キリストの生まれ代わり27
「しかしあのような非常事態に在って憔悴恐怖感や無念さの無い人間など皆無でしょう。それを克服し達観し戦線に赴いた彼らの侍魂は報われないのでしょうか。それは崇高なる魂の昇華、心の息吹だと思いますが、違いますか?」と私は反論を重ねた。
続けて私は言った。
「しかし特攻隊員の殆どの者がヒロポンをやっていたというのも風評に依るデマであり、現場検証も出来ない今、確かな論拠もないのではありませんか?」
キリストが顔をしかめゆっくりと顎を引き頷いてから答える。
「それは認めます。私も架空の絵空事を根拠にものを言っていました。ここは貴方の言う(きけ、わだつみのこえ)に則り話しを進めるしかありませんね」
私は恭しく頷き話しを続けた。
「彼らはその見識の高さで、今自分が巻き込まれている戦争が敗戦に終わる事をも予想して激烈なる戦線に赴いたわけです。虚無感と己の宿命の狭間で揺れる心はひたすら苦悩し、疲弊し切った後の達観、特攻敢行だったわけです。そんな彼らの行為は報われないわけですか?」
キリストが答える。
「いえ、無念の心情さえ無ければ報われます」
私は眼を細め反論を重ねる。
「しかしあのような非常事態に在って憔悴恐怖感や無念さの無い人間など皆無でしょう。それを克服し達観し戦線に赴いた彼らの侍魂は報われないのでしょうか。それは崇高なる魂の昇華、心の息吹だと思いますが、違いますか?」
キリストが息をつきおもむろに答える。
「いえ、報われるでしょう…」