第2話 英和辞典(メイド)は学校へ行きたがっている。
「私はメイドになってしまいましたけど、今まで通り、英和辞典としても使えるんですよ」
カレンは唐突に言った。俺は、学校から帰り、カレンの入れてくれた紅茶を飲んでいる。
「英和辞典の内容が私の頭に知識として入っているんですよ。だから、これからも勉強面においてもご主
人様の役に立てると思います。」
家で英語を教えてもらうのはまだいいとして、このメイド、英和辞典を学校につれて行くのはまずいだろ
う。と思っていると、
「なので、学校でもよろしくお願いします。ご主人様。」
「俺もカレンといつも一緒にいたいよ。でも、学校にいるときも一緒にいるのはまずいと思うんだけど・・・」
「どうしてですか、ご主人様。私は学校でもご主人様の役に立ちたいと思っているのですが・・・」
「カレンのことを英和辞典だと信じてくれる人はこの世に存在しないと思うんだけど。」
カレンが学校に行きたがっているのはわかる。だが、俺が恥ずかしい。俺がいきなりこんな美少女をクラ
スに連れてきたらどんな反応があるだろう。
「では、どうしましょう。そうだ!私がご主人様のクラスに転校生として行くのはどうでしょう?」
その答えは予想していた。こういう展開は漫画やアニメにもありがちだ。
転入手続きなど気にしない漫画やアニメはともかく、カレンはどうやって転校してくるのだろう?
カレンは俺の考えを見透かしたように、こう言った。
「ご主人様、私がどうやって転校してくるのだろうとお考えですね。心配ございません。私がご主人様の
双子の妹であると思い込ませる魔法をクラスの皆さんや先生にかけたいと思います。」
ご都合展開。俺の英和辞典は魔法が使えるようだ。
その魔法で元の姿に戻ることはできないのだろうか。(いや戻らなくていいんだけど。)
同じクラスに双子の妹がいる・・・英和辞典を大切に使っていたら双子の妹ができてしまった。
現代科学(?)は進歩したものだ。しみじみ。
「クラスに妹がいるって、不思議な感じだな。」
「いつものように私に接してくれてかまいませんよ。私はご主人様のこと”お兄ちゃん”って言いますの
で。クラスメイトに”ご主人様はおかしいですからね。」
”お兄ちゃん”
妹がいない俺が一生言われるはずのない、フレーズ。破壊力が半端ない。
「それも十分恥ずかしいな。(ものすごくうれしいけど)まだ”ご主人様”も恥ずかしいのに。」
「いいではないですか、ご主人様。いえ、お兄ちゃん。」
こんなカレンもいいと思ってしまった。
新しい学校生活、それは英和辞典を学校に持って行くこと。別に今まで通りで特別なことではない。
だけど、英和辞典が俺の学校生活を楽しくさせてくれることに期待した。
さて、そろそろ風呂にでも入ろうか。
「俺、先にお風呂に入ってくるよ。夕飯はその後かな。」
いつもなら(そんなに日はたっていないが)、”それじゃあ、買い物に行ってきますね。”というカレン
だったが、今日は違った。
「き、今日は私がご主人様のお背中を流しましょうか。」
感情を持たなかった俺の英和辞典(それが普通だけど)が、顔を赤くして言った。