ゴブリン軍勢の襲撃
朝日が昇る気持ちの良い朝を迎えて、俺はベッドから起き上がって背伸びをする。
昨日の夜遅くまで幽体で活動していたが、その記憶はまるで夢を見ていたように朧気だが、思い出そうと思えばハッキリ思い出せる。
「う〜ん。よく寝た〜。」
ググッと背伸びをする。
安物のベッドだとここで背骨が心地良くポキポキと鳴るものだが、適度に反発性を持った高級とまでは行かないものの良質な素材を使っているベッドではそれも無い。
「リオ君〜。起きてる〜?ご飯出来たから着替えたら下に降りてきてね〜。」
大抵の宿屋にはいる看板娘の女の子の声を聞いて、俺はいそいそと寝間着から着替える。
なお、女の子が言ったリオと言う名は俺の一応の偽名だ。
着替え終わり、最後に髪の色を変える魔道具を装着して、下へと降りる。
「あ、おはよう!リオ君!!」
看板娘の子(常連の人からはアリアちゃんと呼ばれている)が近づいて来て、楽しそうに俺の髪をワシャワシャと撫でる。
「あ〜この髪サラサラで羨ましい。
リオ君ってどこかの高貴な家柄の御子息様だったりしない?」
そう言いながらギューと抱きしめるアリアの小さな胸が押し付けられる。
だが俺は慌てる事は無い。
俺の身体は、汗はフローラルな匂いがして、髪は汚れてもサラサラ、こういう風に胸を押し付けられても何故か全く興奮しないのだ。
「まさか!俺にはそんな生き方似合いませんよ。」
嘘は言ってない。
生き方が似合わないだけであって、高貴な身分では無いとは言ってない。
王族や政治に関わる者にとっての必須能力である言質を取らせない言い回し方を俺は特に意識することなく言える。
「確かに貴族様が子供を一人でこんなとこに行かせる訳ないものね。」
「貴族って自分のプライドとか体裁を気にしますからね〜。
貴族のご子息が勉強もされずに放浪してたら、もしかしたら過激な手段を取るかもしれないですからね。」
これも警告の意味を持たせている。
言ったら危ないかも知れない。と思わせるだけで良いのだ。
この会話をしながらも、プニプニと俺の顔に胸が当たっているが、羞恥心も申し訳なさも一切感じないし、動悸が速くなったりもしない。
ギリギリと歯を食いしばって血の涙を流している常連さん達の視線が気になる。
「それもそうだね〜。
それじゃあ朝ご飯用意しておくから空いてる席に座ってて。」
タタタッとアリアが厨房の方へと小走りで駆けていく‥‥‥途中で床が滑りやすくなっていたのかツルッとアリアがコケそうになった。
咄嗟に手を伸ばして、アリアの身体を支えると、フニッと手に柔らかい感触が‥‥‥。
「フェッ!?」
「っ!?キャッ!!」
態勢を整えたアリアが不意の事に顔を真っ赤にしていたが、俺はそれの比較にならないほどの羞恥心と動悸に襲われていた。
すぐにパッと胸から手を離して、赤くなった顔を隠そうと俯く。
「じゃ、じゃあ私はお食事持ってくるから静かに座って待っててね!!」
そう早口で言い終わると、さっきの失態も忘れて小走りで厨房の中へと走り込んで行った。
俺は初心な子供のように、顔を真っ赤にしながら机に突っ伏して悶えていた。
「はぁ?何でだよ?なんでモロに当たってたときより、ちょっと触れたくらいでこんなに恥ずかしがってんだよ?」
自問自答しながら、悶々とする。
まだ10歳だから肉欲に結びつかなかっただけで、かなり恥ずかしかったし、凄い焦った。
「身体は妙に清潔に保たれてるし、ハイスペック。
政治に必要な腹の探り合いを素で出来るし、今の情緒不安定な感情の揺れはちょっとおかしいな。
そう言えば父さんも母さんにデレてる時もあるけど、全く無表情の時もある。
もしかして俺の血筋って情緒不安定なのか?」
と割りと真剣になやんでいると、アリアが普通の街娘から看板娘へと切り替えたのか、何も無かったような顔で朝食を持って来た。
朝食べるのはキツそうな肉をガッツリ食べて、予定通りに冒険者ギルドへと向かった。
ギルド内に入ると、冒険者が朝からチビチビ酒を呑んでたり、酔い潰れたりしているだけで、王都のギルドと違って全く活気が無い。
受付をしている女の人も、奥の方で何か作業している男の人も疲れた顔をしながら黙々と作業をしていた。
「あの‥‥‥すいません。」
出来るだけ初めての場所に来て、オドオドしている子供を演出する。
「あ、ごめんなさい。冒険者ギルドへどういったご要件ですか?」
「えっ‥‥と、最近ここに来たんだけど、お母さんがこの街は今危ないから移動するんだって。
それで‥‥‥えっとゴブリンが出てくる場所をここで聞いて来てって。」
とそれっぽい言い訳をその場で考えて、言う。
「う〜ん。お母さんは今どこに行ってるのか分かる?
