対面
すいません。本当にすいません!
目標を最初から達成出来ませんでした。
遅くなって申し訳ありません。
「んぅ〜っ!!」
俺は自分のベットから起きて、身体を伸ばす。
まだ疲れが取れていないのか、ポキポキと背中から良い音が鳴った。
ここは王都における俺の部屋のベットの上だ。
俺は帰ってから簡単に食事と風呂に入って直ぐに寝た。
一晩経つと、やさグレた俺の心もさざ波のように落ち着いて、何事も無かったかのように平常運転である。
ベットから抜け出すと、パパッとラフな服に着替える。
どうせこの後に城で、堅苦しい皇子としての正装に着替えさせられるに決まっている。
それまでは楽な格好でいたかった。
「おや?リオル様。
朝食はどうなさいますか?」
「え?ん〜今日は重要な日だから城で食べる事にするよ。」
「分かりました。それでは馬車を用意させますので少々お待ち下さい。」
使用人の一人が水晶に何か話し掛けると、数分も経たずに質素な馬車が家の前に止まった。
王族や貴族のような身分の高い人物がお忍びで使う、外見だけ質素な偽装馬車。
人目につかない様に素早く馬車に乗りこむ。
「それでは出発致します。」
それだけ言うと無言で馬車を走らせ始めた。
王族に対する態度としては不適格なのだが、逆に親しくすることの方が問題であるし、謙り過ぎるとそもそもカモフラージュの役目が果たせない。
「今日は婚約者様との初顔合わせとなりますので、手順は王様が直接ご確認なさる事でしょう。」
「オッケー分かった。」
窓の外からそう俺に言うと、ミアは深くお辞儀をした。
それを確認して、窓を閉めると馬車はゆっくりと城に向けて走り出した。
城門の前まで来ると、同じ様な質素な馬車が門番に止められて、行者がなにか文句を言っているようだ。
その横に止まっても中々門番がやって来ない。
少し待つと門番がやって来たので、窓だけ開けて顔を見せる。
俺はそれだけで顔パスだ。
「むっ、リオル様。対応が遅れて申し訳ございません。」
「いいよ。それで何があった?」
「はっ!実は他国の御方なのですが、まだ確認が取れておらず‥‥‥お待ち頂いている所なのです。」
なるほど。
確かに護衛や騎士の立場としても馬車の中でずっと待たせておく訳にはいかないが、許可が取れないと門番にしても動きようが無い訳か。
「なら俺の名で応接間までを許可しよう。
王城に来れるくらいならば、それ相応の身分の持ち主だから丁寧に対応しろよ。」
「ははっ!」
サッサとトラブルに対応し、終了させる。
最近思った訳だが、転生してから、こう‥‥‥両者の落としどころを探ったり、見つけるのがすごく簡単なのだ。
昔は友人が喧嘩をしていても、落ち着けよ、とか何があったんだよ、とか言って有耶無耶にしていたタイプだったから不思議でならない。
「まぁ、いっか。
それで父は何処に?」
「王様は少し前にお目覚めになられたところですので、今は丁度、朝食の時間帯です。
ご案内致します。」
「ありがと。」
思考を切り替えて近くのメイドに尋ねると、どうやら案内してくれるようなので、素直にメイドに付いていく。
ドンドン進んで行くと、普段から外で生活している俺には、城内は半ば迷宮のようなものだ。
て言うかこっちの方には特に何も無かったはずの通路へと進んで行く。
「あれ?何かどんどん使用人達が少なくなってない?」
「いえ。こちらにはリオル様の正装が用意されておりますので、着替えてから王様へとお目通りさせて頂きます。」
「‥‥‥」
変だな。
メアからは一応、ボロが出るからって直前までは着替えなくても構わないと聞いてた筈なんだが‥‥‥と頭の片隅で思う。
「おい。俺の記憶ではこっちには何も無いはずなんだけど?
それと俺が正装に着替えるのはもっと後って聞いてたけど変わったのか?
