# bridge – 1
# bridge – 1
金園愛莉は、早起きが苦手だ。
毎晩夜更かしをしている訳でもなく、寝つきが悪い訳でもないのだが、朝の目覚めがとにかく悪い。目覚ましを何回も鳴らしたり、ベッドから遠くに置いてみたりと色々工夫を凝らしてはいるが、毎朝布団と言う名の天国から抜け出すことが出来ず、全ては無駄に終わっていた。
その所為でいつもギリギリの時間に家を出る破目となり、朝からシャキッとしている紫乃と登校するという行為は、小学校を卒業して以来一度たりとも実現していない。
そんな愛莉が紫乃と肩を並べて登校している今日と言う日は、正に奇跡としか言いようのない珍事であった。
「いやぁ、早起きって素晴らしいね! 今日も空気がおいしいよ!」
「……本当に、愛莉ちゃんですよね?」
「紫乃ちゃん! 私は、この世に一人しかいないよ!」
「そ、そうでよね……まさか、愛莉ちゃんとこの時間に会えるとは思っていなくて……」
「私だってやるときゃやるのよ! 何てったってアイドルだからね!」
「……そうですね。私達、アイドルになったんですものね」
「そうだよ! しかも、今日から早速レッスンが始まるんだよ? 本格的にトリニティトリガーズが動き出すんだよ! くぅぅ、楽しみだなぁ!」
驚きの連続だった昨日の説明会から一夜明け、愛莉と紫乃を含めた五人のアイドルグループ“トリニティトリガーズ”は、今日からデビューに向けてのレッスンを受けることになっていた。愛莉と紫乃は、学校が終わり次第プロダクションビルに向かう予定となっている。
「でも、愛莉ちゃん。レッスンって、一体何をするのでしょうか?」
「何って、それはもちろん歌とダンスのレッスンに決まってるよ! どっちもアイドルにとっては基本中の基本! それが出来なきゃステージには立てないだから!」
「ダンス、ですか……」
「ん? どうしたの、紫乃ちゃん?」
「その……歌はいいんですけど、ダンスはあまり得意じゃないので……」
「大丈夫だよ! 紫乃ちゃんはリズム感良いし、小さい頃はバレエもやってたじゃん!」
「えっと……そう言うことではなくて……」
「じゃあ、どういうこと?」
「そ、それは……」
紫乃は何故か恥ずかしそうに言い淀む。チラチラと目線を動かし、それだけで愛莉に何かを伝えようとしていた。
愛莉はその目線の行く先を注意深く観察する。愛莉の顔と、ある場所を右往左往する紫乃の視線。そのある場所を特定した愛莉は、それが何を意味していたのかをようやく理解した。
「なんだ、そのことか! 大丈夫だよ! ダンスって言っても、ヒップホップみたいな激しいやつじゃないと思うから!」
「そうなんですか?」
「だって、アイドルはダンスをしながら歌も歌わなきゃいけないんだよ? 激しいやつだったら、まともに歌も歌えないよ」
「ああ、それもそうですね」
「そうそう! だから、胸が大きくても大丈夫! むしろ、私にとっては羨ましいよ。私のも、もうちょっと成長する予定だったのになぁ」
「大きくても良いことなんてありませんよ。重いだけで、面倒なことばかりですし」
「そんなもんなのか~。でも、一度は経験してみたいよね~」
そんな話をしながら、通学を進む愛莉と紫乃。数年ぶりに見る落ち着いた朝の景色と、放課後に待っているワクワクとで、自然と会話が弾んでいった。
そうして気が付けば、太陽に照らされる校門を通り過ぎ、目の前には高校の昇降口が迫ってきていた。多くの生徒達が互いに挨拶を交わしながら笑顔で登校する、学校特有の朝の風景が周囲に広がっている。
「へえ、みんな朝早いんだね!」
「……愛莉ちゃん、もうすぐ八時ですよ」
「え……」
愛莉達の高校では、一時間目の授業が八時三十分から始まることになっている。その前には必ずホームルームがあるため、大体の生徒は八時までに登校を終えるのが基本だ。
「あ、あははは……じ、じゃあまた放課後に迎えに行くから! 学校ジャージとか、用意して来た物学校に忘れて行かないようにね!」
「はい。ではまた、放課後に」