出来ればお母さんと一緒に聞いてほしいんだけど‥‥‥。」
「でも‥‥‥お母さんは移動の準備するってあちこち動いて、どこにいるか分かんない。」
う〜んと少しの時間悩む様子を見せたが、やがて諦めたようで、淡々と話し始めた。
「いい?よく聞いて覚えてね?
王都方面への道は他と比べたら比較的に安全だけど、今日は王都の逆側にあるゴブリンの巣へ強い冒険者さん達が攻め込んで危なくなるから、絶対に外に出たりしちゃ駄目よ。」
「は〜い。お母さんに言っておくよ〜。」
「一応、門では通行止めしてるけど‥‥‥あ‥‥行っちゃった。」
俺は攻め込むと言う報告を聞いて、急いで王都と反対側の門へとやって来た。
屈強そうな男達が武器を振り上げて、自らを鼓舞している様子は、全員が闘気に満ち溢れている。
彼等ならば、余程のことが起きない限り普通のゴブリンくらいならば巣を3つ壊してもお釣りが来る戦力だ。
特に彼等をまとめている金髪で40歳くらいのおっさんは、Aランクの冒険者だった。
「この戦力なら別に心配する必要は無さそうだな。
多分、王都近くまで来てたゴブリンはこれで終わるだろうし、明日には婚約者と会わないといけないから帰る前に観光しておくか。」
色々見て回ったりしたが、ちゃんと観光できていなかった。
手始めに俺は近くの果物屋に入って、家でも食べたことの無い果物の味に興奮したり、その食べっぷりから果物屋の妙にガタイの良い店主と意気投合したりしていた。
ゴブリンの巣では、大量のゴブリンがヨダレを垂らしながら興奮していた。
なかなか動かなかった彼等の王が、たかだか一匹の同胞が戻って来なかっただけで、あの食料庫を襲う事に決めたからだった。
「グギギギギャガガ!!(4つに分かれて食料庫を襲え!!)
グギギ!!ギャググッ!!(犯せ!!殺して喰らえ!!)
グギャアアア!!!(蹂躙し、我等が王国を築くのだ!!)」
グギェ!!(進め!!)と言う王の号令に従い、ゴブリン達は巣から掘り進められた4つの通路を各々進んでいく。
ゴブリン達はこの先に人間と人間の女がある事を知っている。
だからこそ、何があってももう止まらない。
草によって隠された通路から飛び出し、ゴブリン達は歓喜の雄叫びで鳴いた。
ゴブリン達は近くで移動していた商人の馬車に襲い掛かる。
大量のゴブリンが、荷を滅茶苦茶にして、繋がれた馬に噛み付く。
馬は暴れてゴブリンを何匹も踏み潰すが、それを補って余りある大量のゴブリンがなだれ込むようにして馬を殺した。
すぐに異変に気付いた衛兵が迅速に扉を閉める。
「ギャガャ!!(壊せ!壊せ!)」
ドンドンと乱暴にゴブリンが扉を殴る。
そして大量のゴブリンは四方から街を包囲した。
そしてゴブリンの集団を裂いて現れた通常のゴブリンとは比較にならない威圧感を持つ化物がドスンと重々しく荘厳なイスに腰掛ける。
そしてそれが放つのは宣戦布告だった。
「我等ゴブリンは貴様等を蹂躙し、殺して犯して喰らってやる。
安心して逝くが良い。」
と、そう告げると同時に四方の門がバキリと壊れる音が、街中に響き渡った。
ここで言いたかったのは、最初から彼の身体は普通と違かったという事です。
理由は後ほど、本格的に改造する時にでも。