乳児期
俺が産まれたらしき日から大体2ヶ月経った。
毎日毎日、ゴロゴロして、ミルクを飲んでるだけの生活を送っていた。
なまじ記憶があるだけだったのでニートっぽいのが微妙に辛い。
危ないメイドのミアさんが主に俺の世話をしてくれた。
危ない人でも美人で責任感がある。
結構頼りになる‥‥‥といいな。
そう期待するよ。
それはともかく、この世界はコートンと言うらしく、西の教国エルレミア、北のノスティルン、東のイルタニア、南のウェリントン。
家は――屋敷は――結構高い場所にあるのか、遠くの建物や景色が良く見えた。
うん?何かここを中心に都市が広がってる気がするな。
まあ、勘違いだろう。
筋肉がまだまだ発達していないので長くは動き回れない。
四つん這いでパタパタと動き回ると直ぐに変態メイドか普通のメイドがやって来て寝かせる。
俺はあうあう言いながら動いていた。
5年経って更に色々知った。
どうやら俺は何処かの貴族の次男坊として産まれたみたいなのである。
ほぼ毎日、豪華な服に綺麗な宝石を着けた大人が俺の父と母に、膝をついて恭しく腰の低い態度で接していた。
あれ?本当に貴族?
同じ貴族にこんな態度されるとか。
多分、貴族の中でも最高位の公爵とかなんだろう。
どちらも多忙のようで、朝早く起きては何かの書類にサインをして、昼も夜も何かしら誰かと会って話しているようだ。
それでも、夜遅くになるとこっそりやって来ては俺を見守ってくれている。
どちらも美男美女なので俺の容姿が非常に気になるがそれはそこまで重要事項じゃない。
端的に言うと、そこまで興味がない。
ブス過ぎて苛められるとかが無い限り別に良い。ちなみに髪の色は銀色だ。
兄は俺の5つ上らしく、ときどき遊ぶ機会がある。2つ下に妹もいる。ときどき妹の世話をして、じゃれついている。
とは言え、一応勉強もしている。
貴族らしく、食事の仕方や歩き方や言葉遣い等の礼儀作法、帝王学と言う国の治め方、体術や魔術。
何と素晴らしいことに魔法があったのだ。まあ予想はしてたけど。
この事を知ったときは小躍りしそうな気分になったが、立つのも覚束無い筈の子供がいきなり踊り出すのは軽くホラーなので我慢した。
そうそう、忘れていたけど俺の名前はリオル=シルヴェリアと言う。
勉強や遊んでる時に聞いてみると、家名を持つのは基本的に貴族のみらしい。
自分が貴族とか言われても実感が沸かないが、お手伝いさん(メイド)がいる時点で裕福なのは分かっていたからさほど不思議でも無い。
そして俺は、あの危ないメイドの膝に座って、本を読んでもらっていた時だった。
「異世界から召喚された勇者は、その時代の聖女や拳聖等の強力な仲間と共に魔王城に攻めました。
多くの魔物を倒し、様々な困難を撃ち破り、勇者は見事魔王を討ち滅ぼし、世界を平和へと導いたのでした。
おしまいおしまい。」
これは、昔からこの国に伝わっているお伽噺と言うか昔話である。
最低でも5~700年前の話だ。
だがどう見ても地球と分かる食事(焼きそばパン、ハンバーガー、寿司)が結構沢山あったので、時間軸が地球とは違ってると思う。
滅多に無い城の外に出る機会に、食べてみたが少し味が独特(この国の材料を使っているからだと思われる)なだけで旨かった。
この時から俺は家の外に興味が強くなった。
そして、父親にこう言った。
「外で暮らしたい」と。
最初は直ぐに諦めると思ったようだが、俺の強情な態度に遂に諦め、「そうか、そこまで外に行きたいのか‥‥‥。ならば魔法でファイアーランスが、剣術でクロス=ストライクが出来るようになれば許してやろう。」との条件を出してきた。
因みに、魔法でファイアーランスは中級魔法で本来なら才能のある子供が15歳で出来るようになる難しさで、クロス=ストライクは移動しながら一本の剣でⅩになるように放つ技で、足さばきと剣のスピードの二つが要求されるので、Aランク冒険者への昇格試験時に採用されてるほどだと言う。
つまり、無理難題。
少なくとも成人するまで出す気は殆ど無いと言うことだ。
意地が悪いと思いながらも、禁止されると破りたくなるのが人間というものだ。
この日から俺は魔法と剣をもっと強いと思う人に教わるようになった。
「はい、魔力を手ではなく4本の指に集めてください。
そこからはいつも通りイメージです。
本来なら詠唱なんて要らないんですよ!
