないように、と言うか邪魔にならないようにこそこそと家に戻った。