皇子と婚約者の日常 下
更新が大幅に遅れました。
お詫びに毎日投稿します(無理)
決闘が終わって観客の熱が冷めると、次は違う意味で観客達は一喜一憂していた。
そう賭けの結果だ。
オッズはウェイン1.2でデイル1.5倍でウェイン優勢だったので、観客の予想通りの結果になったと言えるだろう。
そんな話題の二人は流石に疲れたのか、ウェインは刀を手に持ちながら身体を地面に投げ出し、デイルは行儀良く座りながら水分補給と汗を拭っていた。
「よっ、とぉ〜俺との約束は覚えてるかな?」
「ん?ああ、もちろんだぜ。依頼者様よぉ。」
「ええ。貴方との決闘を謹んで受けさせて頂きますよ。」
彼等は各々な反応で肯定してくれた。ので、一先ず俺達以外の観客を全員追い出す。
観客からも貸し出し料をほんの少しだけ金を貰っていて、総額では貸切料の1/3あたりの金額を回収出来ているが、それでも貸す条件は二人との試合だ。
「それじゃあもう全員いなくなったから、始めても良いかな?」
「は?」「え?」
瞬間移動でもしたように懐に入られた二人は俺が放ったただの掌底で数メートル先まで吹き飛んだ。
しかしダメージは無いように打ったので、顔には羞恥とそれに伴う怒りの表情があった。
「さぁて、ルミアが求めてるのは魔法の実演だから魔法のみで戦わせてもらう。」
二人を無視してファイアーランスを複数空に待機させる。
それ自体になんの意味の無い演出だが、ルミアが見ている今は勝ち負けより演出の方が大切なのだ。
ファイアーランスがクルクルと回転始める。
音がキィィッと甲高くなるまで回転数を高めると、そのまま一斉に放った。
「【黄金の獅子盾】」
「堅芯流 守の型 見幽!」
破壊力と速度を増したファイアーランスをウェインは地面から迫り上がってきた金色の獅子の文様が象られた盾で防ぎ、デイルは特殊な歩法なのかユラユラと頼りない足取りなのに全てを見切って避けている。
「続けていくぞ!!【砂鎖鉄塵】【水流嚥蛇】」
地面が揺れると、砂が舞い上がりウェインに纏わりつく。
ウェインは何か危険なものを感じ取って、一直線に後退して砂の網から逃げようとするが、訓練場の壁まで追い詰められて、何かをする暇も無くやけにあっさり捕まった。
デイルの方は蛇のようにうねる巨大な水流を風魔法で牽制しながら術者である俺を狙おうとしている。
絶妙に俺の魔法が間に合わないタイミングで、デイルは猛スピードで一直線に駆けてきた。
それを追いかける魔法は巨大な大蛇から無数の蛇に分かれると、格段に上がったスピードでデイルの四肢に巻き付いて捕らえた。
「はっ!!油断したな。くらえや!!」
ウェインが鎖に繋がれた腕を上げると、風でできた巨大な塊が一気に俺に向かって飛んでくる。
「【波状避雷】!!」
俺を中心にドーム上に広がった電気は、風の攻撃を打ち消すと同時に導火線のように垂れていた砂鎖鉄塵と水流嚥蛇に触れる。
鉄をたっぷり含んだ砂と、不純物たっぷりの水だ。
電気を通さない訳がない。
「のああぁぁっっ!!??」
「ぐうぅぅ!?な、何が?」
防御と同時に攻撃をする。
この方法だと全身鎧の相手でも、効率的にダメージを与えられるから結構愛用している戦術だ。
仕事が疲れたなどと言いだして自室までの通路に罠を仕掛けまくった馬鹿な師を起こすのに丁度良いから、いつの間にか1番練習したファイアーランスに次ぐ得意魔法になっていた。
「【肉体耐性】」
「【憑鬼】」
どちらも何かしらの手段で肉体を強化して無理矢理拘束を振り払ったようだ。
このままでは埒が明かないと感じたようだ。
しかし一度身体を流れた電気は肉体強化をしていようと関係なく、動きを鈍らせる。
だからこそ慌てずに対処出来る。
「【六色】」
右手の指に親指から順に赤、青、緑、黄、金の小さい光球が灯り、掌に一際大きい黒い光球が灯っていた。
それを警戒しながらも速度を落とさずにコチラに迫ってくる。
警戒して距離をとるよりも先に俺を倒したほうが良いと考えたようだ。
【六色・闇】
掌に在る黒い光球がドロリとした液体に変わると同時に手を握る。
ビチャビチャと黒い地面に落ちると、俺は手に残った液体を二人へと手を振って飛ばす。
しかし適当に飛ばした水滴が、少なくともB級以上まで登りつめた実力者に当たるはずが無い。
ヒョイヒョイと軽やかに躱され、子供の俺にも容赦無く剣を振り下ろして‥‥‥顔の数ミリ前でピタッと止まった。
「ふぅ、間に合った〜。」
魔法の制御に意識を割きすぎて避ける暇が無かった。
あと一瞬遅れてたら剣でぶった斬られるところだった。
でもこれでなんとか絶対に負けない上に、魔法の有用さと面白さをルミアにも分かってもらえただろう。
「グッ!?身体が!?」
「おらあああぁっ!!」
無理矢理身体を前に動かそうとするも、空中に漂う黒球に引き寄せられて地面にズリズリと足跡をつけながら後退していく。
デイルは剣を地面に突き立てて、なんとか耐えてる状態だった。
そんな黒球がプカプカと空中を動く。
「これで終わりだ。」
デイルの上に移動した黒球がデイルを空中へと浮かせる。
踏ん張っていた所に、急に違うベクトルの引力がかかってバランスを崩して浮かび上がった。
グイグイ黒球に近づき、黒球に当たったと思うとバンッと音を立てて風によって吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた先に違う黒球があり、それにも引き寄せられると今度は突如出現した炎に焼かれて、また飛ばされた先の黒球に‥‥‥
その過程でデイルがウェインにもぶつかって、そのループに巻き込まれる。
「ぐあああっっ!!」
「くそがぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
十分な時間が経ち、俺が魔法を解くと二人は見事なまでに気絶していた。
やり過ぎたかも‥‥‥と俺はちょっと反省したのだった。
二人の遺体(死んでない)を片付けて、ルミアの元へと戻ると、彼女がいきなり駆け寄って来た。
結構引かれるんじゃないかと思っていた俺は、そんなルミアの態度に安堵を覚えながら、横から来た何かに吹き飛ばされた。
「ぐへぇっ!?」
お腹に感じる痛みを我慢して飛んできた何かを抱き留めたまま、地面を擦って止まる。
「凄いよ!!兄さまの魔法凄かったよぉっ!!!」
「メアっ!?」
「リオル様の魔法はとっても凄いと思います!!」
とても興奮した様子で俺の腕をブンブン振り回すルミアに護衛隊長もどうやって止めればいいのか狼狽えていた。
「よっしゃぁ〜!!仮にもA級とB級の実力者の対戦が見れた訳だし、思ってた以上にもう時間が経ってる。
そろそろ帰ろっか?」
「分かった!!えいっ!」
メアが俺の右手を握って来たので優しく握り返す。
そんな様子をチラチラ見る可愛い仕草を見せるルミアに、左手を差し出すと手を気遣う様子でキュッとメアよりも優しく握った。
そんな様子を見て、メアがルミアに突っ掛かるといった茶番のような事をやりつつ、俺達の日常が終わったのだった。
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