槍が炎となって飛んでいくようイメージするのです!
魔力操作があまい!!もっと細く絞り込むように魔力を練るのです!」
魔法はでかい屋敷の中のある一室で何時も研究しているメリダと言う名の女の人に。
「足ではなく足の指ですな。力を込めるのは。
‥‥‥ああ!違う違う。まあこればっかりは毎日の積み重ねが大事だからしょうがねえですな。
剣は毎日素振りして身体に慣らしていけばもっと滑らかに動きますぜ。」
剣術は毎日毎日、他の剣士を叩きのめして高笑いしているアーリッドと言う名の大雑把な剣士に。
こうして、元々小さい頃から感じていた魔力を把握し、自由に動かすことが出来るようになり、身体も日本の体操選手並みにまで動かせるようになった。
その間5年。
端折り過ぎ?
知らんな。
多少特殊な事をして、基本的に同じことを延々としてただけだしな。
先ず魔法の鍛練の場合
①座禅を組んで身体の内の魔力の流れをコントロールして下に放出して身体を浮かせる鍛練。
②魔力を属性に変換しないで体外に留める。
それを物質化。
③魔方陣の書き方、魔力の込め方等の勉強。
④魔法の威力を制限する腕輪を着けて生活する。
剣術の鍛練の場合
①肉体の鍛練(腕立て、腹筋、スクワット、走り込み)。
②重りを着けた状態で10キロ位の鉄を素振り。
③魔力を全身に巡らせて身体強化の鍛練。
④魔獣を監督付きの元で試し切り。
そのお陰で結構強くなった感覚はある。
おかげで父に出された条件をクリアした。
最後にメリダとアーリッドに戦って貰いたかったが、忙しいとのことだったので諦めた。
そして父に言った。「父上、私はファイアーランスとクロス=ストライクを習得致しました。
お約束の通り、この屋敷の外で暮らす許可を。」
この仰々しい喋り方は、鍛練の合間にメイド達に「坊っちゃん。貴方はシルヴェリア家の息子なのですからそれ相応の品位が必要になる場面がありますので。」と言われて強制された。
こういった大事な場面では使うようにしている。
「‥‥‥はぁ~、仕方無い。
あまり乗り気はせぬが許可はしよう。
しかし家はどうするつもりだ?生活に必要なものくらいならこちらで用意してやる、リオルについていきたいと言う者がいるのならばそちらも許可しよう。」
「大丈夫です。父上。アーリッドの訓練時に外に出たときに、既に決めております。」
そう言うと顔をしかめて、どうしようもないと言う風に頭を横に振る。
「メアが遊びに行くかもしれんから気をつけるのはそれだけだ。」
メアは俺の2つ下の妹だ。
髪も俺と同じで銀髪で、顔立ちの整った将来美人になること間違い無しの女の子だ。
訓練の無いときによく遊んであげた。
そのせいか俺によくなついて、俺も出来る限り構ってあげた。
最近は行動力が出てきたので外で暮らしている俺の元に来る可能性は十分にある。
最初に外で暮らしたいと言ったら大泣きしたしな。
「分かりました。メアには来るときは事前に連絡してほしいと伝えます。」
「そうか‥‥‥気を付けろよリオル。」
最後に父親の顔になった。
「はい!ありがとうございます!」
こうして外で暮らすことになった。