その場合、俺に報告が来るのは変じゃないか?」
「‥‥‥なんの事でしょうか?」
背を向けたまま止まる事なく返答が来る。
流石にこの態度は王族に向けるには無礼だ。
「あのなぁ〜。お前王族の俺に向かってその態度は‥‥‥」
俺が注意しようと口を開くと、小振りの食事用ナイフが顔目掛けて飛んできた。
驚きながらも咄嗟にナイフを弾く。
「はぁ?何だよ!?」
メイドに言葉遣いを注意しようと思っただけなのに何故殺されかけているのか、訳が分からない。
更に何十もの刃物や魔法が俺に迫っていた。
その弾幕を“反転”させる。
「うおおおっっ!!??あっぶねぇ〜!!」
とまぁ、この程度の弾幕では掠る事の方が難しい。
全ての魔法は俺の反転結界に触れて放った本人の元に返っていく。
気付けば、執事服に身を包んだ男達が俺を中心にして倒れていた。
取り敢えず脚を自分で放った凶器に穿かれて、ガタガタと震えているメイドに近付く。
いまいち状況は把握しきれていないが、取り敢えず白昼堂々と俺を暗殺しに来たと言うのは分かる。
「それで?お前等の雇い主は誰だ?」
白昼堂々、城に侵入出来る暗殺者が複数所属している組織など限られているし、城内から手引きしたとしても複数人である時点で誰かに依頼されたのは明白だ。
「やぁ、リオルじゃないか。
城を飛び出して行った君が城に居るなんてなかなか珍しいじゃないか。」
気配も無く背後から急に声が聞こえると、バッと背後に振り返る。
声を掛けてきたのは、第四皇子であるアゼル。
母を異とする異母兄弟で、多分王族の中でも一番王位に執着心がある人物だ。
アゼルの後ろには俺が見たことの無い執事が見事な姿勢で控えている。
「急げっ!コッチだ!!」
数人の足音と共にガシャガシャと鎧の音が近付いてくる。
鎧や剣を装備した騎士達が俺とアゼルを見ると、すぐに跪いた。
「リオル様にアゼル様。
今ここにて魔法が検知されました。
僭越ながら状況を説明してもらっても宜しいでしょうか。」
「う〜ん。悪いが今日は用事でな。
取り敢えずコイツラを全員拘束して情報を聞き出せ。
それと状況の説明についてはアゼルに聞いてくれ。」
「畏まりました。
婚約者様のことは存じております。その様なご祝儀の時にこのような雑事で御手を使わせてしまい申し訳ありません。」
騎士達は、そう言って深々とお辞儀をした。
拘束する手腕も手馴れた感じで、どこから取り出したのか、ロープを巧みに操ってあっという間に去って行った。
騎士達に暗殺者達を任せて、やっと父のもとに辿り着いた。
軽く言葉を交わして、まだであった朝食を食べる。
その後、正装に着替えて父の後ろに付いて行く。
どうやら会う場所は決まっているらしく、相手方の家族と共に個人的な会談の様な形式になるようだった。
そこで俺に求められるのは婚約者と親交を深める事だろう。
婚約者同士の相性が合わなければ、最悪取り止めという自体もあり得る話だからだ。
「さて、まぁ今更言うまでもないが準備は良いか?
彼女とは人生を寄り添うのだから、本性を容赦なく晒しても良いぞ。
だからこそ個人的なものだ。」
「え?なら俺が隠れて冒険者やってる事も言っていいんですか?」
「構わん‥‥‥が、家の場所や変装の様子にその為の魔道具については言うのを禁ずる。」
まぁそこら辺に関しては暗殺対策等の理由だったりして、城の中でも一部の人しか俺の家の場所を把握して無い、という程度には厳重なものだ。
特殊な魔法やら技術やらをふんだんに詰め込んで、案内が無いと辿り着けなかったり、場所を覚えられなかったりするらしい。
「さぁ着いたぞ。」
「お邪魔っしま〜す!」
猫かぶる必要が無いから、最初から遠慮無しに気安い感じに行く。
自分でもどこぞの陽キャみたいでアレだが、この程度でグダグダ言うなら婚約など成立しないだろう。
意気揚々と扉を開ける。
「はい。どうぞ‥‥‥あれ?」
「ん?」
何処かで聞き覚えのある声が聞こえて、その方に振り向く。
そこには見覚えのある蒼髪で、ウェーブの掛かったショートヘアの優しげな顔の美少女がいた。
その美少女と俺はお互いの顔を見ながら同時に言った。
「俺とどこかで会ったことってあります?」
「リオ君!?」
4話を修正致しました。
偽名リオで通します。